文化財級 交響曲
作曲家 エクトル・ベルリオーズ
曲名 劇的交響曲「ロメオとジュリエット」抜粋
指揮 レナード・バーンスタイン
演奏 ニューヨーク・フィルハーモニック
録音 1959.10.26 30thストリート・スタジオ
プロデューサー ジョン・マックルーア
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.6
商品番号:SM2K 47526 ソニー(CBS) ステレオ 
解説
目を見張るリアリティとクオリティである。録音の時代を考えると、この鮮度の高さは驚異としか言いようが無い。ステレオ技術がようやく軌道に乗ってきた頃であることを鑑みれば、むしろ、こうした手探りの時代ならではの生々しさが記録されたのだとも言える。
30thストリート・スタジオは、EMIのアビーロード・スタジオと並んで、巨大な空間を確保したアンビエンスの良いスタジオホールであると評価されていた。当時のバーンスタインはこのスタジオを使うことは稀だったが、この録音は見事にスタジオの特性を捉えた貴重な成功事例となっている。
空間の広がりはもちろん、奥行感も充分に表現されており、オーケストラの奏者の気配や、会場のノイズ(椅子の軋む音)なども赤裸々に捉えられている。また、アンサンブルをまとめる呼吸なども感じ取ることができ、特別な機器の無かった時代であるからこそ、このような原音に忠実な音像表現を成し得たのだと理解できる。
ホールトーンはスタジオの空間を感じさせる伸びやかさがあり、pからfまでオーケストラの表情や色彩を見事に包み込む余裕がある。ステージレイアウトもマイクが捉えたあるがままの定位感を示しており、各楽器が自然に配置されている。リアリティも申し分なく、弦セクションが若干近接的に処理させれていることが気になる程度で、全体のまとまりを損なうものではない。
一方、ダイナミックレンジは、pでの余裕のある音像に比べるとTuttiでのffではオーケストラの音圧が伸びきらず、打楽器やブラスセクションにいま一歩迫力が足りないのが残念である。音質面では時代を超えたクオリティを確保しており、テープの保存状態が大変良好であったことが窺える。
ステレオ初期の50年代は、このレーベルの黄金時代であることは間違いなく、その生き生きとした音の記録は、今聴いてもなんら遜色の無いクオリティに仕上がっている。
この「ロメオとジュリエット」は、シェイクスピアの劇を基にした音楽作品であるが、ベルリオーズにとっては幻想交響曲に始まり、「イタリアのハロルド」を挟んで3作目となる交響曲である。いずれも従来の交響曲手法からはかけ離れたベルリオーズ独特の世界観を展開し、交響詩的な物語先行型の音楽絵巻となっている。多額の借金を背負っていたベルリオーズに金銭的な援助をしたと伝えられているパガニーニに、この作品は献呈されている。
合唱と独唱を用いた、演奏時間90分を要する大曲であるため、全曲が演奏されることはほとんど無い。バーンスタインのこの録音も、管弦楽のみの楽章が取り上げられている。
バーンスタインといえば、1957年にミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」を成功させているが、この物語は「ロメオとジュリエット」を基にしていることは周知のとおりである。当時、録音する楽曲はバーンスタイン自身に選択権があったと言われているが、「ウェスト・サイド・ストーリー」と同時期に、このお世辞にもメジャーであるとは言えない「ロメオとジュリエット」を録音していることも興味深い。ちなみにチャイコフスキーの同名曲は、1957年に早々と録音されている。
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