草履をかくす貉
達者のキヤ坂にいる貉は、通行人にいろいろなことを問いただすので、村の人たちは、あまりうるさいので祠を建てて「若杉さん」といって、神さんにまつった。
この「若杉さん」は、力もあって相撲が好きであった。夜相撲の時などは見物に来ていて、弱い方を勝たせたりした。それで、相撲を取る者は、出る前にこの祠をおまいりした。
また、この「若杉さん」の悪口をいうと、草履をかくした。
ある時、観音堂で婆さんたちが「若杉さん」の悪口をいったら、草履がなくなった。さがしたら法華堂の方にあった。いつか、また法華堂にいた爺さんたちが、悪口をいったら、こんどは観音堂の方にあったということである。
老木の株と相撲を取った相撲取り
達者のキヤ坂の貉の話
むかし、隣の村の姫津に、早船という大名乗(シコナのこと)の相撲取がいた。ある時、小川村の祭相撲に出て優勝して、ご馳走になり、いいきげんで、このキヤ坂を通った。すると、この道を立ちふさいでいる相撲取に逢った。そして、「こら、早船、勝ったというて、そんなにイバるな、上には上があるもんだぞ」という。早船は「なんだと、それじゃ、一番取るか」といって、二人は取り組んだ、そして、朝までかかったが勝負はつかなかった。
朝になって、村の者が通りかかり「早船、こんなところで何をしているのだ」というと、早船は初めて気がついた。大きな木の株にとり組んでいたのであった。
それからのち、早船は相撲を取りに出る時には、このキヤ坂の若杉神社へ草履を脱いでおまいりしたということである。
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