「ほい、お早う御座います。」
「いらっしゃ・・まぁ、どうしたの?その大荷物。」
クーラーボックスを肩からおろして僕は一息ついた。
「今朝オヤジと一緒に市(魚市場)に出掛けて、その足で来たんだ。」
「叔父様は?」
「仕事先の出回りに行ったよ。」
「そうなんだ。兎に角上がってちょうだい。」
彼女はそう言うと上履きを勧めてくれた。

「いや、汚れるといけないから裏に回るよ。叔母さん呼んでおいてよ。」
「??一体何が入っているの?」
「はい、どんぞ。」
僕は蓋を開けて中を見せた。この鮮度と量は伊達じゃない。そう、こ
「まぁっ!おかーさぁーんっ!来て来て!凄いわよぉ。」
感嘆の声を上げる春美。その無垢な声に、つい劣情を重ねてしまう。
自分の下半身が制御できなくなれば一人前の男である。
      byコチャンスキー(宇宙船レッド・ドワーフ号より意訳)
「まぁ何です大声で。あらお久しぶ、っまぁどーいう風でしょ!」
叔母さんも一緒に驚いてくれた。良し!。中には氷を入れて冷やした
小さな生きたエビがひしめいていた。わらわらのうにょうにょだ。


 「行っちゃったねぇ、お裾分けに。」
「お父さんと二人して出掛けたから夕方まで帰ってこないよ。」
予定通りである。邪魔が入らない内に王手を誘う事にしよう。
「そう言えば、あれから上手くなった?」
「ええ。お客さんに相手してもらっているもの。」
「じゃぁ、今夜のお客さんも御相手致しましょうか?」
僕は自分を指さし挑発的に誘った。
「いいけど、負けても怒らないでね。」
彼女は嬉しそうに頷いた。

茶碗蒸しには銀杏が御約束。温泉には卓球が御約束。
軽く体を揺らして僕はラケットを握る。彼女もラケットを手にした。
「ハンディは要らないよ、るみちゃん。」
僕は昔の呼び方で彼女に進言した。
「本当に知らないわよ。」
そう言いながらラケットを片付けると自分のスリッパを脱ぎ、手にした。
「ああ。その代わり昔みたいに賭けたりしないよ。」
勝負は初めから目に見えていた。覇者のスリッパを手にした以上、
僕は右往左往するしかなかった。
「やったぁっ。」
いつも大人しい彼女が、この時ばかりは心底嬉しそうな声を上げてくれる。
僕は昔からこの声が聞きたくて負けていたのかもしれない。

「ふぅ。完敗だね。賭けなくて本当に良かったよ。」
少しわざとらしく賭けの事を話にのせてみた。
「子供の頃は色んなもの賭けされられたよね。」
「そうそう、テレビのチャンネルとか。」
「貰った御菓子の分量決めたりとか。」
「でも結局るみちゃんが勝っちゃったんだよなぁ。」
「殆ど全部だったよね。あの時は御免ね。」
「いいんだよ、けしかけたのは僕なんだし。それよりも一回だけ勝ったのに
 あの約束がうやむやにされたのが悔しいな。」
「え?・・・あ・・あの、あれは.....。」
彼女は頬を赤らめてうつむいた。
「けじめを付けたいんだ。だから、後一回だけ賭けさせてくれないか。」
僕は卓球台を回り、彼女隣に立ち話続ける。
「この一点。君が勝ったら諦める。」
(そんな・・だって・・・でも今なんかに・・でも・だけど・・やっぱり)
彼女は起きるであろうヴィジョンを焦点が合わせられない
オートフォーカスカメラのように、ぐらぐらと心を揺すっていた。
「勿論、ハンディは要らない。何でもありで受けるよ。」
「・・・いいけど、負けても・・怒らないでね。」
彼女は僕がいた側へスリッパを手に歩いて行った。

「じゃあ、いくよ。」
彼女がゆっくり頷く。
方向を定めて予想した動きをさせる為の方向にサーブ。
(来いっ!来るはずだっ!!)
彼女は必勝のスマッシュを
「きゃぁあっ!」
出そうとした途端に豪快にこけた。玉と僕は彼女を追いかけた。
「大丈夫かい?」
「あいたたた・・・・あ、負けちゃった.........。」
彼女は転んだショックと敗北の事実とこれから起こるであろう事への羞恥で
半べそのように顔を赤らめた。
「さぁ、昔の約束を果たして貰うよ。春美。」
僕は半音声を低くして囁いた。
「え、あ、あの、その・・・・うん。」
大人ぶった喋り方に驚きつつも、やっと返事をした春美。
「妻はそんな返事をしないよ。それと僕のことは、あなたと呼ぶんだよ。」
そう、もう始まっている。
「はい・・・・・あな・・た。」
照れくさそうに答える春美。それが実に初々しい。
「じゃあ、汗をかいたから先にお風呂に入りなさい。」
そっと抱きしめて入浴を促す。マニュアル本そのまんまに。


春美が脱衣室にいる際、僕は必死こいていた。
覗きにではない。床掃除にだ。
僕が初めに立っていた場所には春美に気付かれないように
油を塗っておいたのだ。賭事にイカサマは御約束。ちゃぁーんと
何でもあり、って言ったもーん。(鬼畜)
油の染みた靴下を履き替え、僕は抜き足差し足NINJA足で脱衣場に。
入り口で服を脱ぎ、八分立ちの息子をタオルで隠し戸の透き間から
露天風呂の様子を伺う。

春美は気配を感じたのか此方の方を見たが、
気配を殺しているので気のせいと思ったらしく、
そのままタオルを洗面器のお湯に浸した。
いきなり入るか?いや、大声でも上げられたら事だ。
僕は一息深呼吸をして、間延びをした声で呼ぶことにした。