唇亡びて歯寒し(くちびるほろびてはさむし) |
意味:互いに助け合う関係にあるものの一方が滅びると、もう一方も危うくなるたとえ。 |
唇歯輔車(しんしほしゃ) |
意味:互いに助け合って存在していることのたとえ。「輔」はほおのこと。「車」はあご骨のこと。 |
晋(しん)の荀息(じゅんそく)が屈(くつ)産の名馬と垂棘(すいちょく)の璧を贈って虞(ぐ)に道を借り、虢(かく)を攻めさせてほしいと晋公に請うた。
晋公が言った。
「わしの宝であるぞ」
荀息が答えた。
「もし、虞の道を借りることができれば、外の倉庫に置いているのと同じことです」
晋公が言った。
「虞には賢臣の宮之奇(きゅうしき)がいるではないか」
「宮之奇は意気地がないので、強く虞公を諫めることができません。
また、幼いときから虞公に仕えているので、虞公は彼に狎れすぎています。
たとえ諫めても聞きいれないでしょう」
そこで、荀息を使者として道を借りに行かせた。
荀息が言った。
「さきに、冀(き)は無道にも、顛軨(てんれい)より入り、(虞領の)鄍(めい)の三門に攻め入りました。
晋が冀を痛めつけたのは、虞君のためでございます。今、また虢が無道にも、砦を築き、我が国の南邑に侵入しました。
どうか虢を討伐するための道をお貸しください」
虞公はこれを許した上に、先に虞が虢を攻めることを願い出た。
宮之奇が諫めたが聞かず、ついに兵を起こした。
この年の夏、晋の里克(りこく)と荀息が軍を率い、虞軍とともに虢を攻め、下陽(かよう)を滅ぼした。
(中略)
晋公がまた虞に道を借り、虢を攻めた。宮之奇が諫めて言った。
「虢は虞の牆壁です。虢が亡びれば、虞も必ず同じ道をたどるでしょう。
晋の手助けをしてはなりません。敵を侮ってはなりません。
一度貸しただけでもやり過ぎだというのに、二度までなどあってはなりません。
ことわざに言うではありませんか。
『頬とあごの骨は互いに持ちつ持たれつである、唇がなくなれば歯が凍えてしまう』と。
これはまさに虞と虢の関係を言っているのです。」
しかし、結局、虞公は宮之奇の諫言を聞かず、道を貸すことを晋の使者に承諾した。 宮之奇は一族を連れて虞を離れた。この年の冬、晋は虢を滅ぼした。 晋の軍は帰国の途中、虞に駐留すると、そのまま急襲して虞を滅ぼした。
【春秋左氏伝・僖公二年、五年】