2006年4月に、大井川鐵道のSL運転が30周年を迎えました。
そこで、木造駅舎も健在な大井川鐵道の駅めぐりの旅を思いつき、4月9日に決行しました。
桜とSLの組み合わせを期待したのは言うまでもありません。
その「作戦」の結果をレポートします。
最近、旅に出ると必ずハプニングがあります。
今回も当然のように起こってしまいました。
なんと、豊橋方面のJR線が、踏切事故で止まっていたのです!
最終手段は、振り替え輸送とワープの併用しかありません。
おかげで、18きっぷで名鉄に乗るという普段は出来ないことが出来てしまいました!
ただし、ワープで使った新幹線の出費は予定外でした。
まあ、¥2000以内で足りましたから、良いんですけど…。
その甲斐あって、予定のSL急行には間に合いました!
この列車に乗るのは今回で3回目でしょうか。
小学生の頃連れて行ってもらったのが最初でしたから…。
その頃は、ただ面白いとしか感じていませんでしたが、今は懐かしさがこみ上げて来ます。
その日の編成は、電気機関車「いぶき501」付の10両編成でした。
朝10時だというのにお客さんが大勢居ました。
休日だからかもしれませんが、頼もしい限りです。
それでもまだ席に余裕があったらしく、相席ではない席に換えてくれたのです!
大鐵の駅員さんの優しい機転に、始まり早々から暖かい気持ちになりました。
木造の旧客の車内も、暖かさを醸し出してくれます。
資金面で余裕があれば、また乗ってみたいです。
「大井川自由きっぷ」とお弁当代を払って乗り込みます。
お弁当は当然「SL復活運転30周年記念弁当」と「大井川ふるさと弁当」です!
SLの写真が付いた缶入りの静岡茶もおまけで付いてきます。
客車の窓は、ちょっと重いですが全開できます。
カーブ区間の窓からは、必死に列車を引っ張るC11型蒸気機関車の雄姿が見られます。
こんな大量の旧客が居るのもここだけとなってしまいました。
今回、私は家山駅で降りました。
私の乗った最後尾車は、なんとホームからはみ出していました!
こんなにも大量のお客さんが居ることも、大井川鐵道のSLの魅力を物語って居ます。
家山駅は、桜並木の堤防脇の木造有人駅です。
私以外にも、たくさんのお客さんが降りました。
おおかた桜祭りにでも行くのでしょう。
しばらくすると、駅に残っている人はごくわずかになりました。
こんなレトロな保線小屋もあります。
神尾駅の土砂崩れの復旧前に使われた給水塔も残っています。
しばらくしてやって来た「元・近鉄吉野特急車」に乗って次の目的地、田野口駅に向かいました。
この日の2つ目の目的地、田野口駅に到着しました。
この駅では、立派な桜の木が一本、出迎えてくれます。
正面から見ると、駅とは思えない位に地味です。
これが昭和30年代の自然なローカル駅だったのでしょう。
家山駅と同じような保線小屋があり、前には保線用トロッコが転がしてありました。
今は懐かしの竹製架線修理ハシゴも、木製電柱に立てかけてありました。
この駅の魅力は、何といっても駅舎です。
つい最近に、内部が昭和30年代に復元されたのです!
改札側から見ると、繊細な木製の窓枠が魅力的です。
改札ラッチも木製です!
待合室の中や駅長室の中も綺麗に復元されています。
特に、チッキ(鉄道小荷物)の窓口まで整備されているのはここだけでしょう。
都市部だと切符自動販売機に占領されてしまいますから。
この駅の魅力はもうひとつあります。
それが、この「みつや商店」の「静岡おでん」です!
実は、静岡おでんが食べられる店が沿線にあるという情報は掴んでいました。
そして、ついに発見したのです!!
お店自体は普通の駄菓子屋さんに見えます。
しかし、奥にはおでんのカウンターコンロが鎮座しているのです。
おでんのスープは真っ黒で、初めて見たときには驚きます。
しかし、味は本当に絶品です!
とろとろになった串おでんに鰹節の粉末をかけて食べるのが静岡流です。
「とり皮串」と「卵串」を戴きましたが、なんと2本で¥120程度なのです!!
「ちびまる子ちゃん」の世界や、名鉄三河線の旧三河一色駅構内売店を思い出し、しみじみと過ごしました。
そうこうしているうちに、今度は「元京阪3000系・テレビカー」がやってきました。
これで地名駅に向かうことにして、この駅を離れました。
「地名」と書いて「じな」と読みます。
この駅は無人駅ですが、駅舎の形がとても個性的です。
この駅の有名で強烈な個性として、「地名の超ミニトンネル」は欠かせません。
駅ホームの案内板に説明が書いてあります。
それによると、木材輸送用索道(ロープウェイ)の名残だそうです。
実は、この千頭方面以外に、金谷方面にも崩れかけの超ミニトンネルがあります。
そこが後述のSL撮影ポイントなのです。
ここの保線小屋はちょっと大きめです。
中にはガラクタと混じってめぼしい物がたくさん!(盗ってはいけません!)
それ以上に、構内踏切の警報機にご注目を!
なんと、今なお現役の「鐘突き式踏切警報装置・国鉄型」なのです!!
列車が来るたびに「チン・チン・チン…」と郷愁の音色を奏でます。
現在の電子音には到底まねできないすばらしい音です。
この駅のもう一つの隠れた特徴は、委託駅だということです。
しかも、委託先は路地向かいの雑貨屋さんなのです!
タバコの立て看板のすぐ上の窓に、「地名駅出札口」と書いてあるのがわかるでしょうか?
こんな所にも昭和を感じることが出来るのです。
これこそ大井川鐵道の魅力と言って良いでしょう。
犬走りを拝借して5分ほど金谷方面に向かって歩き、前述の崩れかけ超ミニトンネルの袂に向かいました。
そう、ここが大井川鐵道のSLと桜を一緒に切り取れる撮影ポイントなのです!
すでに先客さんが何名かいらっしゃいました。
俯瞰撮影の方の邪魔にならないようにカメラ位置を探します。
そして、踏切継電箱の裏に陣取りました。
そこで撮った写真がこの2枚です。
しばらくして、「C11227」が「さくら」のヘッドマークを着けて邁進して来ました!
運よくこんな大迫力の瞬間をゲットできました。
ぜひとも実際にご覧になってください。
SLの偉大な底力を堪能できます。
安全にはくれぐれもご注意を…。
地名駅に戻り、しばらく待つと、今度は「元・南海ズームカー モハ21001系」がやってきました。
これで次の目的地に行くことにしました。
次の目的地はここ、駿河徳山でした。
当然ながら、大井川本線を上ったり下ったりしての駅めぐりの旅です。
この駅も、風格ある木造駅舎が健在でした。
桜の花の淡い桃色と駅舎の壁のこげ茶色とのコントラストが素敵ですね。
まさに「これぞ日本の田舎駅!」という感じでした。
駅舎の裏に立てかけられている資材が、駅が生きていることを実感させてくれます。
外の雰囲気からもわかるように、この駅には駅長さんが居ます。
それに、駅の脇には現役の保線区があり、作業員さんが工事の準備をされていました。
構内踏み切りも、当然のように現役でした。(大鐵標準装備品?)
桜の下の保線倉庫も、良い感じです。
ちなみに、左写真に写り込んでいる青大将みたいな濃淡グリーンの電車が「南海ズームカー」です。
のんびりと待合室でお弁当を食べていると、いつの間にか列車の時間になっていました。
今度の電車は、また「元・吉野特急」でした。
この時点で、SL以外に今まで紹介した3編成が動いていることがわかりました。
この駅に着いてみて、ちょっと驚きました。
噂には聞いていましたが、スイス風の駅舎になっていたのです!
SL列車では駅舎とは反対側の席だったので気付かなかったのです。
これは、大井川鐵道がスイスの「ブリエンツ・ロートホルン鉄道」と姉妹提携していることを表しています。
アプト式路線とSLの保有というのが共通事項だそうです。
しかし、この駅舎が日本の風景に溶け込んでいる事には、ほっとしました。
最近の機能だけの駅舎より、よっぽど綺麗です。
また、この駅も委託駅で、駅前の雑貨屋・簡易郵便局が出札までも一手に引き受けています。
地名駅と共に、最低区間の硬券乗車券を購入しました。
しかし、地元の子供が騒々しくて長く居る気になれなかったので、20分ほどでやってきた電車に乗って退散することにしました。
それなのに、その子供らが電車にまで乗ってきて騒ぎ出したのです!
「電車に乗って嬉しいのはわかるけど親のしつけはどうなっているんだ!?」
幸い、家山で降りてくれましたが…。
すっかり旅気分を害されましたが、この駅に着いた途端にモヤッと感が吹っ飛んでしまいました。
この駅も、「ぬくり」と読む難読駅です。
まるで田舎の家のようなこの駅舎に惹かれてしまいました。
まさに「一目惚れ」です。
この駅は、一面に広がるお茶畑の片隅の集落の玄関口です。
ホームは低い築堤上にあり、千頭に行く列車は鉄橋へと駆け上ります。
その鉄橋こそ、これから撮影に行く通称「笹間渡鉄橋」なのです。
お茶畑の中のひたすらまっすぐな道を突き進み、藪を掻き分け、やっとのことで撮影ポイントに辿り着きました。
何故ここまでするのかと問われれば、「SLの正面を撮りたい」と答えるでしょう。
また、カーブしている笹間渡鉄橋の特徴を写し込めることも理由の一つです。
丁度よくズームカーが来てくれたので、試し撮りをしました。
その後20分ぐらいでまず1本目が来ました。
朝に乗った「C11312」が牽引する編成です。
この編成は朝は10両でしたが、減車されたようです。
たぶん千頭に置いて来たのでしょう。
最後尾のデキはちょっと余分ですけど、勾配線の大切な助っ人君です。
窓から手を振ってくれる人も居て、こっちも楽しくなります。
さらに15分後、2度目の汽笛が鳴り響き、2本目がやってきました。
今度は、地名で撮った「さくら」マークつきの「C11227」が牽引しています。
この車両こそ、今年で復活30周年を迎えた記念すべき長老です。
ちなみに、現役当時は北海道の標茶のあたりで活躍していたようなので、実際の「さくら」を牽いたことは無さそうです。
なのですが、それ以上に3両目の緑の客車にご注目を!
この色は当然オリジナルではありませんが、なにか物足りなく感じませんか?
そう、この車両は現存唯一の貴重なノーヘッダー車なのです!!
こんな貴重な車両が残っているのも、産業遺産保存に熱心な大井川鐵道だからこそです。
ですが、イベントでアンパンマンに登場する「SLマン」列車を運転した時に塗装変更されてしまいました。
こんな貴重な車両なのですから、ぜひともチョコレート色に復元してもらいたいものです。
撮影後、抜里駅に戻って列車を待ち、やってきた京阪3000系に乗って神尾に行きました。
神尾駅は「神尾たぬき村」があることで知られています。
そして、大井川と崖に挟まれた知られざる秘境駅なのです。
渡る橋が見えない対岸にセメント工場と国道と2,3軒の民家が見える以外に、人が周辺に住んでいる痕跡はありません。
また、トンネルポータルの脇に廃屋(詰所?)があり、秘境感を盛り上げてくれます。
こんな秘境の駅が「秘境駅に行こう!」に紹介されていないというのが意外に思えるほどです。
それ以外にも、2004年度の年末年始に映画化され、一世を風靡したゲーム「AIR」の主人公、神尾観鈴と同姓の駅として有名です。
私はその映画を、「富士」「さくら・はやぶさ」そして「あさかぜ」のお別れ撮影のついでに見に行きました。
とても悲しい恋の物語で、寝台特急が消える悲しさとあいまって号泣してしまいました…。
そんな名作映画の主人公とは裏腹に、この駅は土砂崩れから甦ったのです!
大井川鐵道の職員さんの執念と努力に感謝すると共に、ちょっと因縁を感じます。
ちなみに、名前の「みすず」も飯田線直通の快速列車として健在です。
この駅に寄ってから飯田線の「みすず」に乗るのも良いかもしれません。
神尾駅訪問後、旅の締めくくりに川根温泉笹間渡駅に行きました。
この駅は、もとは笹間渡(ささまど)というちょっと難読ながらシンプルな駅名でしたが、つい最近改名されました。
しかし、駅舎はきれいな黒塗りの木造駅舎のまま残っていてくれました。
元駅務室には小さなギャラリーが開設されていましたが、時間が遅くて見られませんでした。
観光を意識した改革をしながらも、古い物を綺麗にして使ってくれている大井川鐵道の姿勢は、見習うべき立派な事だと思います。
駅舎の取材後、駅から続く遊歩道を通って、駅の名前にもなった川根温泉に向かいました。
この温泉は町おこしの一環として、つい最近になって掘られたもので、ドライブインにもなっています。
ここのお風呂からは笹間渡鉄橋を眺めることが出来ます。
あったかいお湯に癒されて施設内を彷徨っていると、こんな面白い暖簾を見つけました。
とても大きい字で「萌」と書かれているのです!!
耐え切れず大笑いすると共に、「我が家にもひとつ欲しいなぁ」とも思ってしまいました。
これが今回の旅行の顛末記です。
大井川鐵道の沿線には「昭和」がまだまだたくさん眠っています。
あなたも、一度とは言わず、2度、3度と訪問してみてください。
きっとそのたびに、素敵な昭和が出迎えてくれるでしょう。