愛知県碧南市 毎年大晦日に現れる謎の「火の玉」は竜宮からやって来た伝説

碧南の不思議な話

竜宮の松 (りゅうぐうのまつ)

大晦日に海を越えてやって来る謎の球体 老松を粗末に扱えば祟り襲う

竜宮海岸と刻まれた堤防プレート

<毎年、大晦日の晩に大浜熊野大神社にやって来る赤い火の玉。竜宮からやって来ると伝えられる赤い火の玉は、老松の下で消える。その姿で年の農作を占い、村人達は一喜一憂した。ある年に枯れた松を粗末に扱い、祟りは大浜中へと広がっていった> 大晦日の夜、大浜熊野大神社に集まった村人達は西の海を見ながら待っていた。 「おお、見えたぞ!赤い火の玉だ!」  赤い火の玉は微動だにせず、海の上で妖しい光を放つ。 赤い火の玉は、ゆっくりと何かを探すように回転し、後に村人達のいる方角へ向かって来た。 村人の顔がパッと赤く照らし出され、赤い火の玉が、神社で一番の老松前で止まり、根本へと消えていく。 「今年は豊作じゃな!」 村人達は喜び踊った。村では赤い火の玉の事を龍燈と呼び、竜宮からやって来ると信じていた。赤い火の玉の消える松の根本には、古い瓦が食い込んでおり、その瓦は竜宮の宮殿のものだと伝わっていた。 毎年、赤い火の玉の動きで来年を占うのが習わしで、火の玉が消える場所である松を「竜宮の松」と呼び、畏れ敬った。 しかしある年に、竜宮の松は枯れてしまう。迷信を信じない男が薪にと切り倒してしまった。途端にその男の家は離散となり行方知らず。 祟りはそれだけにとどまらず、その年には大浜中に伝染病が蔓延するという事態が起こる。赤い火の玉は竜宮の松が無くなった後もしばらく現れたが、いつしか来ることもなくなったという。

松の根本に崩れた瓦が!

<もはや「竜宮の松」を知る人は誰もいない。「竜宮海岸」と記されたプレートを淋しく眺める。不思議なことに対岸の武豊にも竜宮伝説は伝えられていた。老松に積み上げられた瓦は、現代においても「存在」を暗示させるサインか?!> 大浜熊野大神社の境内にて、出会う人に聞いてみても誰も「竜宮の松」を知る人はいない。 かつての堤防には「竜宮海岸堤防」と刻まれており、確かにこの地には竜宮にまつわる何かがあったと匂わせる。 「竜宮の松」に信憑性を持たせる事柄に、対岸の「武豊」にも竜宮伝説が伝わることだ。武豊には「竜宮神社」や「乙姫橋」、「浦島橋」に「亀の墓」まであるというのだ。やはり竜宮は衣浦湾にあったのか?  龍燈にまつわる歌に「くるる夜の星かと見れば、波ちかき松の梢にともし火の影」が残されている。これはある大名がこの地で船遊びをした際に詠んだ歌。 また大浜熊野大神社の境内には、龍神を祀る祠があり、雨乞いを祈願する5色の三角旗が風にはためいていた時代もあったという。 昭和4年(1929)に発行された大浜町誌には、「毎年大晦日の夜、子の刻過ぎ 海上より漁火よりも赤く點火を見る 龍燈の大きさによって翌年の豊凶を占う」と記述されている。 現代の科学に照らし合わせれば、「セント・エルモの火」と船乗り達が呼ぶ放電現象か、はたまたプラズマの類かと推測されるだろう。だがそれでは夢がない。 「竜宮の松」の痕跡を探ろうと境内を歩いているうち、大人げなく声を上げてしまった。 海のあった時代を知る老松に積み上げられた瓦。 「誰の仕業か?」 私が到来することを予見していたかのような出来事は、存在への暗示か。 赤い火の玉は来なくなったのではなく、ただ私達には、単に見えなくなっただけなのかも知れない。

ヘボト自画像ヘボトの「街談巷説(がいだんこうせつ)」

称名寺から見えた真っ赤な花火

「大晦日の夜には」

「竜宮の松」は明治初期に枯れたといわれている。しばらくは赤い火の玉である「龍燈」は現れたようだが、何時しか来なくなり、そして海も消えた。 私達の先祖が松林のなかで息を潜み、赤い火の玉の到来を待ち侘びた時代から、早100年が過ぎようとしている。 一年の締め括る日である大晦日、臨海工業地帯を忙しなく往来するトラックの姿も消え、また大浜のまちも静寂と漆黒の夜空に包まれている。 午後11時59分59秒に訪れる無音の世界。迎えた新年の夜空に舞い上がる一筋の光は、後に巨大な赤い火の玉となって膨張を続ける。 先人達が待ち侘びた龍燈は、年男達によって打ち上げられる花火へと姿を変えた。 「龍燈が来ないなら…」と大浜下地区の民衆は花火をぶち上げてしまったのである。大きさで豊凶を占うなら、毎年大豊作である。 7つの寺から鳴り響く鐘の音と共に訪れる幻想的な世界に、新しい年を迎えた喜びに満ちた人々。 100年の時を経ようとも変わらぬもの、それは未来への期待である。

< text • photo by heboto >


Copyright (c) 2002-2007 heboto All Rights Reserved
このページに関する御意見・ご感想は【サイト管理者へメール】までお願い致します。