愛知県碧南市 センチメンタルな気分で歩く… 大人の旅がある「堀川蔵前通り」
<堀川南岸に黒蔵が立ち並ぶ通り。かつての風光明媚な情景を少しだけ今に伝える。観光的に手を加えられていない外観は「大人の旅」をする人々の心を打つ。冬の月が美しい夜に訪れてみたい> 堀川南岸の黒蔵が建ち並ぶ情景がクローズアップされだしたのはいつの頃だろうか。 私が物心ついた頃には、既に”公園らしきもの”が整備され、「湊橋夏月」とうたわれた風景は消失していた。 石垣が整然と組まれ、「衣浦遠帆」の情景を形成した帆船が岸に停泊する姿は、旅情を誘う雰囲気であったと聞く。 現在の堀川南岸にある黒蔵群、建造年は不明だが、大浜の海運がまだ華やかし頃に出来たのは確か。 幅2メートルもある格子引き戸に対応すべく、20センチという大きな錠が備えられた入り口。 黒い壁に映えるよう、朱色のアクセントが所々に。かつてはこの蔵前に船を着け、荷を運ぶ人夫が忙しく働いたことだろう。 いつしか活気も消え、長らく静かな通りであった。だが、近年の”情緒”という言葉に再び価値を見出す世相に、この蔵前通りを訪れる人が増えてきた。 「センチメンタルジャーニー」(感傷旅行)に似合う淋しさが何故かこの蔵通りにはあるようだ。
<昭和53年まで木造の太鼓橋であった堀川橋。東西南北、どの方向を臨んでも趣ある風景残る。車の往来少ない、この物静かな橋上でただ目的もなく佇むのも愉しみ> 大浜を「下の切」と区切る堀川3つの橋で真ん中に架かる橋、「堀川橋」である。 橋が架けられたのがいつのことなのかは不明。西端へ向かう蓮如街道と賑わい横町と呼ばれた「錦通」を結ぶ橋で昭和53年(1978)9月に改装される以前は、木造の太鼓橋であった。 その木造時代、私は祖父に連れられてここでハゼ釣りを楽しんだ思い出がある。今では魚の姿さえ見えない堀川だが、約30年前には底の砂地が見える程、綺麗だった。 私以外にも、この堀川橋には人々の想いがあるのだろうか。平行する3つの橋のうちで大浜の風情を色濃く残すのが堀川橋。 物静かな堀川橋の上でただ目的もなく佇む。 微かな潮風を感じ、春には桜の花、秋には柿の実を眺め行く。響き聞こえたるは魚屋の賑わいに、往時、大浜の姿を懐古する。
朝日を浴びて爛々と輝く「黄色い果実」。柑橘系のひとつだと思えるが、詳しくは知らない。 背後にある蔵板塀が実の黄色を際だつ存在へと昇華させ、堀川蔵前通りの情緒を愉しませる。 黄色い果実の下には石垣の残骸。そして砂の小道。昔よく見た貝殻混じりの道。足裏に感じる懐かしき感触と幼き日々に聞いた足音。 まだこんな空間が残っているのかと驚く。薄暗くどこか潮の匂いを感じる砂の道。その先は古い民家の裏を通り、カイヅカイブキある道へ。 美しい帆が消え、大浜八景のひとつである「湊橋夏月」の風情も堀川から消えた今、このわずか1メートルほどの幅の道に往時を偲ぶ。
< text • photo by heboto >