愛知県碧南市 「和」の佇まいに趣ある風情 潤いある境内が魅力の「法城寺」
<長く続く板塀が素晴らしい法城寺。照りつける太陽の光が樹木の葉を透過し、庭の苔と相まって目に優しい緑の世界を創造する。本堂横のガラス戸から拝み見れば、宙に浮いた本尊さん> 三河線の歩行者用踏切を西へ向かうと200メートル程で白い洋館が現れ、辺りの空気に潤いのあるのを感じ取る。 鬱蒼と茂る緑の傘を越えると、板塀が続き「天王山・法城寺」の山門が見えてくる。 繁華街に近いはずなのに、境内はいたって静かだ。そしてなにより境内にある緑が心優しい気分にさせる。 本堂正面の引き戸は閉じられていた。脇のガラス戸から本堂内を覗き見る。西から障子を通して優しい光、坐像の本尊さんが細い台座の上、宙に浮いているように見える。 供えられた丸一個の西瓜と共に「宇宙」を垣間見た気になる。
<新須磨駅から向かう海水浴客が海への期待を胸に急ぎ足で歩いた法成寺前の道。汽車の影絵が描かれた踏切警戒標識が時代を物語る。少しずつ消えていく寂しさもあるがままに> 碧南市役所前の大通りが西へ向かった先、堤防に阻まれた地点が新須磨海水浴場である。 大正7年(1918)に開かれ、昭和38年(1963)からの衣浦臨海工業地造成により埋め立てられるまで、県内外から多くの海水浴客が訪れた。 今は地元の人しか通らない淋しい道となる。法城寺の板塀脇にある汽車の影絵「踏切警戒標識」は、おそらく新須磨海水浴場が存在した時代の標識だろう。 法城寺の板塀角には、塀を挟んで境内・道と両面から見える小さな池があった。何時しかその池もなくなり、往時の思い出は少しずつ薄れていく。
「もう長い事、閉じられたままだよ。近いうちには取り壊すんだって」と話すのは生け垣を手入れする御婦人。 法城寺の西、光専寺横の道を西へ向かい、一つ目の交差点を右へ行き、50メートル程進んだ左手にあった「弘龍寺」。 今は取り壊され更地となっている。この弘龍寺は、昭和30年(1955)に創建された新しい寺。 構造上はいたって普通の木造建築物だが、唯一特異なのは壁の色と入口の屋根。 サーモンピンクと表現したい鮮やかな色、宮殿を模した装飾の屋根とユニークな意匠を持つ建物だった。 自由礼拝所となっていた弘龍寺もお世話する方が亡くなり、長らく空き家同然の状態だったという。 狭い範囲に寺院の密集する天王において、ひとつの寺院が消失した事は本当に残念である。
< text • photo by heboto >