あっと驚く安易なバスイコライザ作成計画
 
 

発端は、今村さんのサイト(残念ながら閉鎖されました)の記事と掲示板過去ログであり、かつ、今村さんの掲示板上で今村さん荒木さん他多くの皆さんに相談にのっていただいたものです。あらためて感謝申し上げます。

 

 

0.はじめに ('02.12.08)

写真その1:14型TV周辺。最下段にプリメインアンプ PMA-390Uと、クリスキットのメインアンプが押し込まれています。TV脇が防磁長男密閉バージョンで、PMA-390U(出力A)→自作フィルタ→メインアンプ、にて駆動されます。右の方に映っているマトリックスBHは、PMA-390Uの出力Bにそのままつながっています。

写真その2:その「自作フィルタ回路」です。絶縁シート(スーパーの袋)に包んで押し込んであるのを引っ張り出して写しました。・・・これなら作れそうだと思いませんか? こんなに汚くは作れない??

私も長岡鉄男氏を第1の師として、スピーカー工作を趣味に加えたわけです。そしてネット上をうろつくようになり、フェイさんを第2の師として、別の観点から見た長岡スピーカの実像を教えていただき(そのページは整理されてしまっていますが)、またヨーロッパのメーカーのユニットを教えていただきました。そしてそのまた次の段階では、今村さんを第3の師とし、荒木さんを特別顧問にして、スピーカーボックスの外側に踏み出したのです。

このプロジェクトは冒頭に紹介した通り、その殆ど全てを今村師匠のサイトの記事と掲示板に負っています。しかし私が同掲示板に書き込んだところからあちらの過去ログを見ても予備知識がないとまず理解不能のはずで、過去ログを最初から全部精読していただくのも大変ですから、今村さんのサイト及び掲示板が閉鎖された現在、今回の私の計画を最初の段階からまとめようというのがこのページです。想定している対象読者は・・・電子回路はあまり得意では無いスピーカー工作趣味の方、ですが、ネットワーク程度の最低限の電気回路知識は必要です。その上に、うろ覚えでいいから振動の力学や制御工学をかじったことのある方でないと話が難しくなってしまうかもしれません。結論だけでも分かっていただけるよう努めます。

理論編
1.密閉型スピーカーのモデル
2.前置フィルタによる「 fc, Qtc の再定義」
3.一次シェービングフィルタの設計と誤差
4.Q値の測定

実践編
5.実際のQ値の測定とフィルタ設計
6.試聴記

7.(付録)他の低音再生方法と比較して
8.(付録2)密閉箱の適正サイズは?

 

1.密閉型スピーカーのモデル ('02.12.08)

本章の目的は、共振周波数:fc、共振先鋭度:Qtc となる密閉型スピーカー(fc、Qtc は、ユニット単体での値fs、Qts から密閉箱に入れることで変化したもの)の、入力電圧→音圧の周波数特性は、Qtc<0.5であれば、2つの1次ハイパスフィルタの重ね合わせで表すことができること、そのカットオフ周波数はそれぞれ、 
(1 + (1-4・Qtc^2)^0.5)/(2・Qtc) ・fc、 (1 - (1-4・Qtc^2)^0.5)/(2・Qtc) ・fc となることを明らかにすることです。何のことやら、と思われるかもしれませんが、 
fc=80Hz、Qtc=0.4 というスピーカーがあれば、その特性から、160Hzと40Hzの重ね合わせだから、160Hzからダラ下がりの特性だな、ということまで分かるのです。

「長岡鉄男のわけのわかるオーディオ」のp69から、「ウーファー、フルレンジの低域特性は、もしf0がなかったら・・・1kHzくらいからダラ下がりに落ちてしまうのである。電力を送り込んでもコーンがちゃんと振動しないというのではない。電力に比例して正確に振動しているのだが、空振りが多くて音にならないということである。・・・f0では振幅が異常に大きくなるので・・・」とあります。長岡先生はこれに類することを何度か書かれていたと記憶していますが、この認識はほぼ間違いので、きっぱり忘れてください(私はお陰で随分回り道をした)。電気信号に対して正確に振動しないから低音が出なくなる、それだけのことなのです。

空振り云々、に近い話は発生しますが、これはバッフルの大きさと波長の関係の話。幅 40cm のスピーカーで、ユニット中心から端までの長さ、20cm と波長との関係が・・・となるのですから、普通のスピーカーなら、100Hz(波長 3.4m )以下の周波数とは全然関係ありません。なお、こういう形で周波数特性が乱れる現象を「バッフル・ステップ」と呼ぶらしいです。

(ヘッドフォンでは全然違うのですが)空中に音波を放出するスピーカーの場合、その音圧は振動板の加速度に比例します。ではその加速度の大きさと、入力される電気信号=一般的なアンプに繋ぐ限りその駆動電圧の大きさ=はどういう関係になるのでしょうか?

スピーカーの振動板も、振動する機械要素として一般的な取り扱いが可能です。その質量をm、機械的粘性抵抗成分をη、バネ定数をkとします。

振動板をゆっくり押し込む場合、押し込む力=F、と変位(動いた長さ)=x、との関係はF=k・x です。
振動板にエッジがついていないとすると、ニュートンの運動方程式で、F=m・x'' (x''はxを時間で2回微分したもの)です。
一番ピンときにくいのがηだと思いますが、速さに比例する抵抗を表すものです。水飴の中でうんとゆっくり動かせば力は殆ど要りませんが、速く動かそうとすると抵抗が増える様子が、速さに比例する抵抗で、上記と同じように式にすると、F=η・x' です。

スピーカーの振動板には質量も粘性抵抗成分(エッジとダンパー)もバネ性(これもエッジとダンパー)もありますので、

m・x'' + η・x' + k・x = F となります。

以上、とりあえずユニット単体として話を始めましたが、このユニットを密閉箱につけても全く同じ話が出来ます。違うのは、密閉箱内の空気が空気バネとして作用するので、k の値が大きくなること、箱の中の吸音材によっては、η を大きくする可能性があること、だけです。というわけで、以下の検討対象は密閉型スピーカーだということにして進めます。

余談ですが、吸音材を入れるとQ値が小さくなるというのはスピーカー工作の常識ですが、これは主に k を小さくする作用が効いているのではないのかな?。吸音材を入れたことによるQ値の降下割合が共振周波数の降下割合を上回れば、ηも増えたと言えます。

F は駆動力ですが、フレミングの左手の法則から、F = B・L・I (B:磁気回路のギャップでの磁束密度、L:ギャップに入っているコイル巻線の長さ、I:コイル電流)です。しからば、v:駆動電圧 は、v=R・I (Rはコイルの直流抵抗) かと思いきや、コイルが磁束の中で動いているので、フレミングの右手の法則も出てきまして、v=R・I+B・L・x' となります。従って、I=(v−B・L・x')/R となります。

m・x'' + η・x' + k・x = B・L・I = B・L・(v−B・L・x')/R
m・x'' + (η+B^2・L^2/R)・x' + k・x = (B・L/R)・v

ここで、ω0 = (k/m)^0.5、 1/Qmc = η/(m・ω0)、 1/Qec = B^2・L^2/(R・m・ω0)、  という置き換えを行うと、(何のためかはいずれ説明するかもしれましれませんが、ここでは置き換えられることだけ確認ください)

x'' + (1/Qmc + 1/Qec)・ω0・x'' + ω0^2・x = A・v あるいは
x'' + (1/Qtc)・ω0・x'' + ω0^2・x = A・v   ・・・・1)

Qtcは 1/Qtc=1/Qmc + 1/Qec なる値で、共振先鋭度と呼ばれます。ω0は共振角振動数と呼ばれます。
(A=B・L/(R・m) も置き換えましたが、これは適当な定数です)
ここで、x=sinωt という振動だとすると(ωは角振動数と言われる定数で、ω大=周波数大、となります)、x'=ω・cosωt、 x''=−ω^2・sinωt ですから

−ω^2・sinωt + (1/Qtc)・ω0・ω・cosωt + ω0^2・sinωt = A・v
と書けます。  

 ・ ωが(ω0との比較において)うんと大きい場合は(言い換えると共振周波数よりかなり高い周波数の範囲では)、左辺の第2項と第3項を無視できて、 
 −ω^2・sinωt = A・V 即ち、x'' = A・v
→振動板加速度は駆動電圧と(周波数によらず)比例する、となります。この状態こそが、スピーカーとして理想的な振動の状態なのです。
 
 ・ ωがうんと小さい場合には(共振周波数よりかなり低い周波数の範囲では)、左辺の第1項と第2項を無視できて、 
 ω0^2・sinωt = A・V 即ち、x = A・V、書き直せば、x'' = −ω^2/ω0^2・A・v
→振動板加速度は、駆動電圧一定でも周波数の自乗に比例して小さくなります。音圧をdB表示とすると、周波数半分で1/4=12dB 減りますから、12dB/oct の傾きのハイパスフィルターと同じになります。スピーカーから共振周波数前後より低い音が出ないのは、このハイパスフィルター特性があるからなのです。
(密閉型以外では12dB/octより急峻な特性になり、いずれにせよハイパスフィルター特性からは逃れられません) 
 
 ・ なお、ωがω0付近ならば・・・・・。ω=ω0 ならば、左辺第1項と第3項とが消えて、 
  (1/Qtc)・ω0・ω・cosωt = A・v 
となります。この付近の挙動にQ値が関わってきます。

さて、この1)式を解いてみます。
まあ、解けてしまえば何でも良くて、いくつかある解法は全て等価なのですが、ここではラプラス変換で行きます。というと非常に難しそうですが、微分演算子の代数に数学的根拠を与えたようなものらしい、程度にしか私も分かっていません。普通の人は道具と割り切って答えを出せればよいのです。さて、

x → X というラプラス変換があると、x' → s・X 、x'' → s^2・X と書いてよいのです。v → V も置き換えて、
x'' + (1/Qt)・ω0・x'' + ω0^2・x = A・v   ・・・・1) (再掲)は
  s^2・X + (1/Qtc)・ω0・s・X + ω0^2・X = A・V、
X = A・V/(s^2 + (1/Qtc)・ω0・s + ω0^2)  ・・・・2) 

と書き換えられます。角振動数ωの入力を与えた場合の周波数特性は、s のところに jω (jは虚数単位)を代入すれば得られるのですが(制御工学の教科書に載ってます)、それでは一般的に過ぎますので、もう少しのお付き合いを。

右辺の分母はsの2次式となります。この2次式=0 と置いた方程式は、
Qtc<0.5 で2つの実数根
Qtc=0.5 で実数の重根
Qtc>0.5 で2つの虚数根
を持ちます。
普通売り物になるような密閉型スピーカーの Qtc は0.7内外らしいのですが、自作の場合はたまたま、あるいは意図して、小さなQとなることがあります。この Qtc<0.5 の場合は、分母は実数の範囲で因数分解できて、

   X = A・V / {(s+α)・(s+β)}  (α+β=(1/Qtc)・ω0、α・β=ω0^2)、あるいは、
s^2・X = A・V ・ s/(s+α)  ・ s/(s+β) と書けます。

ラプラス変換では、入力がフィルタを通って出てくる状態が、掛け算で表されます(何故そうなるか? それこそ制御工学なりの教科書を見てください、私には説明できません)。そして、s/(s+α) というフィルタは、オーディオで使われる言葉でいうと、6dB/octのハイパスフィルタになります。ですから、

上の式は、s^2・X = A・V (振動板加速度が駆動電圧に比例)という比例状態に、6dB/oct のハイパスフィルタを2回通した状態、を意味するのです。

そのカットオフ周波数は、|jω|=α or β となる周波数で、2)式の分母を0とおいた2次方程式の解そのものですから公式で簡単に求まります。計算上扱いやすいω(角振動数)表記から、直感的に分かりやすい f (周波数)表記に直して表すと、

(1 + (1-4・Qtc^2)^0.5)/(2・Qtc) ・fc 、 (1 - (1-4・Qtc^2)^0.5)/(2・Qtc) ・fc

となります。 fc=80Hz、Qtc=0.4 というスピーカーなら、160Hz と 40Hz になります。

 

 

2.前置フィルタによる「 fc, Qtc の再定義」 ('02.12.14)

本章の目的は、Qtc<0.5 の密閉型スピーカーのハイパス特性に合わせた前置フィルタを通せば、fc と Qtc を再定義できる(狙い特性に変えることができる)こと、及び、単なる1次フィルタで出来る範囲、を明らかにします。 
1次フィルタという制約での再定義でも、Qtc<0.4 なら有難味が出てきます。
fc=80Hz、Qtc=0.4 というスピーカーは、160Hzからダラ下がりの特性ですが、160Hz と 40Hz の前置シェービングフィルタを通すことにより、40Hz付近までフラットに出来ます。(40Hz×1.5=60Hz が大体 -3dB )

密閉箱を、s^2・X = A・V ・s/(s+α) ・ s/(s+β) というフィルタと同一視したからには、さらにそれに、
(s + β)/(s + γ) なるフィルタ特性(1次シェービングフィルタと言われる特性)を「掛け合わせる」(現実世界で前置フィルタを「通す」ことに等しい)と、その特性は

s^2・X = A・V ・s/(s+α) ・ s/(s+γ)

に変わります。これは、(1/Qtc’)・ω0’=α+γ、ω0’^2=α・γ を満足する Qtc’、ω0’ という特性値を有する密閉型スピーカーをフィルタとみなした場合の特性そのものです。

γ<β ならばこの前置フィルタにより、ハイパスフィルタの低域限界が低くなることになり、つまり低域増強が行われるので、これを「バスブースタ」と呼んでも間違いではないのですが、「高すぎる低域限界を補償する」という意味で、「バスイコライザ」「バスコンペンセイタ」と呼んでもいいと思います。しかし、一番相応しい呼び方は、荒木さんがネット上の各所で繰り返し強調されている、「 fc, Qtc の再定義」 だろうと思います。

ここで、(s + β)/(s + γ) などというケチな特性を掛けずに、(s + α)/s ・ (s + β)/s という特性を掛ければ、完全にフラットな特性になるのではないか、という疑問を持たれたかもしれません。でも、それは無理なんです。

振動板加速度を一定にしたままその振動の周波数を下げていくと、振幅は周波数の自乗に反比例して増えていきます。現実のスピーカーに振幅の上限があることは明らかで、直流に近い低周波信号が入力されてもこの範囲に振幅をとどめておこうとすれば、自ずと加速度は周波数の自乗に比例して減らしていかなければなりません。つまり、どこかの周波数から下では 12dB/oct ないしそれ以上のフィルタ特性がかかっていないと破綻するのです。また、(s + α)/s というのは、直流(低周波の極限)での無限大増幅を意味しますから、電気回路側でも無理です。(このあたりの事情は、バスレフ箱との対比も含め、今村さんのサイトに詳しく書いてあります。)

つまり、fc 関係なしのフラットな特性は不可能、可能なのは許しうる範囲での「 fc, Qtc の再定義」になります。これでも、やりすぎると低周波信号に対して振幅が過大になり問題が起きてしまう可能性があります。実在のユニット(ウーファ)が、こういう細工をして使われることを想定していない以上、無茶なことは出来ませんが、小音量で使うのなら、ウーファの振幅には余裕があるはずで、多少のことなら出来ます。

今村さんはこれらを承知の上、{(s + α)・(s + β)}/{(s + γ)・(s + δ)} なるフィルタ回路をオペアンプを使って作成されたわけです。これなら、Qtc<0.5 でありさえすれば、どんな特性(但し Q<0.5 の範囲)にも合わせ込めます。しかし、ネットワークのコイルとコンデンサ(キャパシタ、が正しいが、日本語で書いているのですからこの和製英語でいいことにしましょう)とアッテネ-タのハンダ付けしかしたことがない者には、オペアンプと聞くだけで敷居が高いので、今村さんの後を追って回路製作の修行をする代わりに、もう少し浅知恵を巡らしたわけです。

s^2・X = A・V ・s/(s+α) ・ s/(s+β) のαは放置して、βだけγに置き換えるやり方で何ができるか、考えてみます。もう s での表記をやめて、α、β、γはハイパスフィルタのカットオフ周波数であることにしましょう。α、βが元特性でのカットオフ周波数、そのβを置き換えたカットオフ周波数がγ、です。

まず、γ<β、α<β でないと面白くない。2つのハイパスフィルタの重ね合わせであって、その一方の周波数だけを動かせる、となれば、高い方のフィルタを低く動かすに決まってます。

では、fc = 80 Hz, Qtc = 0.4 の密閉型スピーカーの特性の補償を例にとって説明しましょう。
このスピーカーは、160Hz と 40Hz の 6dB/oct ハイパスフィルタの重ね合わせ(α=40Hz、β=160Hz)で、赤の実線の特性になります。

γ=40Hz が青の実線、γ=10Hzが緑の実線です。最初のβ=160Hz から1/4ずつにしてみたわけですが、赤→青の効果に比べて、青→緑 の効果が薄いと見えます。−3dB 周波数でいうと、赤:170Hz→青:60Hz、とほぼ1/3になっていますが、青:60Hz→緑:40Hz では半分にもなっていません。これは、放置していたα=40Hz が効いているのです。

フィルタ特性を直線の折れ線で近似すると、それぞれ点線になりますが、こちらで見ていただいたら、事情がはっきりすると思います。元の特性(赤)が 160Hz 以下で 6dB/oct、 40Hz 以下で 12dB/oct で落ちていく特性、これをγ=40Hz まで動かすと、40Hz までフラット、それ以下は 12dB/oct、となります。しかし、γをそれ以下にいくら下げても、α=40Hz から 6dB/oct で落ちていく特性以上には持ち上げられません。

むやみにγを低くしても、極低域で振幅が大きくなるばかり、ですので、せいぜい γ=α 程度にとどめておくのが得策のようです。Qtc=0.5 の場合では、元々 β=α ですから、この方法は余り有効にはなりません。Qtc=0.4 なら、β=4・α になりますから、Q値がこのあたり以下のものを使った方が「やりがい」があるようです。 γ=αなら、再定義後の Qtc’は 0.5 になります。

なお、上の図では、赤(オリジナル)が fc=80Hz、Qtc=0.4 に対し、
青が fc’=40Hz、Qtc’=0.5 に、また、
緑が fc’=20Hz、Qtc’=0.4 に、「再定義」されています。

 

 

3.一次シェービングフィルタの設計と誤差 ('02.12.14)

本章の目的は、具体的な1次シェービングフィルタの設計およびその前段・後段の影響を明らかにすることです。 
前段・後段の影響を考えなければ、狙いのフィルタ特性が決まれば、コンデンサ1つ、抵抗2つの大きさを簡単な計算で出せます。前段・後段の影響を考えても、肝心の「持ち上げ始め周波数」は狂いにくいので、適当なプリアンプとパワーアンプの間にフィルタ回路をそのまま入れることもできます。前段にプリメインアンプを使うのも1つの手です。

前章で出てきた1次シェービングフィルタと、長岡先生命名によるところのPST=スピーカーユニット(ウーファ)と直列に、コイルと抵抗を並列にしたものを入れる=とは、駆動する相手がスピーカーユニットでなく純抵抗であれば等価です。

しかし、このページでは、ユニットを密閉箱に入れた状態でのQ値を確認してfc(共振周波数)前後の特性を予想した上で補償を行おうとしているのです。そこに大きな抵抗が入ると、Q値(それは粘性抵抗の逆数に比例するものでした)の主役となる電磁制動を大きく変えてしまいます。そのことも全て踏まえてうまく設計できるのかもしれませんが、私には到底できません。設計できたとしてもコイルがとんでもない大きさになって、何万円かかるのやら。

というわけで、PSTは1次シェービングフィルタには違いないけれど、中高域領域を軽くコントロールする目的のもので、バスイコライザとは全然違うものです。
・・となると、フィルタを入れる場所はプリアンプとパワーアンプの間になります。

おうちにプリメインアンプが一台しかない人、ごめんなさい。このページの方法は、安易に作れる代わりに市販のアンプを2台使わないと構成できないのです。そもそも、まともにとりくむのなら、今村さんの”XBC”に相当するものを作ればいいのです。おうちのプリメインアンプのプリ段とメイン段の間にフィルタを挿入できる人は・・・ご自分の責任でご自由に。CDプレーヤーとアンプの間は・・・普通は無理なのだろうと思いますが、成立する組み合わせがあるかもしれません。これもご自分の責任でご自由に。

さて、その1次シェービングフィルタとは、これだけのものです。

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その動作を最大限簡単な日本語で書いてみると・・・・・
周波数がうんと低いと、コンデンサは絶縁していると見て、出力電圧Vo=入力電圧Vi となります。
周波数がうんと高いと、コンデンサは短絡していると見て、抵抗2つが分圧回路を構成しますから、Vo=R1/(R1+R2)・Vi となります。
その中間の周波数では、R2 とコンデンサとが分圧回路を構成していると見て、6dB/oct のローパス特性となります。

コンデンサが絶縁していると見なせる限界の角振動数ω1は、コンデンサのインピーダンスが抵抗 R1+R2 と等しくなる周波数で、1/(c ・ω1)=R1+R2 → ω1=1/(c ・(R1+R2) )、
周波数 f1 に直すと、f1=ω1/2π ですので、f1=1/(2π・c ・(R1+R2) )です。
コンデンサが短絡していると見なせる限界は、コンデンサのインピーダンスが抵抗 R1 と等しくなる周波数ですから、
その周波数 f2 は、f2=1/(2π・c ・R1) です。

  f<f1 の範囲で、Vo=Vi
f1<f<f2の範囲で、Vo=Vi・(f1 / f )
f2<f   の範囲で、Vo=Vi・(f1 / f2)

に近似している、と書き直せます。
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しかし実際に作ろうとすると、もう少し立ち入らざるを得ません。f1、f2 の2つを決めただけでは、c、R1、R2 の3つを決めることは出来ないのです。f2/f1=(R2+R1)/R1ですから、2つの抵抗の比率は決まりますが、例えば、f2 を 160Hz に対して、c=100μF 、R1=10Ωでもいいし、c=1μF 、R1=1kΩでもいい。

実はこのシェービングフィルタの前段と後段が理想的なものであれば、どの組み合わせでも構わないのです。理想的、とは、・前段の電圧が電流に左右されることがなく、・後段が余分な電流を消費することなく、を満足する状態です。普通に言うと、前段の出力インピーダンス0、後段の入力インピーダンス∞、です。現実のプリアンプ、パワーアンプでは、それらを直結する限り問題が起こらない程度には、プリアンプの出力インピーダンスは低く、パワーアンプの入力インピーダンスは高くなっていますが、フィルタを挿入してどうなるかは考慮する必要があります。

R1、R2 を大きめすると、プリアンプの出力インピーダンスの影響は受けにくくなりますが、パワーアンプの入力インピーダンスの影響は受けやすくなります。
R1、R2 を小さめにすると、パワーアンプの入力インピーダンスの影響は受けにくくなりますが、プリアンプの出力インピーダンスの影響を受けやすくなります。プリアンプの設計によっては出力電流が過大になって壊れるかもしれません。

しかしそもそも、その「影響」とは? 入出力インピーダンスを純抵抗として、フィルタ回路と一緒に書いてしまうと、このようになります。プリアンプの出力インピーダンスがR3、パワーアンプの入力インピーダンスがR4 です。

角振動数がωのとき、コンデンサのインピーダンスは、1/jωc ですから、これを使ってフィルタ特性を表すと(途中経過は略しますが、単純な計算です)、

Vo/Vi = (1+ jωc・R1)/[1+(R2+R3)/R4 + jωc・{R1+(R2+R3)+R1・(R2+R3)/R4}]
あるいは、ラプラス変換で表記すると、
Vo/Vi = (1+ c・R1・s)/[1+(R2+R3)/R4 + {R1+(R2+R3)+R1・(R2+R3)/R4}・s]

となります。R3が事実上R2を大きくするに等しいのは、回路図からも明らかですが、分子の「時定数」=c・R1 或いは分子側のカットオフ周波数=1/(2π・c・R1) はR4の影響も受けないことが分かります。

ここで思い出していただきたいのが、分子側のカットオフ周波数の方が、対象とするスピーカーの共振周波数とQ値に対して、きっちり合わし込みたいもの(前章でのβに相当)であることです。ここが狂ったのでは、fc と Qtc の「再定義」が狂ってしまいます。分母側であるγの方は、αに合わせる事を前章で一応推奨しましたが、「再定義」の行き先が狂ったとしても、再定義すること自体には影響せず、しかも行き先が少々狂ったところで、どうということはないのです。

このような要求を思い出してみると、このフィルタ特性へのR3、R4の影響の出方は実にありがたいのです。

プリアンプの出力インピーダンスが1kΩ程度、パワーアンプの入力インピーダンスは低くても10kΩくらい、みたいですから、
R2が10kΩくらいになるように作れば、R1が2.5kΩかそれ以下になって、なんとかなると思います。勿論、お手元のアンプの仕様をよく確認して決めるのが望ましいのは言うまでもありません。

むしろゲイン低下の方が問題になるかもしれません。バスイコライザといっていますが、要するに中音以上を f1/f2 に抑えることによって低音を際立たせているわけですから、このフィルタを通さない状態と比べて、同じボリューム位置では中音以上の音量は減ります。ボリュームを上げてカバーできればいいですが、回しきっても音量不足になるかもしれません。 持ち上げ始め周波数 f2 はスピーカーに合わせて決めるのですが、持ち上げ完了周波数 f1 の方は、ゲイン f1/f2 が小さくなりすぎないためにも、ほどほどで抑えるという考え方も出来ます。

その対策も含めて、前段のプリアンプの代わりにプリメインアンプを使うという手があります。出力インピーダンス=0Ωと考えて全く問題がなく、R2を1kΩ以下とか、低めの組み合わせを選べば、パワーアンプの入力インピーダンスの影響が顔を出す可能性もなくなります。ゲインについては、むしろゲイン過大でパワーアンプやスピーカーを壊してしまう方が心配になります。今村さんの掲示板でも賛否両論ありました。プリメインの場合は、ゲインを落とすために f1 を低く取ることも考えられます。

この章で述べていることが分からない、という方は、チャレンジしないのが一番いいと思いますが、あえてやるなら、前段にはプリメインではなくプリアンプを使って、R2を 10kΩ にして、その前提での R1 と c を選ぶのが無難でしょう。 少なくともアンプやスピーカーを壊す危険は殆どなくなると思います。それで全然音量不足だったら、R1 と c の組み合わせはそのままで、R2 を半分ずつくらいの感じで減らしていけばいいでしょう。

前段にプリメインアンプを使うなら、ゲイン過大には十分注意してボリュームを上げていく必要があります。ボリューム調整がやりきれないほどにゲインが高すぎるなら、適当に分圧回路を組むことも出来ます。フィルタを組む抵抗より低めの抵抗で分圧回路を構成する方が、カットオフ周波数への影響が少なくなります。壊さない注意さえ出来るなら、こちらの方が自由度があってやり易いのは間違いありません。音がいいかどうかは知りませんが。

抵抗なんて安いものです。交通費かけて買いに行くなら、色々な可能性を考えて、どっさり買いましょう。これは私自身の反省です。

 

 

4.Q値の測定 ('02.12.19)

本章では、サウンドカード付きパソコンとFFTソフト以外に測定器を持たないものが手作りでQtc値を測定する方法を述べています。何らかの方法で Qtc を正確に求められる方はこんなことする必要はありませんが、スピーカーの動作に立ち返って考えたい向きには、頭の体操と思って青字の所まででも目を通していただくのもよろしいかと存じます。

第1章の最初の方に出した、

m・x'' + η・x' + k・x = B・L・I
m・x'' + (η+B^2・L^2/R)・x' + k・x = (B・L/R)・v

まで、一旦戻ります。振動系の右辺に電流を持ってきた場合と電圧を持ってきた場合、です。第1章と同じように、
ω0 = (k/m)^0.5、 1/Qmc = η/(m・ω0)、 1/Qec = B^2・L^2/(R・m・ω0)、
という置き換えを行って

x'' + (1/Qmc      )・ω0・x'' + ω0^2・x = B・L・I/m
x'' + (1/Qmc + 1/Qec)・ω0・x'' + ω0^2・x = B・L/(R・m)・v

それぞれにラプラス変換を施して、x → X、v → V、I → I  と置き換えて( I は同じ字になってしまいましたが勘弁して下さい、実害はないはずです)、

s^2・X + (1/Qmc      )・ω0・s・X + ω0^2・X = B・L・I/m
s^2・X + (1/Qmc + 1/Qec)・ω0・s・X + ω0^2・X = B・L/(R・m)・V

この2つの式の比をとると、X が消せて、

{s^2 + (1/Qmc + 1/Qec)・ω0・s + ω0^2}/{s^2 + (1/Qmc)・ω0・s + ω0^2}=V/(R・I)

従って、この密閉型スピーカーのインピーダンスは

Z=V/I
 =R・{s^2 + (1/Qmc + 1/Qec)・ω0・s + ω0^2}/{s^2 + (1/Qmc)・ω0・s + ω0^2}

となります。

普通は、さらに変形して

Z=R・[ 1 + (ω0/Qec)・s/{s^2 + (1/Qmc)・ω0・s + ω0^2}]
 =R + Rec・(T・s / Qmc)/(T^2・s^2+T・s/Qmc + 1)
但し、T : 時定数=1/ ω0
Rec : fcにおけるインピーダンスピーク値(Rmax) とRの差、すなわち fc における動インピーダンスの絶対値
(s=jω0を代入すると、インピーダンスピーク値がR・(1 + Qmc / Qec) であることが分かります。
 Rec=R・Qmc/Qec です。)

と表記し、直流抵抗 R (正統的にはReと表記するらしい)は直接測れて、 Rec と共振周波数とは容易に読み取れるから、インピーダンス曲線の「形」からは Qmc を一つ読み取るだけで良くなる。実際には、r0 = Rmax / Re としたとき、インピーダンスがRe・√r0となる二つの周波数 f1, f2  (f1 < fc < f2) を用いて、

Qmc=fs・√r0/(f2-f1)
Qec=Qms/(r0-1)

とする、のだそうです(荒木さん有難うございました)。

しかし、実際に一般家庭にあるパソコンとテスタくらいでこれを実行するのは困難です。一桁Ωの直流抵抗値なんて、単なるテスタでは必要とされる精度で測れる気がしません。むしろ、相対値ではあっても、交流信号をスイープさせながら取った曲線を使ってカーブフィットする方がまだしも精度があると思います。

このインピーダンス計測は以前にもやったことがあります。詳しくはこちらをご覧いただくとして、
・アンバランス出力アンプを使って、
・アンプ出力−(測定対象スピーカー又は基準抵抗)−1Ωの抵抗−アンプグラウンド、と接続し、
・1Ωの抵抗の前後の電圧を直接パソコンのサウンドボードに突っ込み、
・スイープさせた交流信号を与えて、取った結果を基準抵抗とスピーカーとでそれぞれ測り、
・各々にFFTをかけて、そのdB値の相対差から、スピーカーの抵抗が基準抵抗の何倍になるか計算する
というものでした。

しかし、以前書いた内容には少しだけ嘘があります。
基準抵抗は8Ωを使っているのですが、実際にパソコンで計測できているのは、8+1=9Ωの直流抵抗と、スピーカーインピーダンスに1Ωの抵抗を直列に繋いだものとの相対比較、でしかありません。純抵抗ならば9Ωの時より−6dB(0.5倍)の電流が1Ωの抵抗を流れたのなら、(8+1)Ω×2−1Ω=17Ω、と言えますが、スピーカーのインピーダンスでは、電圧と電流の間で位相回転がありますから、その「−1Ω」が出来ないのです。

但し、インピーダンス曲線が水平になるピークとか谷の部分では、電流と電圧は位相回転していませんから、「−1Ω」が可能で、山谷だけ見ている分には「−1Ω」で構わないのですが、しかし今回は、まさしく山の斜面あたりを問題にしようとしているのです。正しく取り扱うに越したことはありません。というわけで、

Z=Re・{s^2 + (1/Qmc + 1/Qec)・ω0・s + ω0^2}/{s^2 + (1/Qmc)・ω0・s + ω0^2}
(再掲、但し直流抵抗は Re と表記)

のスピーカーに1Ωの直流抵抗を接続したものの理論的インピーダンス曲線を算出し、実測の曲線と合うように、ω0 (これはすぐ分かる)、Re、Qmc、Qec を決めていくのです。 
Z に R1Ω の抵抗を直列に繋いだもののインピーダンスを Z’ とすると、

Z’={(Re + R1)・s^2 + (Re/Qmc + Re/Qec + R1/Qmc)・ω0・s + (Re + R1)ω0^2}
   /{s^2 + (1/Qmc)・ω0・s + ω0^2}

周波数特性にするには、s=jω を代入するだけでよくて、

Z’={(Re + R1)・(ω0^2 - ω^2) + (Re/Qmc + Re/Qec + R1/Qmc)・ω0・jω}
    /{(ω0^2 - ω^2 )+ ω0・jω/Qmc}

角振動数:ω の表記から、周波数 f = ω/2π の表記に変えてもよく、それには、ω→ f , ω0→ fc と置き換えて、

Z’={(Re + R1)・(fc^2 - f^2) + (Re/Qmc + Re/Qec + R1/Qmc)・fc・jf}
    /{(fc^2 - f^2 )+ fc・jf/Qmc}
|Z’|={(Re + R1)^2・(fc^2 - f^2)^2 + (Re/Qmc + Re/Qec + R1/Qmc)^2・fc^2・f^2}^0.5
    /{(fc^2 - f^2 )^2+ fc^2・f^2/Qmc^2}^0.5

最初だけ面倒ですが、表計算ソフトにこの式を一度覚え込ませれば、fc、Re、Qmc、Qec の4つのパラメータを変えた際の曲線の変化がすぐ描けるようになります。実測値も周波数ごと細かく計測したものを表の中に入れて、理論曲線とグラフを重ねて、出来るだけ2つの曲線が一致するように4つのパラメータを選ぶことになります。

 

 

5.実際のQ値の測定とフィルタ設計 ('02.12.22)

竜頭蛇尾の感は否めないQ値測定と、そのいい加減さを言い訳するためのフィルタ特性のミスマッチの検討です。結果の実態からするとQ値を測らず計算だけでフィルタを作ったのと大差ないのですが、その程度でも「やらないよりは遥かにまし」くらいは容易に保証できることを示します。

実験の対象にしたのはフェイさん設計「防磁長男」密閉バージョンです。このスピーカーを作って密閉にして使うにいたるいきさつはこちらにあります。この低Qのスピーカーを低音不足のはずなのに気にせず使っていたところで、今村さんの掲示板過去ログの実験レポートを目にして、今は出ていない低音を出したらどうなるのだろう、しかし今村さんのような電子工作は敷居が高いし・・と考え始めたのが、今回の計画の始まりでした。

第4章で書いたやり方で実測を行いました。そのまたさらに細かい作業の説明はこちらにあります。20HZ 〜 20kHz のログスイープ信号を44.1kHzでサンプリング、これを16384点のFFTを Blackmann-Haris 窓で実施しました。CoolEditのFFT結果表示画面は実際の計算値がある点とは関係無しに値を出しますが、44100/16384=2.7Hz おきに実際の計算値があることを承知しておけば、読み取りにも迷いません。スピーカーを繋いで測ったのと、8Ω基準抵抗を繋いで測ったのと、それぞれを読み取り計算して得たのが下のグラフ、スピーカーに1Ωの抵抗を直列に繋いだもののインピーダンスです。かなり手間は掛かっています。

最初は、ネットワークを繋いだまま測ろうとしました。しかし、イーディオの「防磁長男」パーツセットについてきたネットワークは基板上に組まれており、トゥイータを外しても、アッテネータを構成する抵抗は外せません。

抵抗を外した形で難なく接続できることに後で気が付きましたが、「インピーダンス測定セット」をバラしてしまったので、もういいです・・・。

遮断周波数は遥かに高いから問題ないと思ったのですが、共振の山の形には大きく影響することが分かりました。ネットワークスルーと比べて、ピーク周波数もずれているし、共振の山の形が横軸 log で表示しても左右対称でないのです(本来左右対称になるところです)。これでカーブフィットをやっても無駄、と諦めました(図の「ネット付き」の線です)。

そこでネットワークつけたままの測定を諦めて、ウーファー単独で測定しました(図の「左ch実測」)。今度はほぼ左右対称です。これに対し、fc、Re、Qms、Qts の組み合わせを色々変えながら与えて、実測で得た曲線に合わせこんで行きます。とはいってもピッタリにはなりません。図では2つの組み合わせを表示しています。

  計算値1 計算値2
fc 80.5 80.5
Re 5.8 5.8
Qmc 3.05 2.8
Qec 0.415 0.38
Qtc 0.354 0.335

計算値1は山の左側に合わせたもの、計算値2は山の右側に合わせたもの、です。どちらの計算値でも山のすそでは実測値の上に行っていますが、これも合わせようとするとReを5Ω位にせねばならず、公称の Re = 5.7Ω と大差があり、手持ちのテスタでも(信じないと言いながら)5.5Ω以下ということは無さそうなので、採用しないことにしたのですが、そうすると基準がなくなってしまいます。山の中腹から上だけ見ると、Reに大きな値を入れる分だけQecも増やせば大体もとの線に戻ってしまいます。Qmcは殆ど変える必要がありません。仕方がないので、公称値+若干の接触抵抗位だろう、とReは先に決めてしまっています。

これがどこまで信じられるかと言うと・・・。fc はまず問題ないでしょう。これがユニット単体の共振周波数 fs の公称値=40Hz の丁度倍です。そうすると、Qec は Qes の倍、吸音材の影響がなければ Qmc も Qms の倍になるはず・・・ですが、公称値はQms=1.35、Qes=0.25 で、つじつまはあまり合っていません。

仕方がないので、実使用時のQtcの予想値の下限は、ネットワーク追加によって直流抵抗が増加することによるQecの上昇分も見込んで0.35、上限の方は公称 fs と実測 fc の比率から0.4、と考えることにしました。

しかし、何ともいい加減なものです。こんなことでいいのでしょうか?。フィルタ特性を正確に合わせ込まなければ、「再定義」にはならないのです。しかし、本当の「再定義」でなくとも実害がなければいいのかもしれません。そこで、 Qtc= 0.3 と 0.4 を取り違えた場合の影響を検討してみました。下の2つの図、ゲイン線図と位相線図を合わせて「ボーデ線図」と呼ばれるものになります。

黒: (細線)fc=80Hz、Qtc=0.4 のスピーカーの元特性、ハイパスフィルタとみなした場合 160Hz と 40Hz となります。
赤: 黒の 160Hz を正しく 20Hz に移した場合。fc’=28Hz、Qtc’=0.47 に再定義されています。
青: 黒の Qtc が 0.4 なのに 0.3(ハイパスフィルタとして 240Hz と 27Hz)と取り違えて、160Hz→20Hz とすべきところ、240Hz を 20Hz に移す前置フィルタを置いてしまった場合
緑: 本当に fc=80Hz、Qtc=0.3 のスピーカーの、ハイパスフィルタとしての 240Hz を正しく 20Hz に移した場合。fc’=23Hz、Qtc’=0.49 に再定義されています。
紫: 本当は Qtc=0.3 なのに 0.4 と取り違えて、240Hz→20Hz とすべきところ、160Hz を 20Hz に移す前置フィルタを置いてしまった場合

かなり極端なケースで試したつもりでしたが、たとえQ値を0.3と0.4とで取り違えたとしても、「大差なく、どれにしても元特性よりは遥かにまし」と言える範囲には収まっているように思えましたので、Qの測定結果はあまり気にしないことにしました

ネットワークに使えるコンデンサは手持ちで 0.68μF と 6.8μF が余っていたのですが、前段に使うアンプをプリにするか、プリメインにするか決めかねたので、両天秤をかけて、0.68μF 前提で考えることにしました。1kΩ と組み合わせると 234Hz、1.5kΩ と組み合わせると 156Hz がカットオフ周波数なので、それぞれスピーカーの Qtc が 0.3 及び 0.4 の場合にほぼ丁度合うことになります。

で、抵抗を買いに行きました。抵抗の種類は良く知らない素人ですが、買いに行った店では選択肢も余りなく、1本5円(100本100円)のやつと、1本15円の酸化皮膜抵抗とを幾つか買いました。その他端子板など買ったのですが、総額1000円には遠く及ばず、今回のプロジェクトの新規総出費の半分以上が名古屋市大須までの電車賃ということになってしまいました。

手持ちのピンピンケーブルを一本ぶった切って芯線とグランド線を分離した線を入力側と出力側の左右分として、抵抗とコンデンサを端子板に強引に共締めで固定し、クリスキットのプリとメインの間に挟んでみました。

まず最初はプリの出力に 10kΩ、メインの入力とパラに 1kΩ と 0.68μF ですので、234Hz と 21Hz に折れ点を持つフィルタで、Qtc=0.3 に丁度合う設定ですから、実際の Qtc 予想値からは「やりすぎ」の組み合わせです。中域以上 20dB 落ちのつもりだったのですが、なぜか 30dB 落ちていました。原因は調べていませんが、それでも補正曲線は大体出ているようだったので(これも十分には確かめていませんが)、線だけはハンダ付けして、いきなり聞いてみましたが、ボリュームが不足です。10kΩ を 5.1kΩ に変えると、ボリューム最大で一応満足な音量を出せましたが余裕ありません。で、プリをプリメインに替えてみました。

リモコンがついているという理由でテレビの下でDVD・VTR再生用に再登板させたPMA-390Uですので、使えるものなら今後もこれをプリとして使っていきたかったのです。5.1kΩ をもう一度 10kΩ に戻して、そーっとつないで見ました。今度はかなりボリューム位置が低くなりますが、何とかコントロールできる範囲です。これでしばらく使いましたが、ゲインが高いのと、やはり低音が少し過多という気がしてきたので、一旦

この回路で落ち着きました。当初買ってきた抵抗の組み合わせで作れる範囲ではこうなってしまいました。プリメインと決めていれば、6.8μF を使う前提で考えたはずで、1.5kΩ の代わりに 150Ω、10kΩ の代わりに 1kΩ としたところでした。その 10kΩですが、ハイパスフィルタを移す先を 40Hz にするなら 4.7kΩ か 5.1kΩ を入れるところ、少しだけ欲を出して 20Hz まで下げています。左の2つの分圧回路を構成する抵抗は、フィルタ回路より小さい抵抗とするのが本当でしょうが、これは今のままの比率でも構いません、が実はゲインを下げすぎです。5.1kΩ を 2.2kΩ にするくらいで丁度良さそうな感じです。フィルタの 10kΩ を 5.1kΩ に戻すだけでもいいのですが。

・・・我ながら不自然な回路だと思い、また大須まで買出しに行って、分圧回路を220Ωと100Ω、全抵抗を±5%の1W酸化金属皮膜抵抗で作り直しました。どちらのポイントが効いたか分かりませんが、わずかな曇りが感じられたのが、すっきりしました。

 

 

6.視聴記 ('02.12.27)

TV横のサブシステムでの実験だったはずが、スーパースワンのメインシステムを全面的に上回り、自画自賛ですが、文句無しの出来です。我ながら面白いのが、低音が出ていない時には、再生音なんてこんなもの、と小音量で平気だったのに、低音が出るようになると「等身大」を求めて音量が増えてきたことです。その弊害としてサブソニックでコーンが揺れるかどうか、というと、これは録音次第。アムランのペダルの音が今のところ最凶です。

まず、最初にお断りしておきます。私はアンプの音の違いが殆どわからない人間です。そのくせ(後で出てきますが)バスレフ型は受け付けない、とか言っているのですから、ある「こだわり」は持っているようで、その「こだわる」ところが人それぞれなのでしょう。そして同時に低音の量が不足することにも、元々はこだわらない人間でした。

この回路を入れるにあたり、よく分かっていないから一番不安だったのがノイズでしたが、これは全然問題ありません。動作中に抵抗の足に直接手で触れば大きなハム(ブーンという音)はでますが、触らなければ良いのです。

歪み感は(私の感度の低そうな領域なので眉に唾つけて読んでいただきたいのですが)、これも分かりません。左右で、一方はクリスキット純正組み合わせ、他方はPMA-390→フィルタ→クりスキットのパワー、等で比べましたが、違いは低音の量の差にすぎず、その代償として悪化している所はない、と感じました。前章の最後で触れた作り直しの成果が多少はあるようです。

その「低音の量」ですが、迷惑千万なカーステレオがブンブン言わせている、「いかにも豊かな低音」とは全然違います。オーディオショップで大きな顔をしている、「いかにも大型という低音」とも全然違います。全然膨らまない低音なのです。一聴すると何の細工もしていない小型スピーカーのままのような音です。キャラクタを全然変えずに、低域限界だけを2オクターブ(ちょっと鯖読み)伸ばしたような感じです。

一番最初に聴いたヴェルディ作曲のオペラ「ドン・カルロ」(カラヤン指揮:DVD)で、違いに最初に気付いたのはティンパニの音です。芯のある一打一打がドロドロではなくバシバシッと聞こえるのです。これが Qtc< 0.5 のままで50Hz以下まで伸ばした威力でしょうか。なおこのDVD、「低音感」は非常にありますが、最低域は決して伸びていないというのが、他と比べるとよく分かりました。

元々フォステクスを使ったBHと比べて声の美しさでは勝っていた「長男」です。これが低音の芯を獲得した時に、まず聴きたくなったのが、マッチョ系の合唱曲、ベルリオーズ&ヴェルディの「レクイエム」です。ヴェルディ作曲「レクイエム」/ロンバール指揮ストラスブール管弦楽団、では、冒頭部分が殆ど無音としか思えないのが困ったものだと思っていたのが、低音がしっかり聞こえてきます。「ディエス・イレ」での打楽器は中身の詰まった音です。オペラも次々梯子して見ています。女声はトゥイータの威力で、男声はバスイコライザの威力で、隣に置いてあるマトリクスBHを圧倒します。低音は女声には関係無いと思いきや、息遣いみたいなものは結構低音であるらしく、バスイコライザがあるとないとで臨場感が随分違ってきます。

低音に特徴のある曲として、ストラヴィンスキー作曲「火の鳥」(1910年全曲版:ブーレーズ指揮ニューヨークフィル、1975年録音)を例に挙げましょう。その冒頭部分は「ステレオ」誌1999年1月号の対談で、金子英男氏がノーチラス801(1本100万円也の巨大なスピーカーです)で聴くと、「コントラバス8台あるうちの1台だけピチカートするんですね。それで、あとは弓で弾いているんです。その違いがよく出ますね。」としている(どの演奏を聴いての発言は分かりませんが)箇所ですが、うちの 14cm の「長男」でもその弾き分けは明瞭に聞き取れます。ちなみに、古いカローラのカーステレオで鳴らした時には全く何も聞こえなかった箇所です。

オルガンでも、マリー=クレール・アラン演奏のバッハ作品集(エラート)で、とんでもなく低い変ホやニの音が倍音を余り伴わずに朗々と聞こえてきたのにはたまげました。コーンが目に見えて持続振動します。ただしちょっと息苦しいとも思いました。オルガンはティンパニやコントラバスほどには得意でないようです。とはいえ、上述の回路改造が効いたのか、単に慣れただけなのか、今では息苦しいとも思わなくなってしまいました。

昔から声楽入りならもっぱら「長男」で聴いていた一方で、「長男」を避けていたのがピアノ曲でした。リスト全集の解説もBHスピーカーのどれかで聴いて書いていました。これが「長男」だと何かもたついた感じがするのです。ハワードのリスト全集から「クリスマスツリー」を聴いてみましたが、やっぱりもたついているように感じられます。

そこでふと思いついたのが、同じハイペリオンの最新録音でも芯の無い音で好みでは無い録音と思っていたアムランの演奏です。ショパン作曲の練習曲集を題材に戦前の大ピアニスト・ゴドフスキーがリメイクした超難しい練習曲集を聴いてみたら・・・これはいい!。ふと気が付くとペダリングの音が聞こえるではないですか。コーンを見てみると、ピアノ本来の音とは無関係にむしろペダリングに合わせてフラフラしています。振幅過大寸前で危ないのですが、しかし雰囲気は最高です。思うに、ピアノの音には私が妙なこだわりが有って、ハワードの録音+BH が上手くそれにはまっていたのでしょう。本当に Hi-Fi なのはアムラン+長男+イコライザ、のようです。これに限らず、コーンが盛大に揺れる録音の方が断然「雰囲気」とか臨場感」が出ます。

 

 

7.(付録)他の低音増強方法と比較して ('02.12.19)

本章は、単なる独断と好みだけを無秩序に述べていますから付録なのです。なお、本章ではティール・スモール・パラメータを説明抜きで使っています。ご了承ください。

密閉箱のいいところは、振動板の振動がそのまま音になると考えられるところです。他の形式では、振動板の裏側の動きをごちゃごちゃ表に持ち出してくるわけで、いくら理屈があるといっても、いかがわしさは否めません。箱の中の空気の挙動など、所詮非線形に決まっているのです。それがごく限定された条件で線形と見なしうる、としているだけです(私一応流体関係のエンジニアです。液体の方ですけれど)。

それに比べれば、電気回路なんか殆ど完全な線形と思っていいでしょうし、振動板の挙動も高域の分割共振あたりにくるとややこしいですが、それでも空気のややこしさに比べれば物の数ではありません。話を低域に限れば、振動板はピストンモーションしていると考えられますから、エッジやサスペンションあたりには随分と怪しさがあるものの、相対的にはほぼ線形と見ていいでしょう。

バスレフ方式は、流体の挙動に対する私自身の一般的不信感はさておき、理論的にはそれなりに確立していて、シミュレーションも容易に出来ます。しかし、私はバスレフの音を受け付けない、らしいのです。ポートの風切り音なのか、直接的な中高音の漏れなのか、はたまた低音での群遅延?を捉えているのか、自分では分かりませんが、2つ作ったバスレフ箱でどちらも響きがなじめず、どちらもポートに発泡ウレタンを押し込んで密閉にしてしまいました。2つとも天板にポートを付けたタイプで、前面にポートをつけるより中高音の漏れの点などでは有利なはずなのに、です。これは耳がいいとか悪いとかではなくて、何を取るかという好みの問題だと思います。どちらもQが低いにもかかわらず、密閉にして出なくなったはずの低音の量のことは殆ど気にしなかったわけですから。というわけで、最も一般的なバスレフですが、私の中では予選落ちです。

バックロードホーンは、怪しいという点ではバスレフの比ではないですが、個人的には嫌いではないです。初めて作っていきなり気に入ったのも、今にして思えば市販のバスレフとの違いを捉えていたような気がします。開口の強度不足でビリビリ鳴いたりするのですが、そうなっても「しょうがないなぁ」と補強を入れて済ませていました。振動板背面の低音を盛大に放出しているのですが、風切り音や中高域の漏れという点ではバスレフよりも抑えられているはずで、そこのところでバスレフより好んでいるのでしょうか?。とにかく私は元々低音がどうなってもあまり気にしない人種だったようです。しかし、密閉箱を計算づくでコントロールすることを知ってしまった以上、バックロードホーンで低音を出すというのは「楽しいキワモノ」ですね。作って楽しい、鳴らして楽しい、のですが、納得して作る、というのとは違うように思います。

一般的には密閉型の低音は重くてダルである、とされています。実は私は一般的な密閉型をしっかり聞いたことがないので想像でしか何も言えないのですが、低音を確保するために電磁制動を落としてQを上げて Qtc=0.7 を目指すという方法論から良い音がするはずないと思います。軽くて丈夫な振動板に強力な磁石を組み合わせ、長岡先生がバックロードホーン向きとした特性は、相対的にエッジ周りの怪しさの影響が小さくなる点で、やはり理想に近いものであり(微小入力への反応性、とか呼んでいる性質ですね)、このようなユニットを使うのをまず大前提にしたいところです。

そのようなユニットを使って、一番納得できるのは、やはり低音まで直接放射させることに尽きます。量的に不足するのを空気箱の共振や何かで補償するより電気的に補償する方が精度良くダンピングを悪化させること無くコントロールできるに決まっています。

そう考えると、今村さんのアプローチ、及び限定された条件でのみ実施可能なその超簡易版である今回の安易なアプローチ、は極めて優れた方法のように思えるのです。「線形近似でもいいから理想に近づけたい頭でっかちな気持ち」が納得する方法です。(線形近似じゃ我慢できない、というと、MFB = モーショナルフィードバック、振動板の動きをそのままフィードバックして制御するやり方=まで行ってしまい、これはもう私の手の届く範囲をはるかに超えてしまいます。)

私の安易なアプローチの方は Qtc < 0.4 という一見極端な推奨条件がつきますが、強力な磁石(駆動力)は低い Qts に直結するのですから一石二鳥ですし、SEAS や Scan-speak のウーファーには Qts<0.2 のユニットすらあるのですから、最初からそのつもりで作れば難しいことではありません。私が今回使っている SEAS の P14RC/TV も小さいながら偶々その部類だったのですが、Scan-Speak の18W8546-00 など、Vas=84L  が大き目なので箱が大きくなってしまうのを我慢さえすれば、fs=22Hz, Qts=0.19 の両方とも極端に低く、おあつらえ向きです。

こんな素晴らしい方法が一般的ではないのは何故か? 極端すぎるからでしょうか。fs, Qts とも低いものは普通密閉箱には入れないし、入れるとしたら Qtc を上げるためにも小さい箱でなくては駄目、というのが補正をしない場合の常識のところを、これを好都合とばかりに大きな箱でわざわざ低い Qtc に仕上げるのです。補正なしでは随分高い周波数からダラ下がりで、常識的にはとんでもないものになります。補正無しで使えないものをあえて作ることに漠然とした抵抗感があるのは分かります。Qts が 0.3 を超えるともう Qtc < 0.4 にするのは困難なので、ユニット選択の幅も限られます。これが今村さんのように、Qtc < 0.5 でいいよ、fc が高くてもいいよ、となれば、まだしも普通に近いし、箱も小さくて済み、ユニットの選択の幅もかなり拡がる=常識的な強力ユニットは大抵使える=のですが。

とにかく、18W8546-00 で単純計算による試算をしてみましょう。
Vas の 1/3 =28L の箱を作ると、fc = 44Hz, Qtc=0.38、ハイパスフィルタとしては 20Hz と 95Hz です。95Hz を 20Hz に移すと、fc’ = 20Hz, Qtc = 0.5 に再定義され、20Hzで -6dB、30Hzでほぼ -3dBになります・・・すげぇ・・・。しかも吸音材を入れればもっと下げられるはずです。
Qtc = 0.5 に再定義して 20Hzで-3dBとするには、ハイパスフィルタの低い方が13Hzであればよく、逆算すると、48L の箱で、fc = 36.5Hz, Qtc=0.315、ハイパスフィルタとして 13Hz と 103Hz  ・・・これでもまだ作れる範囲だぞ・・・。

問題は、ウーファー×1発でどこまでいけるか、でしょう。今村さんのところの 18W8545×4 で低域カットをどこまで下げられるか、まだ発表がありませんが、あちらも同じく 20Hz で -3dB だとしても、こちらの音量を 12dB 我慢すれば1発で同等になる計算です。なんとなくですが、今村さんと私とでそのくらいは常用音量の差があるような気がします。あるいはこちらが 20Hz:-6dB まで妥協すればサブソニック領域では 6dB 助かりますので、音量を 6dB 我慢するだけでいい。どうせ箱から作るなら、私なら一旦は 20Hz:-3dB を目指して、振幅過大ならフィルタで調整、にしたいですね。

 

8.(付録2)密閉箱の適正サイズは? ('03.04.05)

本章は、イコライザ以前の密閉箱のお話ですから、ますます付録なのです。

先の章でも触れましたように、「大きすぎる密閉箱は量感が不足する」と言われていて、一般的な密閉箱では Qtc = 0.7 に近い設定とされます。それを正当化する根拠として次のようなグラフが出されるわけです。

横軸が周波数(対数表示)、縦軸がゲイン(太線:目盛り左側)と位相(細線:目盛り右側)で、全て fc = 50Hz で Qtc をそれぞれ、0.3(赤)、0.5(橙)、0.7(黄)、0.9(緑)、1.1(青)とした場合の比較です。確かにピークを作らない範囲で低域を最大に伸ばしているのは、0.7(黄)です。0.3(赤)なんか、随分高い所からのダラ下がりでお話にならないように見えます。位相特性を見ても Qtc の小さいものの方が却って高域から回転していてあまり良くないように見えます。

しかし、実際にはユニットを選んで、そのユニットに対する密閉箱の大きさを選ぶわけです。この場合、fc は Qtc と連動して変化します。吸音材がどう作用するのか、が微妙なのですが、妥当な近似としては密閉箱を小型にするにつれて fc と Qtc とが比例して上昇すると見るしかありません。赤:fc = 30Hz, Qtc = 0.3 、橙:fc = 50Hz, Qtc = 0.5、黄:fc = 70Hz, Qtc = 0.7、緑:fc = 90Hz, Qtc = 0.9、青:fc = 110Hz, Qtc = 1.1、でグラフにしてみますと、

これでも、-3dB 周波数でみれば、かろうじて0.7(黄)が一番低くなっていますが、それに対し 0.3(赤)も今度は最大でも 2dB の差で収まっています。50Hz 以下では 0.3(赤)の方が上に来ています。この 2dB 差の故に「大きすぎる密閉箱は量感が不足する」と感じるのでしょうか?。一方で位相特性は Qtc が小さければ小さいほど優ります。

ここからは私の想像です。耳の感度は特定領域の2dB違いを気にするほどには敏感とは思えません。にもかかわらず小型密閉箱の「張りのある低音」が広く支持されるのは、位相回転のある=群遅延特性のよろしくない=音が、ともすれば「豊かな低音」と聴こえるからでしょうか。しかしそれは「原音」からかけ離れたものです。

ともかく、イコライザ無しであっても、密閉箱を作るなら精一杯大きいのが良さそうだ、と私は思うのです。

 

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