ペネロペ
ストラスブールの映像を字幕付きで公開しました。リンク先はこちら(21.03.07追記)
字幕製作者のノート:
フォーレのこのオペラの動画は、2015年の公演のものを翌年には入手していたのですが、ごく簡単な粗筋だけの知識で見ようとしても訳が分からず、睡魔に襲われて終了、を何度か繰り返しただけでした。が、ノクターン13番を練習し始めたところで、ウィキペディアでフォーレの「後期」作品をながめてみると、特に舟歌の頁で、この作品が頻繁に言及されていました。何とかしてみたいと思ってウィキペディアのこの作品の頁をあらためて見てみると、かなり詳しい粗筋と、リブレットへのリンクが見つかりました。
リンク先には、画像のリブレットと、その画像をOCRに掛けたと思しきテキストデータがあり、この両者を照合することで、テキストデータのリブレットを再構成できました(再構成するまではまともではなかった、ということです)。これをグーグル翻訳で英訳すると、さらに細かいところまで分かります。youtubeでは、手持ちの画像と同じソースに仏語字幕がついたものが、画像は悪いですが、見つかりました。これで、今どこ?という悩みからは解放されます。
勇んで字幕を付け始めました、が、さすがに英語字幕にするには無理があるな、と思い、英訳を探してみました。普通には見つけにくいところですが、過去の調査の中で見つけていた心当たりから、デュトワ指揮でノーマンが主役を歌ったCDのライナーノートの画像データを見つけ出しました(CD画像の下の Liner Notes のタブで開けます)。この中のリブレットおよび対訳の頁をフリーOCRに掛けてみると、英語部分はほぼ完璧にテキスト化できました。この他、IMSLPのボーカルスコアも手元に準備しましたが、リブレットと動画字幕との間の僅かな不同の確認以外は出番なしでした。
以上の最高の条件の下で、2月21日の日曜日から仏語字幕を付け始め、土曜日には一通りの見直しまで完了しました。記録的な速さです。英語字幕も第1幕は完了して第2幕に入っています。これもすぐ出来そうです。多分一番時間がかかるのが日本語化ということになりそうですが、2週後には、今youtebeにあるものより画質のいい動画に仏英日字幕を付けたものを公開出来るのではないかと思います。(ここまで21.02.28)
・・・と書いてからまだ一週間ですが、一気に仕上げてしまいました。リンク先はこちら
あれこれ書き足すのは、今度こそ次週に回します。(21.03.07追記)
音楽について:
ウィキペディアの頁を見るに、ワーグナーの楽劇方式の枠組みに、フォーレの音楽を流し込んだ、ということでよろしいようです。ライトモティーフは、そういう聞き方に長けた人にはもっと分かるのでしょうが、私に自然に分かったのはウリッセの動機だけでした。前奏曲冒頭から現れ、全曲を通じて頻繁に聞こえてくる四度降下は、『通奏低音みたいなものと思っていたので、これがペネロペの動機だとは思いませんでした』 (譜例はこちらのあらすじ頁に紹介があります)
ワーグナーの影響は枠組みだけに留まっているので、ワーグナー苦手な私にも平気なのだろう、と想像しています。「このオペラと同時期に作曲された、夜想曲や舟歌に、直接間接に影響している」というようなことが、これもウィキに書かれているのですが、これは私にはさっぱり分かりませんでした。夜想曲10番のコーダにウリッセの動機が現れる、みたいに書いてありましたが、そのままではなく、楽譜で確認しても「ここのことを言っているのかな???」程度にしか分かりませんでした。
同じ半音の衝突であっても、オケよりピアノの方がずっと厳しく響く、というのはあると思います。陰鬱で寂しいまま終わってしまうのが多い同時期のピアノ曲に対し、「ペネロペ」はハッピーエンドに至る筋立てを表現した音楽だ、という違いはあるかも、とも思います。
私としては、「ペネロペ」も、同時期のピアノ曲(全部ではありませんが)も、大好きだけど、この2つの関連性を敢えて言い立てなくてもいいのでは?と思います。まあ、そういう風に言ってくれたから、あらためて見てみる気になったのではありますが。
手持ち音源
Davin 指揮ストラスブール2015
今のところ、唯一の映像のようです。
マイヤベーアを例に出しますと、4つのグランドオペラは全て複数の映像が入手可能ですから、1つだけとなると、オペラコミックの「ディノラー」「北極星」並みの超マイナー作、になります。プロコフィエフだと、「炎の天使」なんか入手時点では唯一の映像でしたが、今は5つくらい手元にあって全貌を把握できていません。1つだけとなると「セミョーンカトコ」並みの超マイナー作、になります。
ですが、私はかなり好きです。DVDが幾つも出ているドビュッシー「ペレアスとメリザンド」も全然だめな私ですが、これはいけます。
主役のアントナッチには、これまで「一日だけの王様」を唯一の例外として、このサイトの各所で不満を書き散らかしましたが、これは非常にいいです。演技力があるからといって烈女役を歌って、でも烈女らしい声は全然出ない、というところに文句を言っていたのですが、この役は烈女役ではないですし、年齢と共に声に厚みが出てきた、というのもあるでしょう。無理な発声さえしなければ美声が生きます。ただ、見た目のことをいうと、20年、せめて10年早く歌って欲しかったところはあります。が、それも演技力で大幅にカバーしています。
ウリッセ役も声は中々いいです。ただ、前奏曲の途中で姿を現したその時から、よれよれの爺さんに見えてしまうのは印象を損ねます。ウリッセの姿を先出しするなら、最初に凛々しい姿を印象付けてから、よれよれの爺さんに変身するところを見せなければ意味がないし、それが出来ないなら、先出しなどしない方がマシ、と思います。
敵役陣にも大きな不満はありません。エウリュマコス役はいかにもな悪役面で適役と思える一方で、アンティノウス役は純愛青年みたいな顔と演技で、この人だけは最後の復讐を免除されたりするのかしら?などと余分な想像をしてしまいましたが、フォーレの音楽が既にアンティノウスを純愛青年風に扱っているので、これでいいのでしょう。
女中役にはスタイルのいい若手美人歌手が揃っていて、申し分ありません。爺や役、婆や役にも不満はありません。不満があるのは、世界初の動画収録というせっかくの貴重な機会だというのに、また色々やらかしてくれた演出です。
ウリッセの先出しは前述のとおりです。幕が開いたら女中達が皆掃除道具を持って嘆きの歌を歌い始めるのですが、その歌詞が「糸巻き棒が重い」・・・誰一人として糸紡ぎをやっていないのですが!!! でもここまではまだ良いことにしましょう。
1)女中たちが求婚者たちの横暴を嘆く、2)でも私なら求婚者の一人を選んでしまうのに、と歌う、3)その求婚者達が横柄にペネロペを連れてくるように言いつける、という展開が次に続きます。その2)のところで求婚者がそれぞれ女中といちゃいちゃする場面を見せて、それから3)で突然我に返ったように横柄になる、という不自然極まりない動きになっています。事後的に且つ最大限好意的に解釈すると、2)のいちゃいちゃシーンは、女中たちの妄想だったのだろう、ということになりますが、見ながらそう理解するのは到底無理です。
このシーンなどで、若手歌手は結構大胆に触られているのですが、もう少し先の場面では、アントナッチ様にセクハラを働く訳にはいかない、とばかりに歌っているアントナッチに触らない範囲で手がチラチラします。が、これが余計に下品で、いたたまれない感MAXになってしまいます。
この先でも、宮殿の中なのに水浸し、とか、海岸の丘に行ったはずなのにベッドがある、とか、変なのが次々出てきます。弓も何だか変です・・・・ではありますが、トータルではいいものを見せてもらった、と私は思っております。是非ご覧ください。(ここまで21.03.14)
Théâtre Municipal Strasbourg, October 2015
Gabriel Fauré: PénélopeOrchestre symphonique de Mulhouse
Choeurs de l'Opéra national du Rhin, Maîtrise de l'Opéra national du Rhin
Dirigent: Patrick Davin
Inszenierung: Olivier PyAnna Caterina Antonacci - Pénélope
Marc Laho - Ulysse
Élodie Méchain - Euryclée
Sarah Laulan - Cléone
Kristina Bitenc - Mélantho
Rocío Pérez - Phylo
Francesca Sorteni - Lydie
Lamia Beuque - Alkandre
Jean-Philippe Lafont - Eumée
Edwin Crossley-Mercer - Eurymaque
Martial Defontaine - Antinoüs
Mark Van Arsdale - Léodès
Arnaud Richard - Ctésippe
Camille Tresmontant - Pisandre