「ユグノー教徒」 : 字幕作成者のノート・・・着手時点から
伊英だろうと伊日だろうと、イタリア語台本を現在のネット上の自動翻訳に通しただけでは、字幕を作るのは不可能なのですが、
この作品はフランス語台本です(以上、悪魔のロベールの時および預言者の時と同文)。
以前から見つけていた、スペイン語対訳付き台本は→こちら
ボニング指揮シドニーオペラのDVDに英語字幕が付いているので、rare opera とは言いがたい作品ですが、字幕を付けてみることにしました。
自動翻訳は、この台本をそのままグーグルのテキスト翻訳(仏→英および西→英)に突っ込んでしまっています。「悪魔のロベール」「預言者」をやっていた頃は、自然な英語というには今一歩、と思いましたが、この10年ほどの自動翻訳の進歩は素晴らしく、概ね使えそうな英文を出してくれます。
上記シドニーオペラのDVDの英語字幕は、映像に焼きこまれた「ハードサブ」で、切り出しが上手くいっていないので、今のところ参考にはしていません。
その他、IMSLPのこの作品の頁、 https://imslp.org/wiki/Les_Huguenots_(Meyerbeer%2C_Giacomo) には英語訳詞つきボーカルスコア1種、英語対訳2種がありますが、対訳2種はカットが多すぎるようで、今のところこちらも参考になっていません。
対象の2018年10月のパリオペラ座公演の動画は、仏語字幕付です。これにかぶせる形で字幕タイミングを合わせています。10月17日の水曜日に始めて、日曜日には第1幕の終わり近くですから、1週間1幕のペースでしょうか。ぼちぼちやります。(以上18.10.21)
1週間1幕のペースを少しだけ上回り、金曜日に仏語字幕が第3幕終わりに達しました。英語字幕もそのほんの少し手前までは出来ています。台本の自動翻訳をしっかり読んで、ラウルの暴走の様子を詳しく把握できましたので、こんな駄文をかいてみました。(以上18.11.04)
11月10日の土曜日に仏語字幕(タイミングあわせ)と英語字幕(英訳)が出来ました。4週間強で全5幕のまずまずペースでした。そこまでできたらすぐ日本語字幕もできるかな、と思い、実際第2幕までは1日1幕ペースだったのですが、その後あれこれ忙しくなり、ペースダウンしていて、まだ第3幕途中です。来週には最後までいけるでしょうか?(以上18.11.18)
来週までにはいけるか?と書いてから2週間後にようやく完成しました。結局、フランス語台本とスペイン語対訳からの自動翻訳だけで全部作ってしまいました。ネイティブの人にどうか、は分かりませんが、大体は読める英語になっていると思います。日本語の方は更に大丈夫ですので、こちらの動画ファイルをお試し下さい。(以上18.12.02)
こんな頁まで辿り着いた奇特な方(本当に居るのだろうか?)には先刻ご承知でしょうが、この私がマイヤベーアの4つのグランドオペラを順位付けするなら、 「予言者」>「悪魔のロベール」>「ユグノー教徒」>「アフリカの女」 の序列は揺らぎません。
「予言者」が、音楽でもストーリーに無理が無い点でも最高だと思います。
「悪魔のロベール」は。悪魔(ベルトラム)の考えていることが分からなくても仕方ない、と割り切れば、その他の人物の動きに大きな無理はありません。
一方、「アフリカの女」のストーリーは、私には多分ずっと無理なのだろうと思います。
で、「ユグノー教徒」です。
ラウル君、ちょっと無茶苦茶過ぎませんかね? 謎の美女を助けたのは事実としても、名前さえ知らぬ美女が自分以外の男と話をしているのを盗み見ただけで、裏切りだ、ですか? その割りに、謎の招待状が来たらホイホイ付いていってウキウキして、それなのに、その美女を紹介された途端に、また裏切りだ復讐だ、で全部ぶち壊し、ですか? 落ち着いて話を聞けば、皆が自分に対して良かれ、と尽力していたことが分かったでしょうに。 それだけ無茶苦茶しておいて、受けて立つならまだしも、自分からサン=ブリ伯爵に決闘を申し込む、ですか?
そのバレンタイン嬢も随分おかしい。一度は自分を助けてくれたイケメン君かもしれませんが、訳も分からないまま公衆の面前で侮辱しまくった男に、愛想を尽かさないどころか死ぬまで付いていく、というのはどうかしています。
それらに比べれば、サン=ブリ伯爵の何とまともなことか。国王周辺の希望に沿って、あえて愛娘を敵方にやることを受け入れたのに、その相手が愛娘を公然と侮辱して拒絶する。1572年という時代設定(日本でいうと、姉川の合戦と長篠の合戦の間、になります)なら、こんな相手と決闘なんて刀の穢れにしかならず、暗殺しようとするのが普通な気がします。
さらにさらに、ヌヴェール伯爵、ええ奴じゃないですか。第1幕ではラウルが旧教徒の中で受け入れられるよう努め、マルセルの無礼も品良く見なかったことにし、第3幕では一度は諦めたバレンタインを喜んで受け入れ、第4幕では新教徒虐殺には加担しないとはっきり言う・・・・時代設定を考慮する必要が無い程に「ええ奴」だと思います。
このオペラに登場していないカトリーヌ・ド・メディシスとシャルル9世を別にして、登場人物だけ見ると、やっていることは旧教徒側の方が断然まとも、なのです。それなのに、台本が全力で新教徒側を応援しているところが、私にはどうも釈然としません。では、音楽はというと、無骨で洗練されていない音楽が、概ね新教徒側の方に割り当てられています。
が、この作品の音楽について一言言うなら、第2幕かな、と思っています。この幕は、ラウルの暴走で全てがぶち壊しになる幕であり、その幕切れで旋回する「ぶち壊しの大合唱」は大いなる聞き所、なのですが、問題にしたいのは、そのぶち壊しの場面までの音楽です。マルグリッドの宮廷を優雅に描く、ゆるーい音楽が続きます。ゆるいですが、音楽の質は低いどころではない高水準です。が、その後の「ぶち壊し」の予感も予兆も無い音楽を長く続けたのは、上手くいっているとは言えないでしょう。「予言者」でも、事が動き出すまでの場面=第1幕と第2幕で、何れもアナバプティストが現れるまで=に、予感も予兆も無い音楽を充てているのが少し残念なのですが、「ユグノー教徒」の第2幕は、それより大分残念度合いが強い、と感じています。(以上18.11.04)