第40巻:機会音楽集 お勧め度:D
またまた珍曲&初稿集で、3トラックを除き世界初録音。原アルバムタイトル”Gaudeamus Igitur - Pieces d' occasion”を訳するにも窮した次第。聞き覚えのある作品の初稿はそれぞれ悪くは無いのですが、この巻の稿を積極的に聞きたいと思わせるものには欠けます。
タイトル曲の「Gaudeamus Igitur - Paraphrase」(1843)は卒業式などに用いられる”student song”らしいのですが、解説読んでもこのピアノ曲が何なのかよく分かりません。学生歌に取材したピアノ曲であることには違いないでしょう。楽しいヴィルトゥオーゾ風派手派手曲、「半音階的大ギャロップ」(第28巻)の路線と思っていただければよいでしょう。あの域には達していませんが。これは初録音ではありません。
続く3トラックは忘れられたイタリア人作曲家作品の編曲です。この中では、かのドニゼッティの弟の作品を編曲した「La marche pour le Sultan Abdul Medjid-Khan」(1847)が派手で面白いとは思いますが、あくまでこの中では、の限定付きです。3曲中この曲だけは初録音ではありません。
「ハンガリー突撃行進曲」(1843)は管弦楽化されてそれをさらにピアノに戻した第2稿が第28巻に入っていますが、私の好みでは、生真面目なこちらの方が好きです。世界初録音です。「ノクターン」(1872)は第2巻の「即興曲」の第1稿、これは第2稿を取ります。続く「ゲーテ生誕100年祭祝典行進曲」(1849)も第28巻の第2稿のほうを取ります(この曲は初録音ではありません)。続く3トラックは第35巻で紹介に窮したロシア作曲家作品の編曲の第1稿、何れも悪くは無いですが、まあ第35巻で聴いておきましょう。
「Gaudeamus Igitur - Humoreske」(1870)は冒頭と同じ曲を遥か後年に編曲し直した?。ヴィルトゥオーゾ系には違いないのですが、あからさまではなく、一捻りもふた捻りもしていて、ディレッタントにはこちらが受けるかもしれません。最後が第2巻に出てきた「バラード2番」の第1稿(1853)、突然軽々しくなるコーダを除けばあまり違いません。
第41巻:ピアノ伴奏つき朗読集 お勧め度:D
もはや珍曲集どころか、キワモノです。考えてみれば、珍品というのは珍しければいいのであって、キワモノというのはある価値観を主張しているのですから、ただの珍品よりキワモノのほうがエライということになります。変わったCDをお探しの向きには大お勧めの一品です。
ピアノが唯一の楽器である作品だ、という理由でこの大全集に含めることにした、とはハワードさん冒頭の弁です。最初3トラックがドイツ語、あとハンガリー語とロシア語が一つずつです。ドイツ語の朗読者が特に素晴らしく、こちらの気分にうまく合うと訳が分からないまま引き込まれます。逆に気分が乗らないと、特にうるさくて聞いていられなくもなります。
特に最初2トラックは、「調性の無いバガテル」(第1巻)以上に現代的に聞こえて、アバンギャルドそのものと思わせます。シェーンベルクの「ナポレオン頌詩」と余り違わないような気すらしてきます。2トラック目はドビュッシーの生まれる2年前の作品ですが、全音音階を全面的に取り入れた西洋音楽史上最初の作品として知る人ぞ知る、だそうです。3トラック目はリストの弟子の Felix Draeseke(1835-1913)の歌曲を朗読伴奏曲に改作したものです。
私は文学方面には疎いので、もしかしたら有名な詩かもしれず、原題(ウムラウト・アクセントの類一切無視)と英題を転記しておきます。(ロシア語は止めておきます、トルストイです)。
1 : Lenore (1858/1860) :
Ballad by Gottfried August Burger
2 : Der traurige Monch ('The Sad Monk') (1860) :
Ballad by Nicolaus Lenau
3 : Helge's Treue ('Helge's Loyalty') (1860) :
Ballad by Moritz Graf Strachwitz
4 : A holt kolto szerelme ('The Dead Poet's
Love') (1874) : Ballad by Mor Jokai
5 : ('The Blind Man') (1875) Ballad by Alexey
Tolstoy