第17巻:オペラ編曲集その2(マイヤベーア、ワーグナー) お勧め度:C
今回このCDを聴いたのが何回目か、余り自信が無いのですが、結構気に入りました。馬鹿馬鹿しいことでも続けている間に三文の得はあるものです。Dになるはずが2階級特進させようか、とも思いましたが、ワーグナー中心の2枚目が今ひとつなのでCにとどめました。
CD1が1枚丸々マイヤベーアの「予言者」です。むしろこっちがいい。マイヤベーアというと、シューマンがケチョンケチョンにけなしまくった、というのが根深くインプットされてしまっていたのですが、この1枚聴くと、マイヤベーアも比べる相手が当のシューマンならそれより大分上にいきそうな気がしてきました。「予言者」は当時大当たりのオペラだったとのこと。当時の聴衆が皆間違っていてシューマンだけが正しい、という方が不自然なのです。このピアノ編曲から想像するに、類型に流れるきらいがあったのかもしれませんが、ツボを押さえた作曲家だったように感じられます。
最初3トラックが「”予言者”の肖像 第1〜3番」(1849-1850)、これだけで40分を超えますが、変化に富んでいて結構聴かせます。ただし、ものすごく難しそう。聴かせるまでに弾くのは普通の人間に出来ることではなさそうです。そう聞こえたと言うことは、ヴィルトゥオーゾの時代の本格派ショーピースのかなり正しい演奏、なのでしょう。オペラファンタジーというジャンルが実質死に絶えたことについて色々な意見がありますが、単にリストの以後のピアニストがリストと同じレベルで聴衆を魅了できなかっただけのことのように思えてきました。勿論ピアニストにしたら「労多くして功少なし」ですから、ピアニストの側が見捨てるのはこれも一つの当然です。時代はさらに流れ、CDがここまで普及すれば、これは実質的にピアニストの供給過剰を意味しますから、「労多くして功少ない」レパートリーにも一流ピアニストが戻ってくる、これも当然です。
続く3トラックが、「コラール<アド・ノス[私たちへ、魂の救いを願う人々へ]>による幻想曲とフーガ」(Fantasie und Fuge uber den Choral Ad nos, ad salutarem undam)、で副題が「”予言者”の肖像 第4番」、幻想曲-アダージョ-フーガ、とつながる、しめて30分近い大作です。これも難しそう、どころか、これは実は4手(連弾)で弾いているのでした。リスト自身の手になるものとして、オルガンまたはペダルピアノ用バージョンと4手用バージョンが同時出版されていて、リストのオルガン曲としては最も有名なものの一つなのですが、私の持っているCDに限るとオルガンでは聞いていられません。ブゾーニによる2手用編曲もあるのですが、それが今一ということで、ハワードがジェフリー・パーソンズとの連弾に及んだもののようです。この曲はショーピース系ではありません。主題だけ"Choral Ad nos"に求めた、まじめリスト系です。この長さに耐えられるなら、「BACHの主題による幻想曲とフーガ」に匹敵するかもしれない、と思って解説見たら、ハワードはロ短調ソナタになぞらえていました、なるほど。これは大変な作品です。
CD2は「Spiro gentil 」(1840)(ドニゼッティの「ラ・ファヴォリータ」より)から始まります。世界初録音で当然のように私には日本語訳が分かりません。静かな曲です。まあまあというところ。続いて「ドン・セバスティンの葬送行進曲」(1844)(ドニゼッティの"Dom Sebastien, roi de Portugal"より)、幾つ目の葬送曲になるのでしょう、その中では決して上位には来ません。「薔薇ーロマンス」(1876出版)(シュポーアの"Zemire und Azor"より)は可憐です。トラック1よりもう少しいい。
トラック4からワーグナーが続きます。「紡ぎ歌」(「さまよえるオランダ人」より)(1860)は、出来の良くないエチュードみたいで評価しにくい。原曲が面白くない?。「バラード」(同)(1872)は、ゼンタのバラードです。これも雰囲気の転換が不自然で今ひとつだな・・・。「巡礼の合唱」(「タンホイザー」より)は(多分)定評のあるところ。ただしブックレットが混乱していて、この巻も第42巻も第2稿、と表記されています。多分総目録が正しくて、この巻のが第1稿(1861)でしょう。確信はありません。「おお、おまえ、優しい夕星よ」(同)(1849)は、さすがにきれいですが、それだけで終わってしまいます。
「ヴァルハラ」(「ラインの黄金」より)(1876出版)が「指輪」からの唯一の編曲になったのはリストの弟子のタウジッヒが先んじて指輪の編曲をいくつも出したからリストは遠慮したのだろう、とハワードの解説。「聖杯グラールへの行進」(1883)はリストのワーグナー編曲ものの中では原曲から離れている点で変わっていると言うのですが、私にはこの巻のワーグナーもので一番面白い。でもこれだけ束にしても第6巻の「イゾルデの愛の死」の方が良いように思います。
むしろ本体のオペラも省みられていない、グノーの「シバの女王」による「Les Sabeennes - Berceuse」の方がありきたりな子守歌かもしれませんが、いいかもしれません。最後が「Fantasie sur I'opera hongrois Szep Ilonka」(モショニの”Szep Ilonka"より)(1867)、モショニは既に2回リスト&ハワードにより葬送されている人です(第12巻見てね)。なんというか、出来の悪いハンガリー狂詩曲が途中で終わっちゃったような、、、。
第18巻:劇場音楽でのリスト お勧め度:D
この巻を積極的に推薦するのはどうかと思いますし、コレクターズアイテムには違いないのでDとしましたが、リストを聞く頻度が増えてくると(さすがに増やしています)、飽きるどころか耳にリストがなじんできて、昔無視したはずのトラックが次々耳を引いています。原タイトルは"Liszt at the theatre"、オペラ以外の劇場用音楽(例えば「夏の夜の夢」は劇付随音楽とされている、等)の編曲集、と理解しています。
ベートーベンの「アテネの廃墟」から「行進曲」(1846)、つまり「ベートーベンのトルコ行進曲」です。このCDで3つ出てくるうちの一番普通の編曲、ま、こんなものでしょう。アントン・ルビンシュタイン編曲の「トルコ行進曲」が広まった煽りで、リストの「アテネの廃墟」は珍品となってしまい、3つのうち、2つまでもが世界初録音ですが。
リスト自身の合唱曲「解放されたプロメテウス」(1850-1855)より「パストラーレ」(1861)、自作編曲としては印象は薄いほうです。ところで元曲の邦題、あってるのかしら? 次いでウェーバーの"Preciosa"から(1848)、ますます印象が薄い。
メンデルスゾーン「夏の夜の夢」から「結婚行進曲と妖精のダンス」(1849-1850)はこのCDの目玉です。ホロヴィッツ編の「結婚行進曲」に比べれば、よほど大人しいですが、これはこれで十分素晴らしい、というのも超有名な原曲の素晴らしさに負うところ大です。私はメンデルスゾーンを余り知らないのですが、こちらも大変な天才というのは実感します。二流アマチュアの手に負える編曲で無さそうなのが残念。
ベートーベンの「アテネの廃墟」の主題による「幻想曲」(1852)、これだけ初録音ではないようです。トルコ行進曲はなかなか出てきません。かなり技巧的な曲ですが、ベートーベンの楽想と組み合わせられると何か時代錯誤的なものを感じます。
ラッセン(と読むのでしょう、Lassen, 1830-1904)の音楽から「交響的間奏曲」(1882-1883)、時代感覚は正しいのですが、霊感豊かとは参りません。続く4トラックも同じラッセンなのですが、4楽章のうち最初2楽章が「ニーベルンゲン」、後2楽章が「ファウスト」、元々別々の作品からの抜粋であるのをつなげたのはリスト? 何と言う題名でお呼びしたらよいのやら(1878-1879)。ラッセンならまだこっちがいい。
ベートーベンの「アテネの廃墟」より「トルコ風カプリツィオ」(1846)、とりあえずトルコ行進曲で始まるので安心できます。解説では「幻想曲」の方がまとまっている、とされていますが、まとまっていない分、時代錯誤的なものは感じなくて、こちらの方が好きです。