第14巻:聖エリザベスの伝説、他 お勧め度:S
購入直後に聴いた時には、なんじゃこりゃ、と暫く放り出していた、という我が身の体験を省みず、お勧め度Sです。特にトラック1、6、7に注目! 思い起こせば、fj.rec.music.classical 上でまさにこの全集紹介プロジェクトをやろうと思い立ち、暫く聞いてないCDも聴かなくちゃ、と取り出したのがこのCD、その時初めて目覚めました。何で最初は無視できたのか、と自分に自信を無くして、紹介プロジェクトの無期延期を決めた、といういわくつきのCDです。第8巻の「クリスマスツリー」も同様ですので、宗教がかったリストに対する嗜好が変わったのかもしれません。
リストの自作宗教曲の編曲を集めた一枚です。自作編曲の場合、編曲を嫌う人々の言い分の一つ、自分自身の霊感が乏しい作曲家が編曲などにうつつを抜かすのだ、という意見は当てはまりませんし、最初から最後までリスト自身の世界に居られますので、編曲に偏見の無いつもりの私でも、より安心して聴くことが出来ます。
聖エリザベスの伝説(原曲のオラトリオ:1857-1862)より3曲、1曲目は導入曲です。この妙なる響きを聞いて、原曲の冒頭はフルートに違いない、と確信しました。原曲のCD(S. Heinrich 指揮ワルシャワ放送交響楽団、KOCH Schwann 3-1291-2)を入手して聴いてみますと、予想通りフルート・・・なのですが、もう一つ面白くない。ピアノ独奏では胸をときめかせた妙なる調べが管弦楽では月並み調に留まっているように思えました。演奏の良し悪しもあるでしょうが、元の編成が何であれピアノ版が一番良かろう、という私の偏見の原因の筆頭がこれです。原曲の方が実際に「絶妙なるピアノ曲の何ともありきたりな管弦楽化」なのかもしれません。
第2曲は「十字軍の行進」、原曲には完全に対応する部分はありませんが、原曲の第1部第3曲(というのかな)では、このメロディはそこここで聞こえます。素晴らしい行進曲です。
第3曲「Interludium」は間奏曲、というところでしょうか、原曲(あまり真剣に聞いていません)の最後の所に大体対応しているようです、でもそれなら間奏曲は変だ? そもそもハワードの解説と原曲の解説が整合しないのです。・・・この巻はリスト協会の方面からどっと指導をいただけそうです、ご指導いただけたら改定していきますから。それはともかく、第1、2曲の路線を踏み外すことなくこれも美しい。
せっかくですから、オラトリオの元になった伝説を紹介しましょう。1221年、エリザベスがワルトブルグ城に輿入れ、数年後エリザベスは夫の目を盗んで貧しい人に施しをしていたのだけれど、それを夫に見咎められて、薔薇を摘んでいる、と誤魔化したところ、奇跡が起きてパンとワインを入れていたはずのバスケットの中身が薔薇に変わっていた、その神の恩寵に打たれて、夫は十字軍へ(ここまで第1部)。ところがその夫がサラセン軍との戦いで戦死、その知らせを聞くや、エリザベスの義母が城の全権を握って嵐の日に子連れのエリザベスを追い出したが、とたんに神の怒りに触れて、城に落雷、炎上して義母は焼死(第2部)・・・・・このどうにもピンと来ないお話を種に、良く言ってもまあまあの出来のオペラまがいのオラトリオが作られて、その抜粋のピアノ編曲は大傑作、と私は思っているわけです。
キリスト(原作オラトリオ1862-1866)より2曲、まず「羊飼いの歌」、ぱっと広い牧場が目の前に広がります、などといい加減なことを言っておきましょう、幸か不幸か、原作を知りませんから。重い曲ばかり印象に残る1860年代にあって貴重な「軽くても名曲」と言えるかもしれません。次の「3人の聖なる王の行進」でいいのかな?行進曲というにはせわしないですが、第1曲に続いて軽妙に始まります。途中からしっとりしたり盛り上がったり、ですが、どこを聴いても作曲者の真剣さが感じられます。でも少しだけ退屈かな?
聖スタヌスラウ、は1873年に着手された未完のオラトリオです。従ってそこから取られた3曲の着想時期は多分正確にはわからないのでしょうが、2曲のポロネーズは1875年となっています。これがどちらも大々注目曲。どうしてもショパンと比較しないわけにはいかない第2巻のポロネーズ2曲とは違って、100%リストの何とも怪しいポロネーズです。特に短調の第1曲、冒頭から怪しいのが、さらに怪しい和音の連続へと導かれます。これはやはり正真正銘の1875年ものかな? 長調の第2曲の方はまだ普通の曲に近く、常識的な意味でも偉大な曲と言えるでしょう。第2巻のポロネーズ2番に感じる無性格さは全く感じません。上昇音形の主要楽想は似ていなくもないのですが。ただしやたらと難しそうです。最後に爆走する所など編集の跡がありありと残ってしまったのは愛嬌でしょうか。
3番目は邦題アンチョコに載っててむしろビックリ、「めでたし、ポーランド」(1863)の題で、オラトリオの間奏曲として独立した原曲があるということは、オラトリオに後で編入された? このCDでは最長の曲ですが、やや見劣りするように感じています。とはいえ、突然のオスティナートAsからなぜかオスティナートAに移るあたりから、これまた怪しくも輝かしくなって、やっぱり楽しい。お終い近くの連続グリッサンドでは明らかにハワードさん外していると思うのですが、ポロネーズの最後とともに忙しすぎて取り直しできなかったのでしょうか? そうだとしてもこのCDのハワードは好調です。