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夏の夜、宵から夜半にかけて、銀河系そのものを観察したい。
それも、北上川のほとり、できれば岩手県花巻市、
かつての宮沢賢治が〈イギリス海岸〉と呼んで親しんだ
あたりから観察したい。長編『銀河鉄道の夜』の世界が、
今や眼下にある。現代はもう賢治の時代とちがって、
照明も多く、空気も濁っているが、しかし
まったく思いがけずに澄んでいることがある。
このあたりに立っていると、北上川というのはほんとうに大河だ。
そしてここでは、川は正確に北から南へ流れ、
南の地平線__水平線__では、水蒸気が立ち込めて、
茫々とかすんで見える見える。夜になれば、川は、
ここのあたりで銀河系と、天頂のあたりから南天にかけて、
なだれ落ちるようなあの銀河系・天の川と、まさに
「合体」するのだ。
一人、河原でカメラを、星空に向けていると、
星たちが雄弁に語りかけてくる。
まるで私をも、秀逸な詩人にでもしようと、ささやき、
そして〈誘惑〉する。
そんなカメラマン「コームラ」が長い長い間見続けた、
一瞬の夢の物語。
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