韓建築文化でオンドルが日本でも知られています。オンドルとは床下に熱煙を通し室内を暖める暖房設備のことをいいます。今日の床暖房設備と似ています。カマドを兼ねた焚き口で薪を燃やし、熱煙を床下の坑道に通して煙突から外へ排出します。今でも意匠を凝らした表現豊かな煙突が残っています。近年カマドは姿を消し、カマドからボイラーに変わりお湯を通して床を暖めています。このようなオンドルの形は紀元前の三韓時代に北部の高句麗で始まり、14世紀初の朝鮮時代には韓半島全域に広まったとされています。中国東北部にもカンと呼ばれる床暖房設備がみられ、また最近、7〜10世紀にロシア、中国、北朝鮮国境付近で繁栄した渤海の住居跡発掘調査でオンドル跡が見つかっています。直に暖かいオンドルの床にお尻がつくあぐらあるいは立てひざが次第に韓の座式となったと考えられています。
伝統韓屋の床構造はオンドルの他に板間、土間にわけられます。冬は断熱性を高めるため厚い土壁、低い天井、小さな窓になった閉鎖的なオンドルに対し、夏は壁のない開放的なマル(デチョンともいいます)と呼ばれる板間が生活の中心になります。すなわち伝統韓屋は夏と冬に対応した2つの生活空間を合わせ持っています。マルは日本の濡縁に似ていますが、日本の濡縁より広く、食事・団欒・接客・祭祀を行なう空間として多目的に利用されています。
日本の暖房設備といえば古くからイロリでした。大津・穴太遺跡や神戸・郡家遺跡などでオンドル跡が確認されていますが、ほとんど普及しませんでした。同じ東アジアでも中国では土足であり、そして韓と日本は靴を脱いで床に座るという生活作法が同じでありながら、日本ではなぜオンドルが普及しなかったのでしょうか。日本の座式生活作法は畳の発明によるものと考えられています。そして日本は地震が多いためレンガ、石を積み上げる組積式構造建築物は向いていません。もうひとつ大きな理由として高温多湿の気候から快適に過ごすため開口部をより広くすることが求められてきます。良質な木材に恵まれたことも相まって、柱・束・梁・桁・すじかいで構築する架構式構造が多く用いられてきました。土と石を積み上げる構造と熱を籠もらせる機能をもつオンドルは、日本では倒壊しやすく建物躯体の腐食を早めるものであったと考えられます。
記:社長