父の葬儀に鳥や獣はこなかったけれど

花びら散りかかる小型の涅槃図

白痴のす−やんがやってきて廻らぬ舌で

かきくどく

誰も相手にしないす−やんを

父はやさしく診てあげた

私の頬をしたたか濡らす熱い塩化ナトリウムのしたたり

農夫 下駄屋 おもちゃ屋 八百屋

漁師 うどんや 瓦屋 小使い

好きだった名もないひとびとに囲まれて

ひとすじの煙となった野辺のおくり

棺を覆うて始めてわかる

味噌くさくはなかったから上味噌であった仏教徒

吉良町のチエホフよ

さようなら


茨木のり子「花の名」(詩集「鎮魂歌」収載)より抜粋



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