みにくいアヒルの子

Ugly Duck


(アンデルセン童話)
(Andersen's Fairy Tales)

 
 
むかしむかし、あるところに、おほりに囲まれた古いお屋敷がありました。
Once upon a time,
there was an old residence surrounded by moats.
 
そのおほりのしげみの中で、一羽のアヒルのお母さんが
巣の中のタマゴをあたためていました。

In the bush at the moats,
a female duck was sit on eggs in the nest.
 
やがてタマゴが一つずつ割れると、
Later on, when the eggs broke,
 
中からは黄色い色をしたかわいいひなたちが顔を出します。
pretty yellow baby ducks came out of them.
 
ですが、巣の中で一番大きなタマゴだけが、なかなか生まれてきません。
However, the biggest egg out of all of them
didn’t break.
 
しばらくたって、やっとタマゴを割って出てきたのは、
たいそう体の大きなみにくいひなでした。

After a while, it was a big ugly baby duck
that finally came out of the egg.
 
みにくいアヒルの子はどこへ行ってもいじめられ、
つつかれて、かげ口をたたかれます。

The ugly duck was always picked on, pecked,
and talked behind his back.
 
はじめのうちはみにくいアヒルの子をかばっていたお母さんも、しまいには、
His mother was trying to cover him at first,
but she sighed,
 
「本当にみにくい子。いっそ、どこか遠い所へ行ってくれたらねえ」
“ You’re really ugly.
I wish you were gone somewhere far, ”

と、ため息をつくようになりました。
she came to say so.
 
それを聞いたみにくいアヒルの子はいたたまれなくなって、
みんなの前から逃げ出してしまいました。

When the ugly duck heard that,
he couldn’t stand it and ran away
from his family.
 
あてもなく飛び出しましたが、どこに行ってもきらわれます。
He didn’t know where to go,
but wherever it was, he was hated.
 
アヒルの子は人目につかない場所を選んで眠り、
起きればまた逃げ続けました。

He found a deserted place to sleep
and as soon as he woke up,
he started running trying not to be seen.
 
季節はいつの間にか、秋になりました。
Time had passed and autumn came.
 
そんなある日、みにくいアヒルの子はこれまで見たこともないような、
美しいものを目にしました。

One day, the ugly duck saw something beautiful
that he had ever seen before.

それは、白鳥(はくちょう)のむれでした。
It was a flock of swans.
 
長くしなやかな首をのばし、まぶしいばかりの白いつばさをはばたいて、
They were stretching their flexible long necks
and spreading their pure white wings,
白鳥たちはあたたかい国へと飛んでいくところでした。
and they were about to fly away
to somewhere warm.
アヒルの子はあっけにとられて、その美しい烏たちが
空のかなたへ去っていくのを見送っていました。

The duck was taken aback
and he was seeing them
flying away to the far sky.
 
「あんな鳥になれたら、どんなにか幸せだろう。
“ If I became one of them,
I don’t know how happy I would be.
いや、アヒルの仲間にさえ入れないくせに、そんな事を考えてどうするんだ」
Well, it’s no use bout it
because I can’t even join a flock of ducks. "
 
冬が来て、沼には氷が張りはじめました。
Then winter came and the pond started to ice up.
アヒルの子はアシのしげみにじっとうずくまって、
きびしい寒さをたえしのびました。

The ugly duck stayed still in the bush of reeds
to protect himself against the extreme cold.
 
そのうちに、お日さまはしだいにあたたかさをまし、
ヒバリが美しい声で歌いはじめます。

Gradually, the sunlight was getting warmer
and warmer and larks began singing
in a beautiful voice.
ついに、春が来たのです。
Finally, spring came.
 
アヒルの子は体がうきうきしはじめると、つばさをはばたいてみました。
The ugly duck felt so excited
that he spread his wings.
 
すると体が、浮くではありませんか。
Surprisingly, he flew.
「ああ、飛んだ、ぼくは飛べるようになったんだ」
“ Wow, I’m flying. I can finally fly ! ”
 
アヒルは夢中ではばたくと、やがておほりにまいおりました。
After enjoying flying, he landed on the moat.
 
その時、おほりにいた白鳥たちが、いっせいに近づいてきたのです。
Then a flock of swans staying on the moat
approached him.
 
「ああ、みにくいぼくを、殺しにきたんだ。  ぼくは殺されるんだ 。
“ Oh, they are coming to kill me.
I’m going to be killed.
・・・でも、かまわない。
But I don’t care.
みんなからひどい目にあうより、
あの美しい鳥に殺された方が、いくらましだかしれない。

I’d rather be killed by those beautiful birds
than picked on others.
さあ、ぼくを殺して!」
Now, kill me! ”
 
アヒルの子は、殺されるかくごをきめました。 しかし、そうではありません。
The duck was waiting to be killed.
But he wasn’t killed.
 
白鳥たちはアヒルの子の周りに集まると、やさしく口ばしでなでてくれたのです。
Instead, the swans surrounded the suck and
stroked him gently with their bills.
そして白鳥の1羽が、言いました。
And one of the swans said to the duck,
 
「はじめまして、かわいい新人さん」
“Nice to meet you, cute rookie.”
 
「えっ? 新人さん? かわいい? ぼくが?」
“ Rookie ? Cute ? Me ? ”
 
ビックリしたアヒルの子は、ふと水の上に目を落とすと、
The duck was surprised and looked down
on the surface of water.
そこにうつっていたのは、もうみにくいアヒルの子ではありません。
He didn’t see himself as an ugly duck anymore.
 
まっ白に光りかがやく、あの白鳥だったのです。
In fact, he saw himself as a pure white swam.
冬の間に羽が抜けかわって、美しい白鳥に姿をかえていたのでした。
His feather was molted during the winter
and he transformed into a beautiful swam.
 
「あたらしい白鳥が、一番きれいだね」
“ That new comer is the most beautiful, ”
みんなの声が、聞こえてきました。
the duck heard everybody saying that.
 
 
おしまい
The end
 
 
One-point Advice
   アヒルとは
 アヒルとは、マガモを飼育改良した家禽(かきん)の総称で、中国では
紀元前4000年ごろから飼われていたといわれ、古代ローマ人では
紀元前400年ごろから肉用に飼育していたといわれます。
 
 マガモの飼育はきわめて困難なので、おそらく巣にある卵をうばってニワトリに
抱卵させ、孵化(ふか)した雛(ひな)をかいならしたのが最初だろうといわれています。

これがヨーロッパ各地にもちこまれ、肉用や卵用、観賞用に改良されました。
 
   アンデルセン
 
1863年、58歳ごろのアンデルセン
 
 アンデルセンの童話がはじめて世にでたのは、1835年、アンデルセンが
30歳のときでした。それは、「子供に話して聞かせるお話」というタイトルを
もつ62ページのそまつな本で、「小クラウスと大クラウス」など3編の民話に
もとづいた話と「小さいイーダの花」という創作童話がおさめられていました。
 
 アンデルセンの文名は、その1カ月前に発表した小説「即興詩人」によって、
すでに高められたものの、童話は子供だましにすぎないとして、当時はあまり
評価されていませんでした。しかし、子どもやまずしい人たちによって愛読
されていることを知って、アンデルセンはそれ以後も童話を書きつづけるのです。
 
 そして、3冊目の童話集におさめられたアンデルセンの代表作である
「人魚姫」によって、童話もすばらしい文学でありうることがみとめられ、
アンデルセンは近代童話の確立者としての名声をえることになったのです。

 
 以来、40年間にわたって書きつがれた156編にものぼるアンデルセン童話は、
グリム童話とならぶ童話の古典として、今なお全世界の子どもたちに
読みつがれているのです。
 
 
福娘童話集からお借りしました。