山の民は、当時ではその生業のために里に住む農民から異人視され、 |
差別・賤視されていた。そのような山の民の女が蓮如絵伝に登場してい |
るのは決して偶然 のことではない。むしろ蓮如絵伝の作者に、むしろ意 |
図的に語り込まれたもので あった。ということは蓮如が交渉した人たち |
のなかには、こうした人たちが多か ったことを示唆しているのだ。 |
民俗学上でいう「ワタリモノ(渡り者)」である。渡り者とは、土着したよそ |
者の総称で、猟師・木地師・漆掻き・炭焼き・川師・山師等である。 |
「ワタリ」の者たちつまり非農業民は農業民=定着民から差別されてい |
た。そ のような人びとの間に入り込んで布教活動を展開したのが、蓮如 |
によって象徴さ れた真宗の僧侶であり、信者であったのだ。そして真宗 |
に触れ、教化されること によって「ワタリ」の人びと=非農業民たちは救 |
済され、この世で「人間」とな り、あの世で「成仏」できるようになったの |
である。 |
蓮如絵伝は、そうした救済されるべき「異人」たちとの蓮如の出会いと、 |
彼ら に対する教化の旅を描いたものなのである。 |
蓮如絵伝は、異人論という視点からみても、まことに興味深いテーマを |
たくさ ん含んだ絵伝だといえよう。 |
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「異人論からみた蓮如絵伝」(読売新聞社 刊「念仏のこころ」)より抜粋 |
注:三熱(さんねつ)畜生道で竜・蛇などが受けるという三つの激しい苦しみ。
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