模型飛行機という名称からラジコンやプラモデルを思い浮かべる人は,
きっと40代半ば以下の人でしょう.
私の小学生のころの模型飛行機とは「ヒコーキ」,
すなわち木や竹ひご,ニューム管(竹ひごをつなぐアルミ細管),
ピアノ線(脚,ぺラ軸などの鋼線)などを主材とし,
これらを糸やセメダイン,のりなどで組み立てるものだった.
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でき上がったらわくわくしながら校庭や原っぱに行く.
動力はゴムだ.
束ねた糸ゴムをペラ(プロペラ)を回してきりりと巻き上げ,
風の具合を見計らいながら,さっと空に放つ,,,
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写真の機体は岐阜県各務原の航空博物館で見つけ,40年ぶりに組み立てたもの.
ぺラやコメタル(軸受け),車輪などはプラスチックになってしまったが,
昔はみんな木でできていた.
ペラは紙やすりで念入りに薄く削り,軽く軽く仕上げたりしたものだった.
この機体を組み立てていて,いくつかの異変に驚いた.
<その1>
一応順調に作業が進み,いよいよ翼に薄紙を張る段になった時のことだ.
「さて,のりは,,,,」
子供のころはうどんこ(小麦粉)を煮たり,フエキ糊をお湯で薄めたりして,
簡単に作ったりしたものだった.
とりあえずスーパー雑貨屋に糊を買いに走った.
あった,チューブ入り「フエキ糊」(\98)が.
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早速糊を皿に出して湯を加える.
ところがである.
なかなかこれが湯に溶けない!
もっこりした半透明の糊の塊が,混ぜても混ぜても
水たまりの中でいつまでも粘ってる.
やがてなんとか時間とともに徐々に薄まっていくのだが,
それでも決して均質にはならなかった.
たかが糊なのに一体どんな成分を調合しているのか,,,
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<その2>
いよいよ翼に紙を張る.
大雑把に翼をはみだす大きさに紙をカットしておき,
竹ひごに糊を万遍なく塗っていく.
刷毛も筆も使わない.指先でちょいちょいと塗る.
次にそっと薄紙を翼にかぶせ,しわを伸ばす.
ここで次の異変に突き当たった.
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翼の上で紙をそっと引っ張りながらしわを伸ばす.
そしてだいたい大きなしわが取れた頃,はみ出し部分を下に引くと,糊に濡れた薄紙は
翼の形に沿ってめろめろとちぎれてくれる,,,はずだった.
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ところがこの薄紙,全然ちぎれてくれないのだ.
昔は薄紙を翼にかぶせた瞬間に,薄い糊がすっと薄紙に染み上がってきた.
でも,そういえばその日は糊の染み上がりが見えなかった.
一見昔と同じようなヒコーキ紙なのだが,実は紙としての性能は格段に進歩している.
糊が染みもしなければ,濡れて簡単にちぎれたりは決してしないのだ.
これじゃヒコーキ紙じゃぁない!
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<その3>
とにかくなんとか四苦八苦して薄紙を翼に貼ることに成功.
最後の仕上げは,紙に残った小じわを取る作業だ.
これはほんとは簡単.貼った紙を霧吹きで湿して,乾かすだけ.
湿ってたるんだ紙は,乾きながら収縮し,
乾ききったときはしわ一つなくパシリと仕上がる,,,はずだった.
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霧吹きは昔通り口に水を含んでプーッとやる.
ああ,これも勘がにぶってややぼってりとかけすぎてしまった.
昔ならこれでもう失敗.貼り直しだ.
ところがところが不幸中の幸い.今度は紙がそれほどたるまない.
(濡れてもちぎれない紙なんだから当然? 予備紙もないしまあいいか...)
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で,それが乾き上がったときは,残っていたしわも一応減った.
しかし昔のようなきれいな仕上がりにはならなかった.
そんなこんなで,変わっていないように見えても,
40年の歳月は素材をずいぶん変えた.
ヒコーキ作りを通じて,そう感じさせられたのだった.
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