2012-6 FrontPge
< 黒い金星(再) >
-2012.6.6-
金星と言えば「宵の明星、明けの明星」で知られるが、
この6月6日、内惑星であるその金星が、太陽の前を通過するという現象があった。
「金星の太陽面通過」、「金星日面通過」、「金星過日」等々の呼び名がある。
今回は8年ぶりの現象だったが、
実は、その前は130年も前の文明開化時代、そして次回は105年後、という世紀をまたぐ極めて稀な現象だ。
半月ほど前(5月21日)に日本中を沸かせた黒い太陽(日食)は、
地球規模で見れば毎年2回ほど起きる。
それに比べると「黒い金星」は桁違いに珍しい現象なのだ。
2012年6月6日13時17分 薄雲の中で終盤の黒い金星
(Panasonic HDC-TM70 35倍ズームビデオ + ソーラーフィルム)
上の写真は長崎市の金比羅山で撮った。
太陽の前で黒いシルエットとなった金星が、6時間余りをかけてゆったりと動いて行く。
まさに「惑星運動そのもの」を目から直接体感できるひと時だ。
わざわざ長崎に来たのにはわけがある。
はるか138年もの昔、文明開化の時代(明治7年)に起きたこの現象を観測するために、
フランスやアメリカから天文学者の一行がこの地を訪れた。
ここ金比羅山はその観測基地が置かれた場所で、その記念碑も遺されている。
そんな由緒ある場所なのだ。
(詳細はこちら)
この日私がここに到着したのは、金星通過も中盤を過ぎたお昼頃だった。
金星観測ゆかりの地であるこの山は、さぞかし大勢の人たちが押しかけていることだろう。
きっと地元プロ・アマの望遠鏡が何本も立っているに違いない、、、
そう思いつつ来てみると、意外にもひっそりとしていた。
そこにいたのは、来る途中で一緒になった新聞記者さんや地元の方たち計5人だけ。
お二人で登ってきた主婦たちは、
「金星のためにきたけど、何も持たずにきたので全然わからない」
と笑っていた。
「それじゃあ一緒に見ましょう」と、遮光フィルム付きの10倍双眼鏡を手渡してあげる。
しばらくは太陽を視野に入れるのに苦労していたが、一旦捉えると、
「わー、見えた、見えた!」
と大歓声。
私の持ってきた金星観測用機材は、この双眼鏡と小型ビデオカメラだけ。
自分用の、至って質素な道具だったけれど、
一渡り全員が黒い金星を目にして喜色満面の顔々に、私自身の感動や嬉しさも倍加していった。
こうして過ごすうちに、ミニ「世紀の天体ショー」は終わりを迎えた。
(2012.8.5)
「金星の太陽面通過」(国立天文台)
「明治7年 金星の日面通過について」