最近こんな資料を手に入れた。
戦前に市販された、吉田初三郎(1884-1955)の鳥瞰図だ。


「名古屋市鳥瞰図」吉田初三郎(昭和12年、名古屋汎太平洋平和博覧会事務局)
拡大図)

昭和12年と言えば、今から75年前、日中戦争勃発の年だ。
軍靴の足音が高まりつつある中、
7月の盧溝橋事件をきっかけに、泥沼の戦争へと突き進んでゆく始まりの年だった。

その少し前の3月から5月、名古屋では「名古屋汎太平洋平和博覧会」が開催されていた。
きな臭さで沈みがちな時代、景気づけの一環でもあったろう。
この博覧会を機に、当時の人気絵師・吉田初三郎に描かせたのがこの鳥瞰図だ。

構図はおおむね名古屋市の西上空から東方向を俯瞰したもの。
ところが、天才絵師・吉田の自由自在な視野によると、
東西南北・遠近の名所が、大胆なデフォルメによって隈なく描きこまれることになる。
画面右端は、遥か東京、富士山から始まって、南の伊勢神宮へと渡る。
左端は門司から海を越えて朝鮮、満州、浦塩(ウラジオストック)へと、超大パノラマが一枚に展開されているのだ。
デフォルメはされても手抜きはない。
およそ当時のランドマークの位置関係は、かなり正確に再現されているから感動する。
これぞ吉田初三郎式バーザイビュー(bird's-eye view)の真骨頂だろう。

ここに描かれた名古屋の町は、8年後の大空襲で焼き尽くされてしまった。
しかしこの中に、今に残るランドマークを重ねて眺めていると、
実に感慨深いものが湧き上がってくる。
(2012.2.5-8)