2008-10 FrontPage


F1観戦記


最近休日は持病の腰痛で引きこもりがちなところに、突然、
「明日F1を見に行かないか」
という誘いが来た。招待券が手に入ったのだという。
これまでは、F1の実戦などテレビでしか観たことはなかったのだが、
今年の日本グランプリは、昨年に引き続き富士スピードウェイ(FSW)で行われる、とか、
中嶋悟の息子、一貴がトヨタの車で出場するらしい、ぐらいのことは知っていた。
ほとんどF1オンチだが、これを逃したら一生F1など見る機会はなかろう。
そう思ったらたちまち好奇心が沸いてきて、すぐさま誘いに乗ることにした。


富士スピードウェイにて(2008.10.12)


さて当日、席は一応メインスタンド。前から5列目だ。
しかしスタート地点からはかなり後ろに離れた場所で、スタート前のセレモニーなんか、
何をしているのかさっぱり分からない。
そうこうするうち13時になった。
席からはるか左遠方に並んだF1カー達が「バリバリバイーン!バイーン!」と一斉に吼え始めた。
スタートだ!



やかてコースを一周してきた車たちがダンゴ状態で次々目の前に全速力で現れる。

「ビーバリバリバリギャォーンーーー、ビーバリバリバリギャォーンギャォーンーーー!」
(「ビー」は近づいてくる時、「バリバリ」は目前で発する音、「ギャオーン」は走り去る時)

目の前をぶっ飛んでいく車のその排気音たるや、生半可な音量ではない。
テレビで聞き覚えのある音などとはまるで別物だ。
F1の排気音は、何百馬力もの動力を絞り出すエンジンのピストンを蹴り上げた爆圧が、
周りの空気を直接、機関銃のようにバリバリと叩き揺るがすのだから当然だ。
それも始めのうちはダンゴ状態で巡ってくるので、
大音響が続いた後はしばし静寂が戻る。
ところが時間が経つにつれ車間が分散してくると、「バリバリギャオーン」がのべつ幕なしに襲ってくる。
F1カーが通過するたびに、まるで往復ビンタを食らったように、耳がキーンと痛くなる。
(何をいってるのか。これぞF1の醍醐味じゃないか!)

ところで、、、
メインスタンド(つまり直線コース)の面前5列目という席は、
最高速300km/hの物体が右から左へ次から次とブッ飛んで行く。
動体視力が衰えた目には、一体どの車がどういう順序で走っているのかサッパリ分からない。
席位置が低いので、ピットインする車だって、FUJI TVやTOYOTAの看板の向こうに隠れて全然見えない。
ひたすら爆音の連続往復ビンタを浴びながら、ハッキリ言って面白くもなんともないのだ。

そのうちに、目の前を通り過ぎるF1カーの排気音が、なぜか皆単調に聞こえてきた。
聞いていると何故かどいつもこいつも同じ音質音程で通り過ぎていく。
あれこれの規制はともかく、気筒やギヤやタイヤなど、車ごとに音程が変わる要素はいくつもあるだろうに・・・。
違って当たり前のはずが、一体なぜ皆同じなのだろうか(※)

ふと我に返り、この場におらずとも、いつ難聴が来ようとおかしくないかも?の自分の歳を思い出し、
ゴールを待たず、連れとほうほうの体でその場から逃げ出した。

2008.10.14-11.3



※)一体なぜなのか、の理由

そもそも、そんな疑問(なぜ排気音が皆同じか?)が沸いたということは、
いかに私が「F1オンチ」であるかを図らずも暴露してしまったことであって、些か恥ずかしい思いだ。

この12月初、ホンダがレースの最高峰F1から、今季限りの完全撤退を発表し、ファンや業界を驚かせた。
40年以上前、弱小自動車メーカーだった頃のホンダは、
創業者本田宗一郎の「F1は走る実験室だ!」との一声でF1に参戦を開始した。
その後、連戦連勝の輝かしい時代もあったが、最近は成績が低迷していた。

一方その間、F1のレギュレーションは、排気量の増・減や、ターボの登場・禁止などをはじめ、
安全や技術の進展に伴い、細部までめまぐるしく改定されてきたという。
(一説には、連戦連勝するホンダを封じるための規制の歴史だったとも)
そして、最近のエンジン規定では、
NA(自然吸気=ターボ禁止)で、排気量は2,400cc、4気筒、とされ、
おまけに、最高回転は19,000rpmとまで規制されているそうだ。

うへ〜、これじゃあ、最高速で突っ走るメインスタンド前の直線路では、
「どいつもこいつも同じ音程」になるのは当たり前ジャン!
そんなこととは知らなかった。
こりゃタミヤのラジコンの“実物大模型”かよ、じゃああるまいが、
少なくとも「走る実験室」の意味合いは、とっくに過去のものになってしまったに違いない。

2008.12.30