「・・・・で、あるからして、この式は公式である・・・    」
ふゎ・・・眠・・。
   目の前では数学の先生の授業が淡々と進んでいく。
高校に入学して半年ともなると、最初のうちは緊張感を持って授業を聞いていた生徒たちも、
次第に学校の雰囲気になれてきて、授業や集会などで寝たりサボったりする姿がちらほらと見えてきた。
もちろん私もその一人だ。 いや、だった。
なぜなら今回の席替えで運悪く先生の目の前という不運な席になってしまった私は、
がんばって眠気と戦っているというわけなのだ。
うぅ、でも本当に眠い・・・・・。
そろそろ、まぶたが限界に達しようとしたとき、救いのチャイムがなってくれた。
「おっと、それじゃあ時間だな今日はここまで、しっかりと復習しておくように。それじゃあ室長。」
「はい、きりーつ。礼。」
ありがとうございましたー、とみんなぞろぞろと席を立っていく。 
私も、んっと一つ伸びをして席を立つ。
すると、いつも私と一緒にいる自称親友、三波 沙良と霧島 華の二人がにやにや笑いながら近づいてきた。
「さっきの数学の授業がんばって耐えてたねー」
「うっ、仕方ないでしょ、眠いものは眠いんだから。 そういう沙良はどうだったのよ?」
「寝てたわよ!」
「威張るな!」
あははは〜と能天気に笑う二人がうらやましい。
なにせこの二人は窓際と廊下側の一番後ろの席なのだ。
寝ていてもほとんどばれる事はない。
おまけに華の方は寝てるのにいつもテストの成績はいいときているから世の中不公平だ。
「そうそう、皐月次の授業、何か知ってる〜?」 
そう、にやにや笑いで聞いてくる沙良。
「次の授業?」
なんだったっけ?と後ろの黒板を見で、探す。
今が3時間目だから、次の授業は・・・・・
「うゎっ」
授業がなんであるかを知った私は短く悲鳴を上げた。
「そんないやそうな声出さなくてもいいじゃないか。」
突然後ろから声が聞こえた。
もちろん相手は声でわかった。わかってしまった。
ギギギギギ と擬音が聞こえそうなぐらいのぎこちなさでゆっくりと振り向く。
そこにはさわやかな笑顔を浮かべたわが宿敵、英語教師の宮元 悠樹・・・先生 が立っていた。
「なに?そんなに俺の授業がいやなの? 」
「いやです。」
「なんで? せっかく好きになるように一番前の席にしてあげたのに。」
そうなのだ、今私が一番前の席にいるのはすべてこの悪魔のせいなのだ。
なぜなら、この先生は私の大嫌いな英語教師にして、私のクラスの担任なのだ・・。
私がこの席になった原因は1ヶ月前。
私が苦手な英語の授業で、いつもと同じように眠っていたときのことだった。

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「それじゃあ、ここの問題は〜 皐月、やってみろ。」
当然私は爆睡していたので、呼ばれたことにも気づかない。
何人かが起こそうとしてくていたらしいのだが、私の耳にはまったく入ってきていなかった。
「皐月! 木下! 木下 皐月! 」 さすがの私もここまで大声で名前を連呼されれば目が覚める、
んっ、とひとつ伸びをして顔を上げて、

「誰か呼んだ?」

と聞いてみた、
なぜか返ってきたのは沈黙で、みんなの視線をたどると私のすぐ前あたりを向いているのに気づき、
今が何の時間か思い出して、おそるおそる前を見た。
すると引きつった笑いを浮かべた先生がそこにいた。
「俺の授業中に爆睡とはいい度胸だな? 木下。」
「先生の授業だけじゃないよ?」
そういうと先生は少しあきれたように沈黙して、
次に顔を上げたときにはその顔にさわやかな笑顔(後でこの笑顔をした時は何か思いついた時だと知った。)を浮かべていた。
「お前今日から席俺のまん前な。それから、授業中に寝たら、俺の授業の時にあてまくるからな。」
そういって、前に戻っていった。
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ということがあったのだ。
沙良たちは自業自得といっていたけど、向こうはばれてないのになんだか不公平だと思う。

そんなことを考えていると先生は、寝るなよ〜と私に目で念を押して、
自分の授業に入っていった。