きっとこのときの僕は魂が抜けたようになっていたに違いない。

部屋についてから、目の前に拡げられているドレスの山々・・。 
しかもその殆どが可愛くフリルなどをあしらったものばかりで、
それらを見ていると、さきほどの決心など紙切れのように吹き飛んでしまった。

「あの〜クラウ、やっぱりほかの方法考えない?」
ダメです!と何度目かの強い返事。
なんで?と聞いてもさっきまでのように、
「今から考えてちゃ時間がありません、ここにいたくないんですか?」
と言われるだけだろう。 
というか勝手に喚ばれたわけだから、いたいもいたくないもないんだが、
それを言ったらどうなるかは目に見えてるし、

はぁ、こちらも何度目かになるため息をついて
「わかったよ、なるべく派手じゃなくて、そういうフリルとかがついてないのにしてね」
と精一杯の交渉をする、 
わかりました、と服を捜索しながら言うクラウの姿を見てもう一度ため息、
ため息をつくたびに幸せが逃げていくというけれど、もう十分不幸せだ。

クラウが持ってきた服を僕が却下する、という作業が10回ほど行われたあと、
ようやく、少しまともな服が見つかった。 
まともといっても今までのに比べればというものだが・・。

「それじゃ、早速着てみてください。」

とまるで太陽のような笑みを僕に見せながら死刑宣告。
僕は、自分の目の前にある服とクラウを交互に見て、しばしの逡巡の後
意を決して、言った。

「やっぱりやめない?」
「ダメです。」
結局ダメでした。

仕方なく、そろそろと着替えに・・・・
「ってクラウいつまで見てるの?」
そう聞くとクラウはそのことに気がついたのか顔を赤くして、
す、すいませんと一言言って後ろを向いた。
クラウが向こうを向いたことを確認した僕は、 ふぅと一つため息をついて改めて渡された服を見てみた。
その服は、ワンピースの形で、着るときも普通に着ればいいだけという簡単なもの。 覚悟を決めて、今着ている服を脱いで、ワンピースを着込んだ。
うぅ・・足元がスースーするよぅ・・・。 なんだか泣けてきた。 
こんな姿絶対に家族や友人には見せられない・・・・。
はぁ〜とこの日何度目になるかわからないため息をついた。
「着替えはおわりましたか?」
こちらの様子が気になったクラウが聞いてきた。
「うん、まぁ一応・・・。」
それを聞いて振り向いたクラウの目が大きく見開かれた。
「すっごく似合ってます・・・。 まるで本当の女の子みたいです・・。」
本当の女の子みたい・・・・・・。
なんだかショックで涙が出てきそうだ・・・。
しかしクラウはそんな僕の様子に気づいた様子もなく、僕を手招きして言った。
「さぁ、みんなに新しい女王様をお披露目に行きましょう。」
・・・なんか、非常に泣きたくなった。 ていうかちょっとだけ泣いた。