それは幻想的なまでに美しい光景だった。
全てを覆い隠そうとする漆黒の闇
闇に対抗するかのように輝く純白の雪。
そして、まるで炎のように純白を染めていく紅。
そんな中で私が見上げた先にいたのは、
白銀の髪をした、 ―――天使。
安息と恐怖を同時に連れて来る、紅の死神。
 
「・・・ッぁ」

恐怖のあまり、声が出なかった。
その、漆黒の闇よりもさらに深く、暗い、闇色の瞳。
光を、否、全てを飲み込む、瞳。
その瞳に見られた瞬間、自分は絶対に逃げられないことがわかった。

1歩、2歩、3歩、足音も立てずに絶望が近づいてくる。

そして、私からちょうど、5歩離れた場所に立った死神は、天使の微笑で私に告げた。


「死の安息か生の苦痛か、選びなさい。」


その問いに私は何と答えたのかわからない。
ただ、いままでの濃厚な闇の気配が少し薄れ、
そして、その紅き死神は私にその鎌を振り下ろすことはなく、
私に、不思議な、まるで羨ましがっている様な、表情を残して
  
―――姿を消した。