雨の突堤




これは昔、餌釣りで訪れた渥美半島の越戸突堤でのこと・・・


5月のゴールデンウィーク最終日。この日は雨の降りだしそうな曇天だった。

それでも突堤には数人の釣り人の姿があった。

むしろ、こんな天気の方が釣りをするには向いていることは誰もが承知だろう。

釣りに夢中になっていると、やはり雨がポツリポツリと降りだした。

こんな空模様からみんな雨具の用意はしてきたみたいで、我々も含めみんな合羽を付けだした。

暫く釣りに夢中になっていたから、いつ頃からか気にしていなかったのだが、

波の音に紛れて、どこからともなく女性のすすり泣く声の様なものが聞こえて来た。

周りを見回しても男の釣り人以外、女性はおろか猫の子1匹さえ見当たらない。


気のせいか・・・


と、思いたいのだが、気にすれば気にするほどその声は聞こえてくる。

何処からと言えるものではなく、波の音に紛れて聞こえてくる。

そうこうしていると釣人が1人片付けだしたかと思うと、2人帰り、3人帰り、・・・帰り・・・

残されたのは我々だけになってしまった。


するとワンワンが私の傍に来ると、何か女のすすり泣くような声が聞こえんか?と・・・

やっぱり気のせいではなかったのか、ワンワンもその声を聞いていたのである。

帰って行った釣り人たちも、あの声が聞こえていたのだろうか?

だからみんな慌てて逃げるように帰って行ったのだろうか。

全ては謎であるが、あまりにも不自然な帰り方をしたのは何故だったのだろうか。












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