平成11年10月に閉館した大阪の道頓堀にあった松竹中座の奈落には、八兵衛という狸が祀られていた。
江戸時代、この狸は人間に化けて淡路の国から初代片岡仁左衛門(1658〜1715)の芝居を見にきていたが、木戸銭に木の葉が混ざっていることに不審を抱いた劇場の人間が放った犬に食い殺された、という伝説を持つ。その後、中座から客足が遠くようになったが、仁左衛門の夢に現れた八兵衛狸の「祀ってくれ」という頼みに従い、その通りにすると再び中座は活気を取り戻したそうである。
この八兵衛狸は、淡路に伝わる柴右衛門狸のことであるというのが通説であり、中座の閉館が決定した際に「淡路へ返そう」と提案された。が、八兵衛狸を祀る小祠には中座の氏神である生国魂神社(天王寺区)の摂社、源九郎稲荷の分霊も合祀されているため、淡路と生国魂神社の間にて本家争いが起きた。
結果的には「どちらも本家」ということに落ち着き、11月1日、淡路の洲本に返還され、「芝居の神様、柴右衛門狸大明神」として、蜂須賀家の祈願所であった洲本八幡神社に祀られました。
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