明治の初めのお話です。百姓仕事もひまになった冬の初め、西の土居の若い衆がお茶屋谷へ毎日たきぎを採りに行っておりました。ところが木の枝に掛けていたおべんとうがよくなくなるのです。ある日みんなで相談をして、今日はべんとう泥棒をつかまえてやろうと、木の陰にかくれて待っておりますと一匹の狸が出てきました。そしておべんとうを取って逃げようとするところを、引っ捕らえました。
「このタヌキめ!!」と、みんなでかわるがわる棒でなぐっていると、とうとう死んでしまいました。すると誰かが「タヌキ汁にして今晩一杯飲もうや。」といいますと、一同は賛成してその晩タヌキ汁をつくりお酒を飲んでドンチャン騒ぎをしました。
ところがそのあとにたいへんなことが起こりました。翌日タヌキ汁を食べた人はみんな病気になり、またその家にも不幸なことがつぎつぎと起き、西の土居中は大騒ぎとなりました。さっそくある所から霊能者を呼んで来ておがんでもらいました。すると霊能者は「我は一宮神社の子女郎狸の曽孫であるぞ、よくも我を殺して食べたな、お前達の家には七代祟ってやるから覚えておれ!!」と大声でいうのです。
みんなすっかり驚いて恐ろしくなり、「どんな償いでもするからどうかお許し下さい。」と、あやまりました。そしてお寺の坊さんにお願いしてタヌキの供養を丁重にしました。それからみんな病気もよくなりました。
この話は西の土居町にあったほんとうの話です。
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