西新井薬師の近くに、小野篁作と伝わる地蔵菩薩を本尊とする満願寺がある。現在の本堂は広く立派なものだが、かつては小さく粗末な御堂で、老いた和尚さんが一人で住んでいるだけだった。
ある寒い冬の晩、荷物を背負った一匹の狸が現れ、「寒いので囲炉裏に当たらせてください」といった。和尚さんは「どうぞ」といい、狸は隣の部屋に荷物を広げてから囲炉裏に当たって体を暖めた。体が暖まった狸は礼をいい、荷物をまとめて出て行った。
数日後の月夜の晩、再び狸が現れ、「寒いので囲炉裏に当たらせてください」といった。和尚さんは「どうぞ」といい、狸は隣の部屋に荷物を広げてから囲炉裏に当たって体を暖めた。すると、何を思ったのか和尚さんは囲炉裏の灰を一つまみ狸の荷物へ投げ入れた。そうとは知らない狸は荷物をまとめ、礼をいって出て行った。
翌朝、和尚さんが庭へ出てみると狸が丸焼けになって死んでいた。和尚さんは悪いことをしたなと思い、狸を手厚く葬った。
それが現在も境内にある高さ二メートルほどの狸塚である(ただし現在のものは昭和六三年に再建されたものである)。
|