自由クラブ視察報告書 星野雅春

実施日時 平成171115()16()

訪問先  叶M濃毎日新聞松本専売所

     長野県庁 田中康夫知事

松本市

1、 視察のねらい・・自治体が都市の景観に配慮した建築物に顕彰する制度は多くある。制度そのものを研修するのでなく、市民の立場で魅力ある都市景観を形成しようと努力している叶M濃毎日新聞松本専売所の社長 西堀恒司氏を訪ねた。叶M濃毎日新聞松本専売所は年商47億円、従業員は社員パートを含め512名という安定成長を続ける企業だ。西堀氏は事業の一つにピカデリーホールを経営している。ピカデリーホールは市民の映像や舞台芸術活動を支援するために、旧映画館を購入、改修し地域の芸術文化活動を支援している。ピカデリーを中心に松本演劇祭が毎年開催され、関係方面から注目されている。松本の街づくりと、演劇祭を仕掛ける中心人物である西堀氏の街づくりにかける熱い思いと経験を学ぶことにした。

2、 成果・・西堀氏はピカデリーの営業はまったくの赤字だが、市の援助を一切受けることなく若い演劇集団やアマチュア劇団に活動の拠点を提供している。ピカデリーは旧映画館で、改修は材料費の提供したものの改修工事には支援者やボランティアによって行われ、照明器具や音響などは閉鎖した公民館の機材の再利用だ。公的な施設と違って時間の自由度は高く、利用者に好評を得ている。かつての従業員宿舎も改装され劇団の宿泊にも利用されている。演劇鑑賞者は人口の2%とキャパが非常に狭く、美術や音楽に比べやりにくさは否定できないとしている。市は140億円の松本市民芸術館を建設したが経費は7億円かかる。ピカデリーは取得費1億4千万円、経費は700万円程度、収入はわずか200万円だと、独自の100分の1理論を展開した。市の採算を無視した事業への強烈な皮肉がこめられていたように思う。ピカデリーの取り組みは一新聞専売所の社長の道楽と語っていたが、この地域に対する熱い思いや愛情が伝わってくる。刈谷市にも若者の音楽を演奏するライブハウスらしきものがある。空洞化する商店街にも演劇や寄席、映画館など市民の舞台芸術を支える場の提供が必要だ。巨大な箱物ではなく町並みや身の丈にあった市民文化の育成を検討すべきと痛感する。公ができないことを見事に実践している西堀氏の生き方に敬服した。                 

松本市は古くから城下町として栄える一方、善光寺街道などの宿場町としても発展してきた。また先の大戦でも繊細を受けることがなかったことから明治初期の『蔵』などが散在している。なまこ壁に歴史とロマンを感じさせる味わいのある建物だ。こうした伝統的建築の活用や新たな蔵をテーマとした景観作りは商店街などに活用され、優れた町並みを形成していると感じられる。(写真は信濃毎日の営業所のひとつ)市は町並み修景事業補助金として、町並み景観に配慮した新築改築した場合の建物のファサード(正面)の改修等にかかる経費に対して補助率23(限度額300万円)間での補助金を交付している。刈谷市は景観に対する施策の誘導が感じられない。万灯通りや於大通りに莫大な経費をかけ道路整備や電線地中化などの事業を展開してきたが、結果は町並みがそろうことなく商店街が十分に形成されるにいたっていない。近く万灯通りと於大通りを結ぶ道路建設が計画されるが、どんな街づくりをしていくのかしっかり検討したいと思う。

 

長野県知事 田中康夫さん訪問

1、 ねらい・・自由クラブの研修テーマのひとつ、人シリーズに長野県知事田中康夫さんを訪問することにした。知事はこれまで脱ダム宣言など長野県の改革を通して日本を変えることを目標にがんばってこられた。抵抗勢力との戦いで得たものや戦うエネルギーの源は何かを伺うこととした。また、信じられる地域、日本を作るための今後の展開などを聞くこととした。

2、 成果・・知事とは大変忙しい時間の合間を縫って接見することができた。知事は開口一番、行政と議会は車の両輪というが、実は一輪車の相乗りだと強烈な歓迎の言葉をいただいた。議会と激しく対峙する知事の精一杯の皮肉をこめたものだと感じる。その後、長野県の財政再建やヤミ金融対策、木製ガードレールの採用など早口で一気に語った。特に木製ガードレールは長野県産の木材を利用したもので、国の補助金ももらえ、安全性も問題ない。予算的にはほんのわずかであるにもかかわらず、議会は財政を圧迫するとの理由で否決したことに触れ、『賢明な判断した』と皮肉をこめて語った。私は、首長はできるだけ政党や特定の団体・業界のひも付きにならないことが理想だと思う。高知県や元宮城県知事のように地域の改革の実践者として国を変える原動力になってほしいと願っていた。一政党の党首となった今県民がどのように判断するか注目したい人であることは間違いない。短い時間ではあったが、知事の物事に屈しない覚悟と根性がひしひしと伝わってきたし、戦う姿勢を持ち続ける熱い思いを感じた。自らを長野県の広告塔として割り切り、観光のポスターに収まりPRしたり、社会見学に訪れる小学生にもヤッシー人形や王冠のようなものをかぶって収まるなどサービス精神はすこぶる旺盛だ。県庁1階のガラス張りの知事室が、県民の最も近いところで仕事をしたいとする知事の姿勢が現れている。長野県知事の人気はあと1年を切った。(文責 星野雅春)