教科書ノ檢定又ハ編纂ニ關シ文法上許容スベキ事項ヲ定ムルコト左ノ如シ
明治三十八年十二月二日 文部大臣 久保田讓
「居リ」「恨ム」「死ヌ」ヲ四段活用ノ動詞トシテ用ヰルモ妨ナシ
「シク・シ・シキ」活用ノ終止言ヲ「アシシ」「イサマシシ」ナド用ヰル習慣アルモノハ之ニ從フモ妨ナシ
過去ノ助動詞「キ」ノ連體言ノ「シ」ヲ終止言ニ用ヰルモ妨ナシ
例
「コトナリ」(異)ヲ「コトナレリ」「コトナリテ」「コトナリタリ」ト用ヰルモ妨ナシ
「丶丶セサス」トイフベキ場合ニ「セ」ヲ略スル習慣アルモノハ之ニ從フモ妨ナシ
例
「丶丶セラル」トイフベキ場合ニ「丶丶サル」ト用ヰル習慣アルモノハ之ニ從フモ妨ナシ
例
「得シム」トイフベキ場合ニ「得セシム」ト用ヰルモ妨ナシ
例
佐行四段活用ノ動詞ヲ助動詞ノ「シ・シカ」ニ連ネテ「暮シシ時」「過シシカバ」ナドイフベキ場合ヲ「暮セシ時」「過セシカバ」ナドスルモ妨ナシ
例
てにをはノ「ノ」ハ動詞、助動詞ノ連體言ヲ受ケテ名詞ニ連續スルモ妨ナシ
例
疑ノてにをはノ「ヤ」ハ動詞、形容詞、助動詞ノ連體言ニ連續スルモ妨ナシ
例
てにをはノ「トモ」ノ動詞、使役ノ助動詞、及、受身ノ助動詞ノ連體言ニ連續スル習慣アルモノハ之ニ從フモ妨ナシ
例
てにをはノ「ト」ノ動詞、使役ノ助動詞、受身ノ助動詞、及、時ノ助動詞ノ連體言ニ連續スル習慣アルモノハ之ニ從フモ妨ナシ
例
語句ヲ列擧スル場合ニ用ヰルてにをはノ「ト」ハ誤解ヲ生ゼザルトキニ限リ最終ノ語句ノ下ニ之ヲ省クモ妨ナシ
例
最終ノ「ト」ヲ省クトキハ誤解ヲ生ズベキ例
上ニ疑ノ語アルトキニ下ニ疑ノてにをはノ「ヤ」ヲ置クモ妨ナシ
例
てにをはノ「モ」ハ誤解ヲ生ゼザル限リニ於テ「トモ」或ハ「ドモ」ノ如ク用ヰルモ妨ゲナシ
例
誤解ヲ生ズベキ例
「トイフ」トイフ語ノ代リニ「ナル」ヲ用ヰル習慣アル場合ハ之ニ從フモ妨ナシ
例
國語文法トシテ今日ノ教育社會ニ承認セラルルモノハ徳川時代國學者ノ研究ニ基キ專ラ中古語ノ法則ニ準據シタルモノナリ然レドモ之ニノミ依リテ今日ノ普通文ヲ律センハ言語變遷ノ理法ヲ輕視スルノ嫌アルノミナラズコレマデ破格又ハ誤謬トシテ斥ケラレタルモノト雖モ中古語ニ其用例ヲ認メ得ベキモノ尠シトセズ故ニ文部省ニ於テハ從來破格又ハ誤謬ト稱セラレタルモノノ中慣用最モ弘キモノ數件ヲ擧ゲ之ヲ許容シテ在來ノ文法ト並行セシメンコトヲ期シ其許容如何ヲ國語調査委員會及高等教育會議ニ諮問セシニ何レモ審議ノ末許容ヲ可トスルニ決セリ依テ自今文部省ニ於テハ教科書檢定又ハ編纂ノ場合ニモ之ヲ應用セントス