小 塩(おしお)
あ ら す じ
大原山の桜が満開だと聞いた都の男が、仲間と一緒に花見に出かけます。すると見物客の中に、手折った桜の枝をかざす老人がいます。男が声をかけると、老人は、姿は鹿のように下卑ているかもしれないが、心は風雅に満ちていると言い、男たちと合流します。老人が
大原や 小塩の山も 今日こそは 神代のことを 思ひ出づらめ
という和歌を口にしたので、男が作者名を尋ねると、在原業平が詠んだ歌であると答え、いずことなく消えてしまいます。
<中入>
先の老人は在原業平の霊に違いないと考えた男たちは、桜の木の下で経を唱え始めます。そこへいつの間にか、業平の乗った高貴な雰囲気の漂う花見車が現れます。業平は春の宵には思い出が甦り、その思いが和歌となるのだと言い、さまざまな例を挙げ、和歌の徳を称えます。そして、人の思い出は、いずれも恋心に関したものだと語り、二条の后との思い出に耽りながら舞をまいます。やがて月が白み、夜が明け始める頃、男たちが目覚めると、業平の姿は消えていました。
詩 章
昔かな。花も所も。月も春。ありし御幸を。花も忘れじ。花も忘れぬ。心や小塩の。山風ふき乱れ.散らせや散らせ。散り迷う木のもとながら。まどろめば。桜に結べる。夢か現か世人定めよ。夢か現か世人定めよ。寝てか覚めてか。春の夜の月。曙の花にや。残るらん。