混変調歪の行き先

こちらの頁(まだなら先に目を通してください、ここよりは簡単かつ間違いなさそうなことを書いています)の最後では、入力の自乗の形の歪の近似として、2次高調波のみ発生して混変調が発生しないモデルを考えてみました。そしてそこでは、2次高調波歪の山が本来より低いだけでなく、本来の位置の他に窓半分だけずれた位置にも2次高調波の山が発生していたのでした。

2次高調波のみ発生して混変調が発生しない、として自乗の形の歪を近似するというのは、
{cos(t)+cos(2t)+....+cos(90t)}×{cos(t)+cos(2t)+....+cos(90t)} という形の歪を、
cos(t)^2 + cos(2t)^2 +....+ cos(90t)^2 で近似した、ということです。
展開すれば8100項あったものを、その中の90項だけで近似しようというのですから元々無茶な話です。

残りの8010項は混変調ということになりますが、そのうち偶数次になるものは2次高調波のどれかと同じ周波数になります。
今回のモデルでの180次(エリアシング除けのため既に除外済みですが)での位相ずらしをθとして、
n次のcos波は位相も含めて書くと cos[nt-nθlog(n)/log(180)] です。
ここから発生する2次高調波は、1/2・cos[2nt-2nθlog(n)/log(180)] です。
これと同次の混変調を求めてみましょう。n-m次とn+m次との掛け算では2項同じものができるので最初から2を掛けておくと、

2・cos[(n-m)t-(n-m)θlog(n-m)/log(180)]・cos[(n+m)t-(n+m)θlog(n+m)/log(180)]
= cos[2nt-θ/log(180){(n-m)・log(n-m)+(n+m)・log(n+m)}]
 -cos[2mt-θ/log(180){(n+m)・log(n+m)-(n-m)・log(n-m)}]

となります。このままでは見易くないので、試しに n=45、m=1 をいれてみましょう。
2次高調波が   1/2・cos[90t-θ/log(180)・90・log(45)]
混変調の1項目が   cos[90t-θ/log(180)・{44・log(44)+46・(log46)]

44・log(44)+46・(log46) ≒ 90・log(45) はまずまずの近似になります。このことから、m小であれば、
n-m次の波と、n+m次の波が混変調してできた和の波は、n次の波の2次高調波に位相も含めて似ている、と言えそうです。

混変調の差の波も同じように2次高調波と同じ周期の波を作りますが、こちらの方が位相は合いにくいようです。

混変調にも2次高調波と似た性質のものがあり、それにより2次高調波だけでは足りなかった「山」の高さがある程度説明できるようです。

しかし、偶数次だけの歪では「窓半分」ずれた位置に必ず同じ山を発生させてしまいます。(このあたり簡単な図を入れる予定)
窓半分ずれた位置に山の痕跡もないようにする、には、「山」を偶数次と奇数次、均等な貢献で作り上げるしかありません。

先ほどの、44次と46次の混変調が45次の2次高調波に似ている、という話以上に、
44次と45次の混変調が、44次の2次高調波と45次の2次高調波の丁度間に来る周波数と位相になる、というのが重要になるのです。

偶数次の歪同様、43次と46次の混変調も44次と45次の混変調と多少似ていて、こういう連中も全部積み上げた結果として、「山」の位置に堆積する一方、窓半分ずれた位置には何もない、という状態が実現されます。

しかし、そうして出来た89次(を一例として含む奇数次)の歪は2次高調波なのか? 44.5次の基本波を与えた覚えも無ければ、この窓ではそもそも与えようも無い・・・・。

ここらで、「2次高調波が一箇所に堆積する」という発想から脱却した方がよさそうです。
「2次高調波」は「一箇所に堆積」をイメージしやすくするための単なるキーワードであり、あくまで一連の頁で本当に扱っていたのは、「入力の自乗の形の歪」です。「入力の自乗の形の歪」の大きさの分かりやすい指標が2次高調波歪だ、ということです。

実在の系で、2次高調波だけが発生して混変調が発生しない、というのは殆ど無くて、2次高調波は入力の自乗の歪を代表するとみて問題ない系が殆どでしょう。

・・・・・・・

よろめきながらでも私が今理解できているのはこのあたりまでです。もし以下の疑問を説明していただければ、頁を追加して紹介したいと思っております。

 

1.高次歪の山の大きさ

前のページの240度ずらしでは「おお、ぴったりだ!」となりましたが、書いている本人も半信半疑です。もっとずらし量を大きくして、見た目ログスイープには見えなくなってきても全体の振幅は±3程度で、しかし歪の「山」は低くなります。

2.高次歪の山の形

このモデルでは2次歪の山はインパルスに近いですが一致はしません。一旦マイナスに振れてから急激に立ち上がり、その後ややなだらかに落ちる形になります。360点でなく、もっと大きな窓であればインパルスに漸近する、のでしょうか? この「山」をインパルスと看做せなければ、スピーカの2次高調波をこの方法で評価する際に差しさわりが出ます。

3.逆フィルタの一意性

入力するswept sine波の周波数範囲が限定されていれば、含まれていない周波数範囲に対して、インパルスから入力波形を作る「フィルタ」に一意性がなくなります。その結果、出力にコンボリューションすべき「逆フィルタ」にも一意性がなくなり、高次歪がこの範囲に入った際にどうすべきか、色々と問題がありそうな気がします。

・・・分かってないことはもっともっとありそうですが。。。

 

 

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