1994年のスクリアービン入門講座に対する全フォロー

なにせ、古い話になっていますので、フォローいただいた方のアドレスは
変わっている場合が多いと思います。ご承知おきください。

 

中期分のフォロー

野中です。

|8つの練習曲作品42
|
| 作品8と並び称される練習曲集ですが、作品42の方が練習曲として機能的
|になっていて、その分音楽としては、全体を通すと作品8の方が好きです。
|しかし両曲集のフラッグシップ対決では8の12より42の5の方に軍配を
|上げます。この曲は展開部を欠くソナタ形式とみなせて、提示、再現で現れる
|4つの表情が全て最高です。

賛成です。op.42-5 はあらゆる piano etudes の中で最も素晴らしい。

| スクリアービン入門講座の主旨からすれば、この曲集についてはホロビッツ
|の作品集についてくる分だけで十分でしょう。リヒテルが6曲、ファーガス=
|トンプソンが全曲、等ありますが。

Richter は Warsaw Live(Arkadia 盤)のことでしょうか?

Hidehiko NONAKA e8610@etlrips.etl.go.jp

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荒井です。

>スクリアービン入門講座 by K.Hasida
>その3:初期作品(2)
>
>今回は作品30から50の範囲で、気になる曲をピックアップして紹介します。
>
>#実は中期スクリアービンは有名曲しか知らない。

私はスクリャービンの全ピアノ作品のCDを揃えたいと思っているのですが、
中期の作品はなかなか見当たりません。どうしてなのでしょう?

>8つの練習曲作品42
>
> 作品8と並び称される練習曲集ですが、作品42の方が練習曲として機能的
>になっていて、その分音楽としては、全体を通すと作品8の方が好きです。
>しかし両曲集のフラッグシップ対決では8の12より42の5の方に軍配を
>上げます。この曲は展開部を欠くソナタ形式とみなせて、提示、再現で現れる
>4つの表情が全て最高です。
> スクリアービン入門講座の主旨からすれば、この曲集についてはホロビッツ
>の作品集についてくる分だけで十分でしょう。リヒテルが6曲、ファーガス=
>トンプソンが全曲、等ありますが。

私はOp.8よりOp.42の方が好きです。「入門」者にも全曲聴いてもらいたい。
その価値はあると思います。中期を代表する(数少ない)作品の一つでもあり
ますから。でも残念なことに、Op.42全曲を収めたCDで良い演奏のものがな
いのです。Setrak, マガロフ、Bloitの練習曲集にも全曲入っていますが、
強いていえば一番ましなのは
●Villa / ピアノ作品集 (DANTE PSG 8902) でしょうか。
Villaという人は指はよく回ります。(でもそれだけです。)
Op.42の他に、10のマズルカOp.3 と、Op.57以降の小曲全曲が入っています。

ファーガス=トンプソンのCDは持っていません。買おうかどうしようか
迷っているうちに店頭に見当たらなくなってしまいました。

ソフロニツキもOp.42を録音したのではないかと思うのですが、入手できない
のでしょうか。ご存知の方がいらしたら、教えて下さい。

ところで、Op.50の作品名が分からないので、ご存じの方は教えて下さい。
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♪♪ 荒井 日見子  
arai@misojiro.t.u-tokyo.ac.jp  ♪♪
♪♪ 東京大学大学院 工学系研究科 計数工学専攻 修士1年 ♪♪

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NTT通信網総合研究所の中田と申します.
スクリアービンは私の最も愛する作曲家の一人です.このシリーズは
大変興味深く読ませて頂いております.

>ピアノソナタ第5番作品53
> この曲がスクリアービンのソナタで一番有名であるらしい。作曲者も一番よく
>弾いたそうです。で、私めの評価は好きだけど大好きまでは行きません。
> 凄いところは文句無く凄いのだけれど、弱いところがある、さらに言えば、
>余りの凄さがそのまま弱さにつながってしまっているところがあると感じて
>います。このあたり見解の別れるところでしょう。

私もこの見解に同意します.ちなみに私の一番好きなのは4番でしょうか.
もちろん無調の曲も好きですが,彼の場合無調に行きつくまでの過程の曲
のほうに(つまり中期の曲に)より愛着を覚えます.

> この曲以降スクリアービンの大作(といっても20分程度以下)は全てソナタ
>形式の単一楽章となります。和声的には4番よりもさらに進んだ所まで行って
>いて、機能和声からは逸脱しています。

まだ完全には機能和声から逸脱はしてないのではないでしょうか?
確かに部分的には調性を決め難いところがありますが,全体としてみれば
おおまかな機能和声の枠に入っていると思います.
後述するように,彼の書いた最初の「非機能和声」楽曲は,アルバムのページ
作品58(作品番号に自信なし)だと思います.

> これもどえらく難しい曲ですが、4番のような演奏不能というわけではない、

そ,そうですか.このソナタが演奏できるとは,うらやましい.第1主題の右手
の8分音符の和音の跳躍は私にはどうやっても演奏できません.リストのメフィ
スト・ワルツ以上かとも思います.

>法悦の詩作品54(交響曲第4番)
>
> 交響曲2、3番に対しても無理して余り意味の無い文章を書きましたが、
>オーケストラ作品はこの1曲につきます。それで多少はましな物を書こうと
>思って大阪のササヤまで資料を探しに行きましたが、ポケットスコアは出て
>無いみたいですね。ピアノ曲は殆ど全てが全音出版で揃うようになったのに。

確かに日本からは出ていませんが,私はオイレンブルグ社のポケットスコアを
持っています.曲の長さのわりに大変に分厚いもので,これは編成が大きい
ために後半は楽譜が90度左に回転して2ページを使用して印刷してあるのと,
音符が細かいためです.このために,後半は1秒毎にページをめくることに なります.

> この曲の作曲時期はピアノソナタ第5番のそれを含むのですが、この曲は、
>むしろピアノソナタ第4番との間に共通点が多いように思われます。第3交響曲
>でもそうでしたが、オーケストラ作品の方が一歩ずつ保守的です。和声を丁寧に
>見れば第5ソナタに近いだろうと思いますが、調性感はこちらの方が強く残って
>いて、むしろ第4ソナタに近い、さわやかさと軽さを感じます。神秘和音が云々
>されることが多い曲ですが、私には評論家の逃げ口上にしか思えません。調性
>からの離脱の途上の一形態に過ぎないとも言えるのに、おどろおどろしい名前を
>強調されて、聞き手が変に構えてしまっては、この曲も作曲者も迷惑です。

何といっても,この曲は「ハ長調」ですから.ピアノ曲では黒鍵を多用した
スクリアビンにとっては大変に例外的な調性選択です.

> 曲名がおどろおどろしいという向きには、エクスタシーと言われてワイセツ
>しか考えないあなたが偏向している、と言いたいところですが、歴史的にも題名
>で損をしてきた曲のようです。

ロシアではこの曲に催淫作用があるとかで,演奏禁止になったらしい.
もっともスクリアビン自ら「エクスタシー」には淫らな意味をも込めていた
ようです.後に彼はソナタ10番のことを,昆虫の交尾と関連があると言った
そうです.

> 第4ソナタとのもう1つの共通点は、その途方もないもりあがりです。
>第4ソナタの演奏不能に対して、この曲はどうやら録音不能であるようです。
>マーラー7番の終楽章なんか足下にも及びません。これも演奏次第ですが。
>常識人の指揮者では照れが出て、行くところまで行けないのかも知れません。

全く同感ですね.

> 私のこの曲に対するイメージは、スヴェトラーノフ旧盤で最初に聴いて、その
>たがの外れたもりあがりにたまげてから、全然変化していません。

これ,メロディアでラフマニノフの「死の島」とのカップリングのやつです
よね.あの金管楽器のすごさは音楽とはもはや呼べないかも知れない.

>プロメテウス作品60(交響曲第5番)
>
> 機能和声からの離脱につづいて、本格的にスクリアービンが無調に踏込んだ曲
>として評価の高い曲であり、スクリアービンの後期はこの曲から始まるとされて
>います。1908年から1910年にかけての作品ですから、音楽史上の意味は
>非常に大きいようです。ただし私は好みません。だから回を改めず付録のように
>して紹介してしまいます。

先にも書きましたが,この曲に先だってアルバムのページというピアノ曲が
書かれ,それが無調に突入した記念すべき曲のようです.
ちなみにこのプロメテウスのポケットスコアもオイレンブルグから出ています.

--
中田 広   HIROSHI NAKADA     
nakada@ntttsd.NTT.JP
NTT通信網総合研究所 研究企画部 Phone (0422)59-2111
Research Planning Department, NTT Telecommunication Network Laboratory Group

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細谷@東京大です。

スクリャービンは大好きな作曲家の一人なので、毎回楽しく読ませていただい
ています。

で、今回はスクリャービンのオーケストラ曲で最も好きな2曲が取り上げられ
ていたのでフォローします。

>法悦の詩作品54(交響曲第4番)
>
> この曲の作曲時期はピアノソナタ第5番のそれを含むのですが、この曲は、
>むしろピアノソナタ第4番との間に共通点が多いように思われます。第3交響曲
>でもそうでしたが、オーケストラ作品の方が一歩ずつ保守的です。和声を丁寧に
>見れば第5ソナタに近いだろうと思いますが、調性感はこちらの方が強く残って
>いて、むしろ第4ソナタに近い、さわやかさと軽さを感じます。神秘和音が云々
>されることが多い曲ですが、私には評論家の逃げ口上にしか思えません。調性
>からの離脱の途上の一形態に過ぎないとも言えるのに、おどろおどろしい名前を
>強調されて、聞き手が変に構えてしまっては、この曲も作曲者も迷惑です。

確かに聞いた感じだと、オーケストラ作品の方が保守的なように聞こえると思
いますが、僕が思うにそれはピアノの音とオーケストラの音の差ではないかと
思っています。つまりピアノだと強烈になる和音でも、オーケストラだとそれ
がぼやけて聞きやすくなるのではないかと思うわけです。でもよく聞くとピア
ノソナタ第5番も調性感は残っているし、伴奏音形などを見るとピアノソナタ
第5番に近いような気がします。

あと、神秘和音に関して、評論家によって解釈が2通りあるような気がします。
ひとつは、神秘和音は4度和音から派生したという考え、もうひとつは属7、
属9和音から派生したという考え。僕は、断然後者を支持します。

まず、スクリャービンはあきらかに機能和声からスタートしています。そして
中期の作品には属7系の和音を多用する傾向にあります。属7系の和音は機能
和声の最も中心的な役割を占め、また第5音、第9音などを上下に移動させる
ことで簡単に変形ができます。スクリャービンはこういう和音を偏愛し、多用
していくうちに、究極の機能和声でほとんど属7系の和音だけで音楽を作るこ
とによって調性逸脱を実現するという点にまで達したと考え、神秘和音は属7
系の和音の変化した和音としてスクリャービンが特に組織的にすき好んで使っ
た和音としてとらえるのが最も自然だと思います。

ところが4度和音からの派生と考えるならば、その4度和音はどこから出てき
たのかはっきりしません。4度和音自身は機能和声とは関係ないからです。

>プロメテウス作品60(交響曲第5番)
>
> 機能和声からの離脱につづいて、本格的にスクリアービンが無調に踏込んだ曲
>として評価の高い曲であり、スクリアービンの後期はこの曲から始まるとされて
>います。1908年から1910年にかけての作品ですから、音楽史上の意味は
>非常に大きいようです。ただし私は好みません。だから回を改めず付録のように
>して紹介してしまいます。
> 法悦の詩まで、オーケストラ作品はピアノ作品より保守的というか縮こまった
>書き方をしていたのが、この曲だけはピアノソナタ6番に先行して新しい世界に
>突入しているのです。その心意気や良し。今や調性にかわる音組織が確立され、
>一層短くなった動機の積み重ねによる作曲がなされています。ピアノソナタ6番
>の”あの場所”はすぐそこまできているのです。しかしながら、考えたこと、
>やろうとしたことが未消化のまま、この曲になってしまったように私には感じ
>られます。慣れないことしてもだめ、というか、結局ピアノ曲作曲家だった、

僕は実はプロメテも、法悦の詩と同じくらい好きです。

淡々とした(けだるくもある)神秘的な雰囲気で、非常にゆっくりと盛り上が
り、最後に急速に爆発します。最後の恐ろしくもある盛り上がりでは、神を見
るような気分になるのです。それが終った後は、法悦の詩の方では安心感を憶
えるのに対し、こちらは圧倒されて疲れてしまうという感じです。

法悦の詩とプロメテの2曲で僕が聞いたのは、どちらもマゼールとムーティで
す。マゼールはプロメテの最後でかなりブッ飛んでいました。プロメテを最初
に聞いたのがマゼールで、法悦の詩よりもむしろプロメテの方ががすごい曲と
いう第一印象を持ってしまっています。

マゼールに比べると、ムーティはどちらかというと洗練されていて、落ちつい
た演奏かなと思うので、こっちを先に聞いたらそうは思わなかったのかも知れ
ません。

> 演奏には、鍵盤を叩くと色光を発する色光ピアノなるもの、四部合唱のヴォカ
>リースとハミングが加わります。録音で耳にできるピアノの音は普通のピアノで
>その他に本当は色光ピアノが加わるらしい。ピアノ協奏曲のよう、とも言える
>やたらと展開部の長いソナタ形式単一楽章による曲です。大詰で合唱が加わるの
>ですが、それで大いにもりあがる、というものでもありません。

僕はなぜかプロメテのミニチュアスコアを持っているのです(でもそれほど研
究してるわけではないです)が、最上段にたしかに色光ピアノのパートがあり
ます。これは12の鍵盤からなり、同時に2色発色可能で、スクリャービンは
12音のそれぞれに色と意味を割り当てているようです。

一度プロメテをコンサートで(色つきで!)聞いてみたいのですが、まだその
機会にあっていません。

僕は中期以降の作品こそがスクリャービンだと思っている方なので、これから
の連載も楽しみにしています。

それでは。

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   細谷 晴夫
      東京大学理学部情報科学科4年
          e-mail:
haruo@is.s.u-tokyo.ac.jp

「詩の創作に不可欠なのは、アイデアを出すこと、およびそれらアイデアの中
から最善のものを選択する能力である。どちらかと言えば、後者の方がより大
切である」(ヴァレリー)
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