ロジェ王

このところ・・・特に家族で山歩きを始めた2013年以降でしょうか・・・忙しくなった中でピアノは弾いていますから、オペラを見る時間が取れなくなっています。その上に、世間で有名なオペラの多くを見て、大体見当がついてきてしまい、既知のオペラの新しい公演の動画に中々手が出にくくなりました。「メデア」とかヤナーチェクの諸作品とか、まだ食傷するほど多くの公演を見ていないオペラなら見てみる、という態勢になりつつある中で見つけたのが「ロジェ王」でした。

1924年に完成したシマノフスキのオペラです。一般にシマノフスキがどの作品で知られているのかよく分からないのですが、私にとってはピアノ曲の作曲家でした。ピアノ作品集のCDは持っていて、でも楽譜を求めて弾いてみようとまでは思わない作曲家、でした。

「ロジェ王」では、operashareでブレゲンツのを見つけたのが2009年、しかしドイツ語字幕のみで全く訳が分からず、なんだか最後血まみれみたいになるのが気持ち悪いな、だけで終わっていました。今年(2015年)になって、バスティーユのが英語字幕付きだというので取ってみて、まずまず読める字幕だったので話は一応分かったのですが、醜悪な演出に混乱されられました。それでも、スクリアービンの「法悦の詩」みたいな響きが聞こえてくる、と一言紹介したくて、普通に視聴可能な動画はないのかな、とyoutubeを見ると、探すまでも無く2015年のコヴェントガーデンのが見つかりました。これが一段と読みやすい字幕に数段まともな演出で、作品自体に対する好感度も急上昇しました。改めてブレゲンツのを見てみると、演出は「まとも」の範囲内とは思いましたが、やっぱり気持ち悪いです。さらに、バスティーユのも見直そうとしましたが、こちらは共感できる要素ゼロの演出に見続けることが出来ませんでした・・・というのが昨日までの経緯です。

音楽からは、「法悦の詩」の断片がかなり頻繁に聞こえてきます。最後にハ長調の和音をクレッシェンドして終わるところなどそっくりです。他に似ているとしたらストラビンスキー「火の鳥」でしょうか。「ペトルーシュカ」「春の祭典」を思い出すようなところはありません。同時代のヤナーチェクとも似たところはありません。おどろおどろしいところは誰かに似ているとは私には言いにくいのですが、晩年のドビュッシーでしょうか、初期のバルトークでしょうか、新ウィーン楽派でしょうか?

粗筋はこちらにあります。何でポーランドの作曲家が中世シチリアまで出向くのかな?という疑問は感じます。宗教をめぐる紛争を描きたくなった何かがシマノフスキにあったのでしょうか。第3幕で何が起こったことにするのか、が演出の分かれ道になるのは理解可能なのですが、バスティーユの演出の醜悪さは第1幕から始まっている、それはそれは論外なものです。

 

手持ち音源

エルダー指揮ウィーン交響楽団(ブレゲンツ音楽祭)

ドイツ語字幕なので最初は訳分からなかった映像です。概ね台本に沿った演出だったようですが、問題の第3幕はロジェ王を残して他全員の集団自決だったようです。ロジェ王がオッサン臭く、ロクサナは丸坊主、羊飼いは金塗り、と極端なメイクです。ほんの一部だけですが、youtubeにサンプル映像があります。

Bregenz 2009
Karol Szymanowski
KOENIG ROGER

Koenig Roger.........Scott Hendricks
Roxana...............Olga Pasichnyk
Edrisi...............John Graham-Hall
Der Hirte............Will Hartmann
Der Erzbischof.......Sorin Coliban
Die Diakonisse.......Liubov Sokolova
Stymme 1.............Justyna Dyla
Stymme 2.............Mariusz Stefanski

Wiener Symphoniker Orchestra
Musikalische Leitung Sir Mark Elder
Inszenierung Davis Poutney

 

大野和士指揮パリオペラ座(バスティーユ)

最初からロジェ王とロクサナが意味ありげに視線を交わしたり、エドリシを賢者というより腹に一物の策士に見せたり、なのですが、そういうのが話の展開に全く関係なく、ただただ目障りなだけです。羊飼いは何のカリスマも感じさせないただのデブですし。ロジェ王はロイヤルオペラと同じ人、ロクサナはブレゲンツと同じ人がそれぞれ演じていますが、同じ演目でここまでのトンデモ演出で演じさせられるのはどういうものか、と聞いてみたくもなります。

私は英語字幕で見ましたが、ドイツ語字幕付きでyoutubeに全曲アップロードされているようです。全くお勧めしませんが、最後のカーテンコールはちょっとした見物です。合唱から全ソリスト、指揮者まで歓声で迎えられたところで、演出者が出てきたら満場のブーイング、拍手が鳴り止みはしませんでしたが、これほどのブーイングは中々お目にかかれないでしょう。

Krol Roger
Karol Szymanowski
Opera Bastille - Paris
June 20, 2009

Roger - Mariusz Kwiecien
Rosane - Olga Pasichnyk
Edrisi - Stefan Margita
Shephard - Eric Cutler
Archbishop - Wojtek Smilek
Deaconess - Jadwiga Rappe

Orchestre de l’Opera national de Paris
Chours de l’Opera national de Paris
Chours d’enfants de l’Opera national de Paris
Kazushi Ono, Conductor

Mise en scene - Krzysztof Warlikowski
Decors et Costumes - Malgorzata Szczesniask
Lumieres - Felice Ross
Dramaturge - Miron Hakenbeck
Choregraphe - Saar Magal

Videaste - Denis Gueguini

 

パッパーノ指揮ロイヤルオペラ

で、お勧めはこちら、英語字幕字幕付きでyoutubeに全曲アップロードされています。いつまで見えるものか分からないので、私はさっさとダウンロードしました。インタビューやら何やら1時間分余分に付いています。

これも特徴ある装置の舞台ですが、オペラの舞台演出の基本線から外れるようなことはせずに、十二分な効果を上げています。第2幕で「炎の天使」での褌軍団を彷彿とさせる集団が出てきます。ロジェ王はバスティーユと同じ人で、あちらでもちゃんと歌っていたしたが、演出がマトモな分、こちらの方が断然好印象です。ロクサナもちょっと狂信がかった奇麗な人、をイメージどおり演じています。更に良かったのが羊飼いでしょう。特殊メイクを使うことなく、強烈なカリスマがにじみ出てくる名演技でした。

King Roger II of Sicily.....Mariusz Kwiecien (Baritone)
Shepherd.....Saimir Pirgu (Tenor)
Roxana.....Georgia Jarman (Soprano)
Edrisi.....Kim Begley (Tenor)
Archbishop.....Alan Ewing (Bass)
Deaconess.....Agnes Zwierko (Mezzo-soprano)
The Royal Opera Chorus
The Orchestra of the Royal Opera House
Antonio Pappano (Conductor)

 

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