補遺その3:新発見曲集3 お勧め度:D
久しぶりに新発見曲集が追加されました。そして同時に、この曲集までを含む大全集99CDセットが実売価格2万円台で販売されることになりました。という状況を踏まえると、これまでにこのシリーズを部分的にしか買ってなかった人に対しては、この巻を単独で買うくらいなら大全集で揃えた方がお得だと思うので、お勧め度Dにしかなりません。これまで97枚買い揃えてきた人は私が何を言おうとも購入するでしょうし、そういう知人の一人は「置き場所のこともあるので、今までの分を全部処分して99枚組を買おうかとも考えている」と言っていました。
2枚組の1枚目は、なじみある私好みの作品との関係曲がいくつかあり、決して悪いものでは無いですが、当のなじみのある曲より良いともいえない、というのが並んでいます。全32トラックの2枚目は1分前後の細切れが多く、最終トラックの「スケルツォとマーチ」の原型以外は見るべきものが余りありません。全体にハワードの演奏はまずまず元気な方だと思います。
冒頭3トラックが「スペイン風ロマンツェロ」(1845)です。冒頭のスペイン風の響きは、1845年ものとしては中々のものかな、と思うのですが、徐々に月並みなスペイン風に落ち着いてしまいます。合計で20分を越える大作ですが技巧誇示の姿勢にも華麗というより月並み感が漂います。1847年に出版されるはずが何故か見送られそのままお蔵入りした作品ということで、悪い曲ではないですが、この大全集の第45巻の「スペイン狂詩曲」を除くその他大勢のスペイン関係曲と似たり寄ったりの水準、というところでしょうか。第3部はその「スペイン狂詩曲」にも使われている主題で始まりますが、やはりあちらの方が良いと思ってしまいます。
続く3トラックが「オラトリオ”キリスト”からの2つの小品」(1871)です。第14巻にも同じオラトリオから2曲のピアノ編曲がありますが、一応別の曲で、これも合計では23分を越える大作になります。1トラック目の導入曲は「聖エリザベスの伝説」の同じく導入曲にも似た雰囲気の曲、2トラック目の「パストラーレ」は第19巻の第4トラックとほぼ同じメロディで始まる曲で、ここまでが合わせて1曲目ということになっています。それぞれ悪くないのですが、ごちゃごちゃした感じもあり、これも比べるならあちらを取ってしまいます。2曲目が「奇跡」は他の「キリスト」編曲よりは激しいが「十字架の道」よりは穏やか、という感じのほぼ聞き覚えの無い曲です。続く「マグニフィカト」(1862)は第7巻に収録された曲の前身ということで、どちらが良いかという記憶まではありませんが、まずまずの佳作だと思います。
「3つの歌曲」(1852)は自作歌曲編曲ですが、その歌曲の方が改訂を繰り返していて、この編曲がどの版の編曲になるのが分からない、のだそうです。第36巻(とことん珍曲集の1つです)の「戦士の歌曲集」の別稿ということになるらしいのですが、「そのようなものとしてはまあまあ」と書いたあちらの方の記憶も無いので、こちらを聞いても「まあまあ」としか言いようがありません。続く「アルバムリーフ」(1847)2曲には聞き覚えはありますが、それだけのものだと思います。その次のトラック13の短い変奏曲(1846)は全く詰まらない作品。
トラック14は第40巻にて「続く3トラックは第35巻で紹介に窮したロシア作曲家作品の編曲の第1稿、何れも悪くは無いですが」と書いたうちの1曲の別稿(1842)のようです。さらに別稿がCD2の冒頭にも出てきます。どれで聞いても悪くない、というよりかなり良い曲ですが、いずれにせよ紹介に窮する曲で、どれが良いとも言いかねます。
トラック15は「クリスマスツリー」第7曲の初期稿で、勿論非常に良いのですが、最終稿だけ聞くのでも差し支えない、とも言えます。優しく愛撫するようなハワードの演奏にちょっと惹かれます。CD1の最後が「Valse-impromptu」の別稿で、第1巻で聞いたものより移り気な性格が強調されている曲になっているように思います。
CD2の冒頭はCD1のトラック14の親戚筋(1843)、かなり違って聞こえますが、こちらも悪いものではありません。トラック2は「イタリアのハロルド」、ヴィオラ付き全曲の第23巻ではなくて、第5巻のピアノ独奏による第2楽章の初期稿(1836/7)、です。最終稿とはそれなりに違うような気がしますが、これもまずまずです。トラック3は第50巻にあるワーグナーの”タンホイザー”による「ヴァルトブルク城への客人の入場」の別稿(1876)のようです。実は解説文が良く分からないのですが、第50巻の方が原曲忠実バージョンで、こちらの方が色々付いているバージョンのようで、そう思って聞くとそんな風にも聞こえてきます。いずれにせよ、「愛の死」を別格とすると決して高水準とはいえない一連のリストのワーグナー編曲物の中ではかなり出来の良い部類だと思います。
トラック4と5は1820年代のスケッチで、第26巻に親戚筋がいるようですが、特にどうというものではありません。そしてトラック6から31までが、平均で1分にも満たない「アルバムリーフ」群です。解説文の方も、有名作品のスケッチだから聴けば分かるだろう、とばかりにお座なりになっています。大体は聞き覚えのあるものですが、何れも観賞対象にするようなものではありません。
最後のトラック32が「Wilde Jagd: Scherzo」(1851)、第28巻に出てくる異形の大曲「スケルツォとマーチ」の原型です。タイトルが超絶技巧練習曲の第8曲みたいですが、あちらとは全く関係ありません。最終形の「スケルツォとマーチ」よりも長く、16分を要します。長くなったのはスケルツォ部分で、手を変え品を変え、を余分にやっているからなのですが、この余分なところも含めてスケルツォ部分は最終形以上に楽しめる、かもしれません。最終形でもメフィスト的性格が見え隠れしていますが、それがより強調され、一段とデモーニッシュになっています。マーチ部分で最終形と同じく左手のオクターブ進行が出てくるにもかかわらず何故か最終形のド迫力に及ばない、のが少し残念ですが、この巻全体を通しての最大の目玉だと思います。