補遺その2:新発見曲集2 お勧め度:C
一つ前のアルバムより楽しく聞けました。ハンガリー狂詩曲集の系統が中心の前巻に対し、こちらは「詩的で宗教的な調べ」「ピアノ協奏曲第2番」の関係曲が中心で、同じ耳に馴染みのある曲でも、より好みの曲ですし、耳に新しい曲もいくつもあり、それらがまたかなり魅力的です。本体の全57巻を踏破前でも「詩的で宗教的な調べ」「巡礼の年第2年」あたりがお好みなら、手を出してみるのも悪くないのではないでしょうか。
冒頭8トラックが「詩的で宗教的な前奏曲と調べ」(1845-6)です。「詩的で宗教的な調べ」関係曲のややこしい歴史は一旦第47巻で紹介したのですが、最近の研究成果によりさらにややこしい前史が明らかになったようです。英文解説を読んで理解した限りを紹介しますと・・・
ここに収録された8曲はあるスケッチブック(N5と呼ばれています)に続けて書かれています。その冒頭曲だけは実は第47巻トラック10で録音されていて、今回再録音となっています。この8曲つづりの前に「詩的で宗教的な調べ」とタイトルが書いてあるのですが、それに括弧付きで「Preludes et Harmonies poetiques et religieuses」(アクセント記号無視)とも付記されており、ややこしい他の関係曲と区別するために、ハワードはこの8曲つづりを括弧付きの方で呼ぶことにしたのです。
しかし、この8曲が1847年の曲集(こちらはスケッチブックN9から発見されたもの)に先立つ曲集である、と単純に決め付けるわけにもいかないようです。8曲中の第5曲の前に、全11曲からなる曲集の構想を表した「チェックリスト」が書いてあり、それによると、8曲曲集の第1、2、8、4、5曲が、11曲曲集の第2、3、6、8、10曲に該当する、というのです。とすると、8曲は単にスケッチブックに続けて書かれていただけの関係(シューベルトの「白鳥の歌」と同じ状態ですかね?)に過ぎない、と見るのが本当かもしれないのですが、11曲曲集としては復元できないので、8曲曲集の形で収録するしかなかったのでしょう。ちなみに11曲曲集の第1曲がおそらく単独曲の「詩的で宗教的な調べ」(第7巻)、第9曲が「眠りから覚めた御子への賛歌」第1稿(第47巻)、第11曲が多分「ペトラルカのソネット第104番」(ただし現存するどの稿も調性が合わない)、ということです。第4、5曲はそれぞれ第37巻の「エレジー」、第5巻の「夜の祈りを歌う巡礼の行進」と関係があるらしいですが、解説に書いてあることが今一つ理解できません。「ショパン」の題だけ与えられている第7曲については何の情報も無いようです。
11曲曲集が本当の姿だとしてもややこしいだけなので、8曲曲集ということにする、にしても、短調の曲が第2曲だけなので曲集と見るには単調になってしまうのですが、個々の曲は「詩的で宗教的な調べ」か「巡礼の年第2年」を少しだけ未熟にしたような雰囲気です。後の作品に結実しなかったスケッチの方が多いのですが、1840年代のリストの最良の面が現れている、と個人的には思うのです。第1曲は前述のように再録音で「孤独の中の神の祝福」の一部の原形です。第4曲は「バラード1番」にごく近い主題で始まりますが大分違う曲で、1.5倍は長くなるこちらの方がずっといい曲のような気がします。第7曲は1分余りしかありませんが「愛の夢第2番」の原作である歌曲の、そのまた前身になるようです。
トラック9の「管弦楽の無い協奏曲」(1839)、タイトルはシューマンにならってハワード達がつけたもので、要するに「ピアノ協奏曲第2番」の最初のスケッチです。単独曲として20分超というのは、ソナタに次ぐ規模で、「ダンテを読みて」「演奏会用大練習曲」「スケルツオとマーチ」よりも長くなるのですが、それら傑作と比較できる水準ではありません。1839年ではまだ楽想の練りが足りないというのが一つ、それ以上に、これはあくまでもオーケストレーションの準備としてのスケッチであり、音がスカスカの所もあれば異常に難しそうな所(ハワードさん弾けてません)もあり、でピアノソロ曲としての仕上がりが考慮されていない、というのが大きいです。立派なピアノ独奏曲をつまらなく管弦楽つきに編曲した「演奏会用大練習曲」のケースとは違い、最終的にピアノ協奏曲第2番として立派に実ったのだから、ピアノ独奏曲としてこの曲が今一つでも、これで良しとしましょう。
トラック10の「アルバムリーフ」(1840)は「ジプシーの歌」(第29巻)の第11曲の前身の断片、「ハンガリー行進曲変ロ長調」(1859)は2分余りといささか短いですが、性格としては第28巻で述べた「一連のマーチ」の典型でしょう。ラジオ体操誕生×十周年記念式典でもあればテーマ行進曲にピッタリと思いました。「Pensees 'Nocturne'」(1845)はシリーズにするつもりが書き上げたのはこれ一曲のみということですが、佳曲です。
全4曲で2分あまりの「アルバムリーフ」(1840年代、第4曲だけ1860年代)も、曲と呼べる代物ではないとしても、リストらしからぬ対位法の扱いがあったり(第3曲)して、興味深いとはいえます。
「おお、愛せるだけ愛せよ」(1840年代)はご存知「愛の夢第3番」の原形、有名版の変イ長調に対しこちらはイ長調で、あちこち未完の部分をハワードが補筆して収録しています。普通の人は有名版だけ相手にしていれば良さそうです。