第51巻:ダンテを読みて初期稿、他異稿集 お勧め度:D

「ダンテを読みて」の3つの初期稿を始め、名のある、そして個人的にも大好きな曲の初期稿が豪華に集まっています。しかしながら最終稿の方がずっといいと思えるし、演奏の出来も非常に悪い部類だと思います。最終稿を愛するが故に、この2枚組を聴きつづけるのが辛くなりました。中でも「クリスマスツリー」は良くない。同じ異稿集でもずっとマイナーな第50巻の方がずっと楽しい、と言わざるをえません。大半がハワードが楽譜まで用意した曲で、冒頭2トラック以外世界初録音印がついています。

CD1は「Paralipomenes a la Divina Commedia」(1839)(例によりアクセント記号の類は無視)、「ダンテを読みて」の第1稿にあたります。最終形は勿論第42巻の「巡礼の年第2年」の最終曲です。2楽章に分かれているというほどではないのですが小休止が入り、その手前に耳新しい音形が出てくる他、細かい所が色々違うのですが、曲としては既にかなりの水準だと思います。しかし「格好いい系」のこの曲冒頭でいかにも「遅い」と思わせる演奏は良くない。難度が最終形とそう違うとも思えませんし、なめていたのか、忙しすぎたか、下手になったか。

同じく「巡礼の年第2年」のこちらは冒頭曲の原形、「結婚」(1839-1839)、これは曲の流れも大分違います。演奏も特にいいとは思いませんが、曲が最終形にかなり劣るように思います。続く「演奏会用大独奏曲」の初稿(1850)は、演奏はやはり今一つながら、第3巻の最終形では緊張の持続に失敗していたアンダンテ部分が挿入されていない点、曲はまだ悪くない方なので、トータルで見てもこの2枚組の中では良い部類です。

Elegie pour piano seul」(1841)は第25巻と第36巻で延べ4回出てきたリスト自作歌曲「ノンネンヴェルトの僧院」の編曲の第1稿です。比較的動きの少ないこの曲はきらいでは無いですが、稿違いはよく分かりません。「忘れられたロマンス」(1880)の原曲は第23巻のヴィオラとピアノの曲、最終形は第11巻にあり、ここにあるのは最終形のための短いドラフトに過ぎません。CD1の最後が「Prolegomenes a la Divina Commedia」(1840)、「ダンテを読みて」の第2稿にあたります。この2枚組にある3つの「ダンテ」の中では一番力の入った演奏ですが、無理のある力の入り方です。曲はまさに中間、でしょうか。

CD2は「BACHの主題による幻想曲とフーガ」(1856)のピアノ用としては第1稿、から始まります。一番最初がオルガン用初稿、次にこの稿が出来て、これをスタートにピアノ用第2稿(第3巻)が出来て、その稿を元にオルガン用最終稿が出来た、そうです。大筋は第2稿に似ていますが、細かい所が一々違うという感じ、でもそう悪い方では無いです。演奏は良く言ってもまあまあ、というところで、当然第3巻の方が魅力ありますが、この巻にあってはマシなほうです。

クリスマスツリー」(1876、初稿)の後、間に2つの中間稿があって、第8巻の最終稿が第4稿というになるのだけれど、第2稿は一部しか残っておらず、第3稿は結局初稿と最終稿のいずれかに等しいので、中間稿はシリーズには含まれなかった、とのことです。前の曲からこの曲集に来ると、いきなりピアノの鳴りが悪くなります。第8巻に対する賛辞を参照いただきたいのですが、この曲集にとってこのことは致命的です。「カリオン」も「むかし」も「ポーランド風」も全然駄目です。演奏もピアノの調子も録音も全部失敗したような印象を受けます。曲の出来も最終稿が断然いいと思います。

システィーナ礼拝堂にて」(1862)も第13巻の最終稿と比べなければかなりのものかもしれませんが、アレグリのミゼレーレの怪しさも、モーツァルトでの救いも、今一つ冴えません。この曲の場合は演奏よりも曲の差が大きそうです。ABABに近い形の最終稿に対し、AB−コーダの感じです。

続く3トラックが「Ungarishe National-Melodien」(1846)ですが、これは第27巻で「ハンガリー狂詩曲第6番の破片集です」と紹介した曲のそのまた簡素版、というシロモノ。普通の人に勧められるのは最終形=ハンガリー狂詩曲第6番か、せいぜい第29巻収録分どまりで、第27巻分でも既にゲテモノですから、何をかいわんや、です。次の「Ungarishe National-Melodie」(1846)も「ラコッツィ行進曲」の簡素版、それも第29巻収録分に対する簡素版(というほど簡単ではなさそう)です。大全集中8つある「ラコッツィ行進曲」中で上位に来ないのは間違いありますまい。

最後が第3稿になる「ダンテを読みて−ソナタ風幻想曲」、これまで必ずブックレットで示していた作曲年代が書かれていないのは不明なのか書き忘れたのか。タイトルも最終形と同じになりました。曲もあまり最終形と違いません。さほど遅くは無い代わりに切れの無い演奏の方が問題です。ちゃんとした打鍵すら出来ていないところが散見されます。

 

52巻:ハンガリーのロマンツェロ お勧め度:D

不思議な曲目としては第46巻に次ぎます。タイトルになった「Ungarischer Romanzero」(1853)は、1987年になってようやく知られるようになったリストの草稿から、ハワードが補筆した18曲の小品集、なのですが、個々の曲は1曲平均3分程度のハンガリー風のメロディを技巧的にさほど難しくない範囲であっさり仕上げた、というところでしょうか。

有名な「ハンガリー狂詩曲」の1番から15番までを出版した年に、つまり作曲した直後に、何故この中途半端なハンガリー風曲集が作曲されたのか、見当もつきません。生涯を通じて最も多忙な音楽家でありつづけたはずのリスト先生、しばしば不思議なことをなさいます。「ハンガリー狂詩曲」の見栄を失ったハンガリー風というのはどうも締まりません。BGMにするにも中途半端です。

残り2曲、フランス語でタイトル書いてありますが、これも草稿にはタイトルすらなかった未完の行進曲風の曲2曲、「2つのハンガリー風行進曲」(1840?)です。何れも怪しい雰囲気をいくらか出していて、多少は聴けます。

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