第38巻:レ・プレリュード、演奏会用練習曲、他 お勧め度:B
久しぶりに普通に耳にできる曲がたくさん入っていて、ある種ほっとします。けれど、傑作集かなぁ?、、耳あたりがいいのと天才の飛翔とはまた別の話、と思わせられてしまうのです。というわけでCにするのも何だから、程度の後ろ向きなBランクです。
まず「レ・プレリュード(前奏曲)」のピアノ独奏版(1848/1854/1865)、絶対評価すればまずまずの曲ですが、これ位では私には期待はずれなのです。原曲(というべきかどうか微妙なのはリストの常)はリストの13曲の交響詩中の最有名曲であるだけでなくダントツの最高傑作だと思います。その割にはこのピアノ版は食い足りません。中期のリストとしては音が少なすぎる所が多いのです。この曲の場合は本当に「編曲」になってしまったようです。リストの弟子の編曲と誤って伝えられ、これがまた複雑な成立過程の中途では全くの間違いでもなかったりして、の挙句の果ての世界初録音、ということです。
比較するなら「演奏会用大独奏曲」(第3巻)あたりでしょうか。緩みが少ない点では、「レ・プレリュード」の勝ちですが、格好いいところ同士の勝負では、「演奏会用・・」の若々しい覇気の方こそかけがえの無いものに思えます。という調子では、「スケルツォとマーチ」(第28巻)、さらに「ソナタ」(第9巻)には到底匹敵できません。匹敵しても良さそうな素質はあったはず、と思うのですが。
原曲は、本当は合唱曲「四大元素」の序曲として構想され、後に独立、ラマルティーヌの同名の詩を標題に持ってきたのは曲の完成より後ですが、リストが命名した所の「標題音楽」とは、音楽が語る「詩」をより分かりやすくするために言葉による「詩」を添えたものであるから、別に不思議でもないのだそうです。
続いて「3つの演奏会用練習曲」(1848)、各曲の副題はリストがつけたものではないのですが、世界的に通りがいいそうです。第1曲「悲しみ」、第2曲「軽快」、第3曲「ため息」、勿論全て悪い曲ではありませんが、天才の証を感じることも無いのですね、私には。「超絶技巧練習曲」(第4巻)には比べるべくもないと思っていますし、著名3曲セットなら「愛の夢」の3曲(第19巻)の方が上でしょう。
「ため息」は、言ってしまえば、耳あたりのいいメロディを「タールベルクの3本の手の技法」で飾っただけ、の曲ですが、リストの練習曲中素人に最もよく弾かれているのではないかと思います。私自身は譜をまじめに見たことも無いので何ですが、この曲、親しみやすいだけでなく、実は効果が上がる割には簡単なのではないかと見ています。手の小さい女性でも軽々弾いていますからね。主題に戻る直前に入れるカデンツァがもう2つ入っている(勿論世界初録音)のは注目、素人でも色々採用して人目(耳?)を引きつけてみるのはいかが・・・楽譜は入手できるのでしょうか?
「Ab Irato - Etude de perfectionnement」(1852)は第34巻で何だかよく分からないとして放り出した曲の第2稿です。多分前のと余り違っていないと思います。
「2つの演奏会用練習曲」(1863)については誰も何も言わないから、リストがつけた副題なのでしょう、第1曲「森のささやき」、第2曲「小人の踊り」です。「3つの・・」と並んで素人にも親しまれていますが、こちらの方が上だと思っています。これらなら天才の片鱗を感じます。ハワードの演奏は多分いずれも過不足無くお手本向きです。
「レーナウのファウストより2つのエピソード」は同名の管弦楽曲よりの編曲(というべきかどうか微妙なのはリストの常)です。第2曲「村の居酒屋での踊り」のまたの名が、実はかの有名な「メフィストワルツ第1番」、それも当たり前のバージョン、です。それより世界初録音の第1曲「夜の行列」(1861/1873)に注目したい。モタモタするところが長く、到底傑作とは呼びがたいですが、所々光るものがあります。「メフィストワルツ第1番」(1859/1860)では演奏に触れないわけには行きませんが、教科書的で、そう悪いわけではないけれど、切れと面白みに欠ける、というところでしょうか。第1巻の異稿の方の演奏の方がずっと良いように思いますし(やはり下手になってきたというしかないか?)、それ以上に第1巻のメフィストワルツなら第2〜4番を強く推します。