てぶくろ

ウクライナ民話
(絵:エウゲーニー・M・ラテョフ)
  
 
 
 
ある冬の日のことです。
おじいさんが、子犬と一緒に
を散歩していました。
「ほぅ~!歩いていたら、だんだんポカポカしてきたね」

おじいさんは、てぶくろをぬぐと、
ポケットに入れることにしました。
ところが、そのかたほうを道に落としてしまいました。
おじいさんは手袋を落としたことに気づかずに、
そのまま 行ってしまいました。
 
 
 
 
そこへ、ネズミがやってきて、いいました。
「あったかそうな手袋だなぁ~、そうだ!ここをぼくのおうちにしよう」
ネズミは、手袋のおうちに
もぐりこんで、いいました。
「これはいい!ちっとも寒くさいし、ねごこちもバッチリだ」

「ここで暮らすことにするわ!」
 
  
 
 
ネズミが喜んでいると、向こうから、
カエルが「ぴょんぴょん」はねてきました。
「わぁ~
、手袋のおうちだ、だれ、手袋に住んでいるのは?」
「くいしんぼうネズミ。あなたは?」
「ぴょんぴょんガエルよ。わたしも入れてくれますか」
「もちろんです。どうぞ」

ほら、二匹になりました。
二匹は手袋の中で、ぬくぬく暖まりした。
 
 
 
しばらくすると、向こうから、ウサギがはねてきて、いいました。
「だれだい、手袋に住んでいるのは?」

「くいしんぼうネズミと、ぴょんぴょんガエル。あなたは?」
「はやあしウサギ。これはステキなおうちじゃないか。
ぼくも一緒に住ませてくれないか」
「どうぞ。中は暖かいよ!早く入っておいで」

ウサギは嬉しそうにもぐりこみ、手袋の中は三匹になりました。
 
 
 
 
するとこんどはキツネが「コンコン」鳴きながらやってきました。
「どなた、手袋に住んでいるのは?」
「くいしんぼうネズミと、ぴょんぴょんガエルと、
はやあしウサギ。あなたは?」
「おしゃれギツネよ。あったかくて気持ちのよさそうなおうちね。
わたしも仲間に入れてちょうだい!」
「いいですとも、まだまだ中は広いからね」

キツネが入って手袋の中は四匹になりました。
 
 
 
 
それからまたしばらくすると、オオカミが「ウォーン」
とほえながら、やってきました。
「おやおやみんな楽しそうだね。だれだ、手袋に住んでいるのは?」

「くいしんぼうネズミと、ぴょんぴょんガエルと、
はやあしウサギとおしゃれギツネ。あなたは?」

「はいいろオオカミだ。おれも仲間に入れておくれよ」
「どうぞ、お入りなさいな、にぎやかになってうれしいわ」

もう、これで五匹になりました。
手袋の中は動物たちでいっぱいです。
 
 
 
 
そこへこんどは、イノシシが土けむりを上げながら走ってきました。
「ふるん ふるん ふるん。
だれだね、手袋に住んでいるのは?」

「くいしんぼうネズミと、ぴょんぴょんガエルと、
はやあしウサギとおしゃれギツネと、はいいろオオカミ。
あなたは?」

「きばもちイノシシだよ。みぃ~んなあったかそうにしてるじゃないか!
おれもそこに住ませておくれ」

さあ、こまりました。

「お~ぉオ。君がネズミくんぐらいちっちゃかったら入れたんだけどな
ちょっと無理じゃないですか」

「だいじょうだ!きっと入ってみせるぞ」
「それじゃどうぞ」

もう、これで六匹です。
手袋の中は動物たちで、ぎゅうぎゅうづめです。
 
  
 
 
その時、木の枝がぱきぱき折れる音がして、
大きなクマが「のっし、のっし」とやってきました。
「だれだ、手袋に住んでいるのは?」
「くいしんぼうネズミと、ぴょんぴょんガエルと、
はやあしウサギとおしゃれギツネと、
はいいろオオカミと、きばもちイノシシ。あなたは?」

「うお~ うお~。のっそりグマだ。ぼくもそこへ入れておくれよ」
「とんでもない。満員です。おれでも大変だったんだ!
もう手袋がやぶけてしまうよ」
「ためしたみなきゃぁわからないよ!
やってみせるさ。どうしても入るよ」
「しかたがない。でも、ほんのはじっこにしてくださいよ」
クマは大きな体を手袋に押し込みます。


これで七匹になりました。てぶくろパンパンにふくらんで、
今にもはじけてしまいそうです。
 
 
 
 
さて、森を歩いていたおじいさんは、
てぶくろが片方ないのに気がつきました。

お~ぉ、手袋はどこだろう~
あ~困ったな

さっそく、探しに戻りました。
子犬が先にかけていきました。
どんどん駆けていくと、手袋が落ちていました。
手袋はムクムク動いています。
子犬は「ワン ワン ワン」と吠え立てました。

「あっ!誰かが手袋をひろいにきたんだ」
とたんに動物たちはピューンと手袋から飛び出しました。
みんなはびっくりして、てぶくろからはいだすと、
森のあちこちへ逃げていきました。
 
 
 
 
おじいさんは、動物たちが手袋の中にいたなんてちっとも知りません。
お~あった、あった。こんな所に落としていたのか
お~っ、寒い!早くおうちに帰ろう」

おじいさんはからっぽの手袋を拾いあげると、うちに帰っていきました。
 
 
 
 
「う~ん、ビックリしたね!
でも、みんなでいるとあったかいね!」
「そうだね、手袋がなくてもあったかいね」
手袋からでた動物たちは、身を寄せあうと、
仲良く森のなかへ 帰っていきました。
  
 
おしまい
The end
 
 

  この絵本に出てくる登場人物・動物は、  
  ・おじいさん
  ・子犬
  ・くいしんぼねずみ
  ・ぴょんぴょんがえる
  ・はやあしうさぎ
  ・おしゃれぎつね
  ・はいいろおおかみ
  ・きばもちいのしし
  ・のっそりぐま
 
手袋に入った動物は以上の全部で匹です。それぞれの特徴をとらえた
名前がついていて、服を着た動物はとても個性的な感じがします。

人間からすると小さな手袋の中で繰り広げられる
ファンタジックな世界に、情景が目に浮かぶリアルで繊細な絵で、
とても創造力ををかきたてられる作品です。

七匹も現実的に手袋に入れるワケないけど入れちゃうところに
ファンタジーを感じるし、ただの手袋に、玄関ドアがついて、
ハシゴがかけられて、屋根がつけられて、窓もついて
どんどん家らしく変わっていくその過程も面白い。

ネズミやウサギなど小動物が、天敵のはずのオオカミやクマ、キツネと一緒
に仲良く手袋をシェアする不思議な光景はなんだか優しい気持ちになれます。

現実と現実にはあり得ないファンタジーが交差する、不思議な気持ちになる
絵本。私たちの知らないところで、「てぶくろ」みたいな小さな物語が
生まれていると思うと、なんだかワクワクしてきます。
 
 
 
エウゲーニー・M・ラテョフ
1906年、シベリアのトムスクに生まれる。幼年時代をバラビンスカヤ草原
の大自然の中で、鳥や動物と親しんで育つ。
クバン美術師範学校、キエフ美術研究所で学んだのち、1930年に
キエフの出版社”クリトゥーラ”に勤め、編集者シベルスキーに子どもの本
の絵について教わる。1935年からモスクワ国立児童図書出版所絵画部の
編集長を務め、数々のすぐれた動物絵本をうみだす。
ライプツィヒ国際図書展銀メダル、ロシア連邦共和国人民芸術家賞を受賞。
主な作品に『マーシャとくま』(福音館書店)『麦の穂』(ネット武蔵野)
などがある。  1997年没。