ヤィン=ゲーブル

 アドルは人という字を3回、手のひらで書いてから唾と一緒に飲み込んだ。
 しかし胸に手を当てると、口から飛び出そうなほど心臓の鼓動が大きいのが、ノーマルスーツの上からでもはっきりと分かった。
 初陣。
 士官学校では、MS戦シミュレーションの成績はダントツだった。それが原因で高給取りのティターンズに配属されたのは、運がいいのか悪いのか・・・
「どうした、アドル曹長」
 MS隊長、ヤィンが近づいて、肩に手を置いた。
 ヤィン=ゲーブル。ショートなのにボリュームのある膨らんだ金髪と、琥珀色の瞳、そしてノーマルスーツの上からも分かる抜群のプロポーション。危ういまでに魅惑的な外見とは裏腹に、彼女の過去は数々の武勇伝で彩られている。
 ア・バオア・クー会戦での撃墜数は2桁に昇る。スピード重視だという理由だけで、ザクマシンガンの一撃だけでパイロットを死に招きかねないジム=ライトアーマーに搭乗するのを好み、その機体で最終激戦を生き残ったのは彼女だけだ。
「は、隊長・・・」
「なぁに?緊張してるのかい?」
 ヤィンがニヤリと笑うと同時に、アドルは「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げた。ヤィンの右手が、その細い5本の指がグッとアドルの股ぐらを鷲づかみにしたのだ。
「縮んでるなんて、肝っ玉が小さい坊やだね。私の指で、大きくしてやろうか?」
「い・・いえ、そんな、その・・・」
「口の方が好みか?」
「そんな、とんでもありません・・・」
「あはははは!冗談さ。かわいいね、赤くなって」
 ヤィンは手を離すと、ポーンと床をけってギャブランのコクピットへと体を流しながら、アドルに向かって小さく振り向いた。
「おぼえておきな、アドル。コクピットでも硬くそそり勃つような男が、生きて帰ってこれるのさ。1度なら指、2度なら口、3度生きて帰ってこれたら、私の体を自由させてやってもいいよ」
 もちろん冗談だ。しかし、そういう他愛ない冗談のために、案外、男という生物は生きるための活力と闘争本能を呼びさます。そういうことを、ヤィンという女は、分かっているのだ。
 2つの包含とともに縮み上がっていたアドルのそれは、ノーマルスーツが窮屈に思えるほど、硬く膨らんだ。さっきまでの緊張が嘘のようだ。今なら、どんなエゥーゴのMSも墜とせるような気がした。

作:プロト ◆xjbrDCzRNwさん


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