ジオンの赤い彗星・シェリル・アズナブル

第1話

シェリルは大気圏突入中のコムサイで考えていた。サイド7で見た妹アルテイシアそっくりの少女のこと、そして・・・

シェリル「モビルスースの位置、変わらないわね。燃え尽きる様子もない・・」
ドレン「あのまま大気圏を突破する性能があるのでしょうか?」
シェリル「あの木馬も船ごと大気圏突入をしている・・・ありえない話ではないわね」
 そこまで自分で言ってシェリルは寒気が走るのを感じた。ザクのマシンガンを受け付けない装甲、
 MSを一撃で仕留めるビーム砲。なにより連邦には満足なMSパイロットなどまだいないはずなのに、
 熟練の部下を何人も沈められた。あの木馬の戦い方は素人のもの・・となると、素人があそこまでMSをあつかえるものなのか?
 ルウムの5隻跳びでエースの名を欲しいままにしてきた自分が始めて敵から感じたプレッシャーにシェリルは思わず自分の肩を抱いた
ドレン「少佐?どうかされましたか?」
シェリル「あ、いやなんでもない。ふむ、狙い通りこちらの勢力圏下に誘い込めたようね」
ドレン「さすが少佐ですな!2段構えの作戦とは恐れ入ります」
シェリル「目的を果たすには非常でなければね。無線が回復したらガルマ大佐を呼び出して」
ドレン「は、ガルマ大佐にお繋ぎします」
ガルマ「よう、久しぶりだな、『赤い彗星』。どうした?」
シェリル「その名は返上しなきゃいけないみたいよ。ガルマ・ザビ大佐」
ガルマ「はははは、珍しく弱気じゃないか、君らしくもない」
シェリル「敵のV作戦って聞いたことある?その正体を突き止めたのよ・・・」
ガルマ「なんだと?」
シェリル「おかげで私はザク8機を失って、あなたのお兄様に苛められてるのよ」
ガルマ「そんなにすごいのか?」
シェリル「そちらにおびき寄せたわ。親愛なるあなたへのプレゼントよ・・・あとでそちらに行くわ」
ガルマ「ご好意は受け取っておこう!君のためにワインを用意しておく。ガウ攻撃空母出るぞ!」
第2話

 ガウに収容されるシェリルのコムサイ
ガルマ「いよう、シェリル。君らしくもないな連邦の船一隻にてこずるとは」
シェリル「苛めないでよガルマ。いえ、地球方面軍司令、ガルマ・ザビ大佐とお呼びすべきかしら?」
ガルマ「ふ、士官学校時代同様、ガルマでいいよ」
シェリル「(士官学校時代・・・か)・・あなたの手を煩わせるのは申し訳ないわね」
ガルマ「いや、君を迎えに来ただけでもいい、シェリル」
 そこまで言うと軽く抱擁を交わす
シェリル「ふふ、お世辞でもうれしいわ」
ガルマ「お世辞なものか!君はゲリラ掃討作戦から引継ぎだったんだろ?ドズル兄さんは人使いが荒いからな。少し休みたまえ」
シェリル「お言葉に甘えて、シャワーでも浴びさせていただくわ。ジオン十時勲章ものであることは保証するわよ」
ガルマ「ありがとう、これで私を一人前にさせてくれて。姉に対しても男を上げさせようという気遣いだろう?」
シェリル「フ、あははははは!」
ガルマ「笑うなよ、兵が見ている。帰ったら共に祝杯を上げよう」
・・・・・・・・・・・
シェリル「苦戦しているようね、ガルマ。私たちが無能だったわけではないことを彼が証明してくれている・・・」
ドレン「はあ?」
シェリル「ドズル将軍も、私の力不足ではないことを認識することになるわ」
ドレン「なるほど・・・」
シェリル「ガルマはMSに乗ったの?」
ドレン「いいえ」
シェリル「そう・・・乗らなかったの・・・・・そう」
第3話

ガルマ「シェリル、いるか?」
シェリル「・・・ああ、ちょっと待ってくれる?」
ガルマ「あ、シャワーか!すまない、出直してくる」
シェリル「いいのよ、もう出るところだったんだから」
ガルマ「いや、そういうことでは・・・あ」
 振り返ったガルマの前にはバスローブに身を包んだシェリルが微笑んでいた
シェリル「・・・私の顔に何かついてるの?」
ガルマ「あ、そうではなくて・・・そ、そうだ!木馬だ!なぜあの機密の凄さを教えてくれなかった!」
シェリル「ちゃんと言ったわよ。『ジオン十時勲章物だ』ってね」
 悪戯っぽい笑みでそう返されては言葉もない
シェリル「あら、ワインを持ってきてくれたのね」
ガルマ「ん?ああ、この戦時下でこれだけの上物はなかなか手に入らんよ。今日は特別だ」
シェリル「それは光栄ね。待ってて、今グラスを用意するわ・・・!?ガ、ガルマ?」
 背を向けてグラスを取りに行こうとしたシェリルは背後からガルマに抱きしめられていた
ガルマ「・・・君ほどの女の素顔を拝める私はつくづく幸せ者だな・・・もっとよく見せてくれ」
シェリル「ふふ、あなたは何度も見ているでしょうに・・・」
ガルマ「本当に美しいものは、何度見たって飽きたりなどしない・・・だろう?」
シェリル「相変わらずね、士官学校時代から全く変わらない・・・」
 振り返ったシェリルはガルマの首に腕を回し、口づけを交わす

デギン公王の第4子ガルマ・ザビとシェリルの出会いは士官学校時代にさかのぼる。
二人は他の学生とは明らかに格が違い、二人で主席を争うほどであったので
自然お互いを知り、親しくなっていった。もっとも、近づいていったのはシェリルからであったが。
男女の性差こそあったが、二人の間にあったのは「友情」の感情であった。
ガルマは当時から男女を問わず人気があったが、それが自分の家柄の為であることを感じ取っていた。
自分の周りで名前を覚えてもらおうとご機嫌取りをする男達、
身体を交えても自分ではなくザビ家の家柄だけを見ている女達
そんな中でただ一人彼と対等に接するシェリルはガルマにとってたった一人の本当の友だった
第4話
あくまで「友人」である二人が「男女の関係」を持ったのは、一時の酒の勢いが始まりだった。
酔った二人がそれぞれ自身の「男としての」「女としての」魅力、どちらが優れているかで言い争いになった。
驚いたことにその「決着方法」を提案したのは当時男性経験の無かったシェリルのほうだった。
その後も二人はあくまで「友人」としての関係を続けながらも、「男女の関係」も度々重ねてきた
二人の微妙な「友情」は現在まで変わらず続いていた。

 二人は既にベッドの上に移動していた
ガルマ「・・・・?どうした、シェリル」
シェリル「え?ああ、ちょっと昔のことを思い出していたのよ・・・」
ガルマ「昔・・・か、昔も今も私は『ザビ家の』ガルマのままだ・・・兵たちが『親の七光り』などと噂をしていることくらい知っている・・・」
シェリル「ドズル閣下もあなたには将軍の才があるといつも仰ってるわ。それに、あなたの力は私が一番よく知っているわ」
ガルマ「・・・君には昔から慰めてもらってばかりだな・・・」
シェリル「ん・・・!そ、そんなこと・・・・あ・・!」
ガルマ「シェリル・・・・・」
シェリル「な、何?」
ガルマ「もう、そろそろ・・・」
シェリル「あ・・・・・」
ガルマ「・・・・・・・・・」
シェリル「・・・い、いいわよ・・」
ガルマ「では・・・」
シェリル「ま、待って!」
ガルマ「え?ど、どうした?」
シェリル「その・・・・久しぶりだから、ちょっと・・・痛いかもしれない・・・・だから・・」
ガルマ「・・・わかった。初めての時のように優しくしてやる」
シェリル「あ、ありがとう・・・」
ガルマ「では、いくぞ」
シェリル「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ガルマ「大丈夫か、シェリル?やはり・・・」
シェリル「だ、大丈夫よ。『赤い彗星』は痛みには慣れている!」
ガルマ「そうか・・・動くぞ」
シェリル「うん・・・・クッ!」
第5話

 ・・・全身を一種の気だるさに支配されながら、シェリルはガルマの胸の上に顔を伏せていた
シェリル「・・・ねえ、ガルマ?」
ガルマ「ん?・・どうした、シェリル?」
 間近で見るガルマの瞳はとても優しい
シェリル「・・・そろそろ、いい人見つけなさいよ?」
ガルマ「なんだよ・・・急に」
 不快そうな反応をするガルマに、なおもうれしそうに続ける
シェリル「お姉様も心配されてるんじゃないの?まあ、ガルマのお眼鏡に適う女なんて、そういないでしょうけどね」
ガルマ「・・・・・・」
シェリル「・・どうかしたの?」
ガルマ「・・・いるんだ」
シェリル「え・・・?」
ガルマ「・・ここ、北米で素晴らしい女性と出会った・・・生涯を共にするなら、その人しかいないと思っている」
シェリル「・・・・・・・・」
ガルマ「・・・シェリル?」
シェリル「そう、良かったじゃない!私、心配してたのよ。あなたって理想が高いから。戦場でロマンスなんて、あなたらしいじゃない!」
ガルマ「・・・すまない、シェリル・・」
・・・・・『ナンデ、アヤマルノ?』・・・・・・・・・・・
シェリル「・・え?ああ、今まで紹介してくれなかったくらいで、そんなに怒らないわよ!」
ガルマ「あ、ああ・・・近々紹介するよ」
シェリル「それは楽しみね・・・・じゃあ、こういうことするのも最後にしましょ?」
ガルマ「・・・そうだな」
シェリル「ねえ、・・最後の思い出に、もう一回キスしてくれる?」
ガルマ「・・・ああ」
・・・・・・『サボテンガハナヲツケテイル』・・・・・・・・・
第6話

 木馬との最終決戦を控えたガウの中、シェリルは先ほどパーティーで見た光景を思い出していた。
 ガルマに寄り添う美しい女性、そして見たことがないほど優しいガルマの横顔
 シェリルは確かに聞いていた「貴女のためなら、私はジオンを捨ててもいい」と囁くガルマを
ガルマ「シェリル、出撃前だぞ。大丈夫か?」
シェリル「・・・ええ、大丈夫よ」
ガルマ「そうか・・木馬を見つけたら、すぐ位置を知らせてくれ!」
シェリル「わかっているわ・・・・・勝利の栄光をあなたに!」
ガルマ「いや、勝利の栄光を『共に』だろ?」
 シェリルはそれには応えず、ただ笑ってMSに乗り込んでいった
 そして、白いMSとの戦いのさなか、ついにWBの狙いを察するのだった
シェリル「・・そうか、木馬は後ろか・・・いい作戦ね」
 口が勝手に言葉を紡いでいた
シェリル「ガルマ、聞こえて?MSが逃げる先に木馬がいるわ!」
ガルマ「わかった!全機攻撃スタンバイ!」
 炎に包まれるガウをシェリルは無表情で見つめていた
シェリル「フフ、ガルマ、聞こえていたら、生まれの不幸をのろうのね」
・・・・・・『ソウ、アナタガ ザビ ダカラ コロスノ』・・・・・
ガルマ「ふ、不幸だと?シェリル、お前は・・・」
シェリル「あなたはいいお友達だったけど、あなたのお父様がいけないのよ?」
ガルマ「・・・シェリル、謀ったな!シェリル!」
シェリル「フ、ハハハ・・・・アハハハハハハ・・・!」
・・・・『デモ ホントウハ、アナタダケハ・・・』・・・・・・
第7話

シェリル「ガルマ配下のダロタが木馬の追撃に出たというのは間違いないか?」
ドレン「ええ、本当のようです」
シェリル「・・・この気流の中、よくやる。こちらも木馬を追うわ!」
ドレン「20分ほどでダロタ隊に追いつきます」
シェリル「15分で追いつきなさい!」
ドレン「は!」
シェリル「(フフ、忠義深い部下を持ったわねガルマ!)」
・・・・・・・・・・・・・
ドレン「見えました!既に木馬と交戦中のようです」
シェリル「交信!・・・こちらはシェリル。手を貸すわ」
・・ダロタ「シェリル少佐、ガルマ大佐直属のダロタ中尉です」
・・イセリナ「お、お願いです!ガルマ様の敵討ちを手伝ってください!」
シェリル「(!?・・・この声はガルマの?フ、見かけによらず思い切ったことをする・・ガルマが惚れるわけね)
     ・・・聞こえているかガウ、MSの頭を狙え!そこが奴の弱点だ!」
 数十分後、沈んでいくガウから、ガルマの名を叫ぶ女の声をルッグンの通信は拾っていた
シェリル「(・・・これで一人ではないな、ガルマ・・・寂しい思いをせずに済む・・フ)
     ドレン。私のMSは電気系統がメチャメチャに焼き切れていて使えなかった・・・そうね?」
ドレン「・・・・は、報告書にはそのように・・」
第8話

シェリル「私の左遷・・・か」
ジオン士官1「はい、ドズル閣下はガルマ様をお守りできなかったことを大変お怒りです」
シェリル「・・・そう、では私はバカンスにでも行かせていただくか・・・」
ジオン士官2「いえ、まだこちらの用件は済んでいません」
シェリル「・・・・なんのつもり?銃など向けて」
ジオン士官1「ガルマ様を守れなかった報いを受けていただく!」
シェリル「・・・ドズル閣下の命令か?」
ジオン士官2「我々ガルマ様に忠誠を誓った者の意志だ!」
シェリル「・・・・・・そう」
 銃声が、一つ、二つ・・・
シェリル「・・・『殺そう』と思った瞬間は、既に相手を『殺した』瞬間でもあるのよ・・・
     チャンスを活かせないのは愚か者・・・と言っても、もう聞こえてないわね?
     では、遠慮なくバカンスに行かせてもらうわよ。フフ・・」

作:・・・・ ◆iFt60ZwDvEさん


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