ギーゼラ・ザビ

末息子、ガルマ・ザビの戦士を伝えられたデギン公王は、その場で杖を落したという。
ガルマの将来に期待をかけていた次男、ソロモン指令ドズル・ザビはもちろんのこと
次女、グラナダ指令キシリア・ザビもジオン本国に急いだ。
そして、ザビ家独裁体制を確立した長女であり、その長い銀髪をオールバックにかきあげ、切れ長の瞳を持つ女・・・
「鉄の女」の異名を取る、後に実の父から「ヒトラーの尻尾」と揶揄されるギーゼラ・ザビも、ア・バオア・クーから、デギンの元にかけつけた。

久しぶりに見たドズルの背を見ると、ギーゼラは「小さくなったものだ」という想いにとらわれる。
公王の息子の死は、もはや、一人息子の死ではない。それが戦争に疲れ始めた父には、わからないと見える。
「ガルマの死を無駄にする訳には参りません。ザビ家末代の沽券にかかわります」
だが、デギンはギーゼラの言葉に、首をゆっくりと横に振るだけだ。
「ギレン、わしはただガルマの死を静かに見送りたい・・・」
ふがいない!斯様な慎ましい死を、ガルマが、そして国民が望んでいるとでも思っているのか、父は!
側近が言う。
「おそれながら、ドズル・ザビ様、キシリア・ザビ様、ただいま前線より御到着でございます」
巨漢のドズルと、細身のキシリアが入室早々、信じられないといった顔で、追悼の意を表した。
「残念です。あのガルマが連邦軍のモビルスーツの前に倒れたと」
「ギーゼラ姉貴、俺はまだ信じられん。今にもあいつが顔を出すんじゃないかと」
何を甘い事を言っているのだ、ドズルは。軍人としては分からぬが、お前が政治をできない無能だからこそ、そしてガルマが何も分からぬ坊やであったからこそ、この私が女であることを捨ててまで、絶対君主制の確立に尽くしているのがわからないのか。
「過去を思いやっても、戦争には勝てないわ、ドズル」
「しかし、あ奴こそ俺さえも使いこなしてくれる将軍にもなろうと楽しみにもしておったものを」
ドズルの戯言に、デギンがうなずく。
「ドズルの言う通りだ。だからだ、ギレン、静かに丁重にガルマの冥福を祈ってやってくれまいか」
この無能な男どもが!
今は身内の死を哀しむより、国家百年の計を優先させるべきなのに!
これはチャンスなのだ!ヒーローの死!それが国民の戦意高揚につながるというのに!
「ガルマの国葬を行う事によって、国民の地球連邦への憎しみを掻きたてる事こそ、肝要ではないのでしょうか」
「私もギーゼラに賛成です」
キシリアが言う。やはり、頼りになるのは同じ女だと、ギーゼラは思う。
「父上、公王として、御決断を」
女とは、かくも冷静になれるものなのか・・・我が娘ながら、ギーゼラは母性というものを持ちあわせていないと思うと、デギンは長い溜息をつかずにはいられなかった。

作:プロト ◆xjbrDCzRNwさん


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