ソロモンのラブリー小悪魔ちゃん(はぁと)アニー・ガトー

 二人の連邦士官が、私に敬礼する。
 うっふっふ。すっかりだまされちゃって。
 眼鏡の坊やなんて、私の美貌に見とれちゃって、鼻の下なんかズルズルのばしちゃってるわ。でも、私のタイプじゃないわね。
「ねえ、坊やたち、このガンダム2号機には、核弾頭は搭載済みなのかしら?」
「は、はい」
 黒い髪の坊やが、緊張した声で返事する。あら、この子、けっこう好みのタイプだわ。
 でも私の食指を動かすには、恋の一つでもおぼえて、もう少し大人の男になってくれないとダメね。
 そうね。せめて私のウソが見抜けるようにならないと大人の男とは言えないわ。
 悪いけど、2号機はいただくわ。ごめんね、坊やたち(はぁと)

 え?私?
 私の名前は、アニー・ガトー
 人は「ソロモンの悪夢」なんて、かわいくない呼び方するけれど、皆は「ソロモンのラブリー小悪魔ちゃん(はぁと)」ってよんでくれると、アニー、嬉しいな。うふ。
「ガトー!!!!!」
 ああん、そんな呼び方しないで。優しく「アニー」って呼んで。
 ウラキ少尉っていったかしら。ムキになって向かってくるのはいいけれど、まだまだ未熟よね、坊や。女の子とMSは、もっと優しく操縦しなきゃダメよ。
「なぜ2号機を盗んだ!」
「ひ・み・つ(はぁと)子供は、知らなくていいことよ」
「子供だって?俺だって、連邦の士官だ!」
「そういうことは、一人前の男の言うことよ」
 坊やのガンダムのサーベルを、私は華麗に、盾で受ける。う〜ん、私ってば、チョーしぶい!
 え?何か煙が出てるわ?そんなぁ!これ、ただの盾じゃないの?ええ、冷却装置?誰が見たって、ゴッツイ盾じゃない!
 あらら、これはちょっと、まいっちんぐ(死語)
 しょうがないわね。退却たいきゃく〜。
「アニー・ガトー少佐、ただいま戻りました」
「ガンダム奪取の報告を聞いた。見事」
 きゃー、デラーズ閣下って、チョーしぶい!ハゲだのヒゲだのバカにする小娘たちは、大人の男の魅力をわからないのよね。
 でも私、ちょっと怒ってるの。プンプン。
「閣下、シーマ中佐の作戦参加を、許した理由をお聞かせ願いたいのですが」
「あら、私はここにいるよ」
 で〜た〜な〜。この、傷の代わりに小ジワがお肌ににじみ出ている、クイーンエメラ○ダスもどき!
「小娘一人じゃ閣下も不安だろうからさ、及ばずながら、私も星の屑作戦をお手伝いさせてもらおうと思ってね」
「は、中佐」
 うっきー!何で私がこんなオバハンに頭をさげなくちゃなんないのよう!
「連邦の艦隊が接近しているようだな」
「閣下、このアニーにおまかせを」
「いや、私が出よう。まだ手みやげがないからね。少佐、これからは楽をさせてあげる。小娘はガンダムを磨いていればいいのさ」
 む・か・つ・くー!チョムカ!ゲロムカ!マジムカ!
 女狐が出て行くと、私は聞かずにはいられなかったの。
「閣下、なぜあのような女を!」
「妬いているのか、ガトー」
 私の気持ちを知っていながら、そのようなお言葉・・・うーん、閣下のい・け・ず(はぁと)
 私に妬かせたくて、あんな女を近づけたのね。かわいいところ、あるじゃない。
 お願いだからガトーなんて言わないで、アニーって呼んで。
「大儀を志すものは、小義にはこだわらぬものだ」
 さすが閣下。大人の男。懐が広いわ。思わず瞳キラキラ状態で見つめちゃう(はぁと)
 でもね、閣下のような実直で理想に一途な男が、悪い女で身を滅ぼすようなこともあるのよ。
 アニー、心配。
番外編・親友ケリィに当てたメールディスクより。

「はぁい、ケリィ。お・げ・ん・き?うふ(はぁと)
 あなたも早く、ジオンに戻ってらっしゃいよ。ケリィがいないと、私、寂しいな(上目づかい)
 ケリィにだけは教えちゃおうかな、私のひ・み・つ。
 私ね、明日、オーストラリアに行くの。目的は・・・あぁん、ダメダメ。これ以上は、チョーラブリーなケリィにも、教えられないわ。
 でもね、そのとき、ケリィも愛しの閣下のお言葉を聞くことになると思うの。
 また、ソロモンのときみたいに、一緒にがんばりましょう?
 親愛なるケリィ大尉へ。アニー・ガトー少佐より(投げキッス)」

 俺が何回言いよっても、相手にしてくれなかったくせに・・・でも、チクショウ、あいかわらず可愛いなあ、アニー。
 罪な女だぜ。さすが「ソロモンのかわいい小悪魔ちゃん」だよ。
 今日も酔いつぶれるケリィであった。
「お加減でも悪いのですか、少佐?」
 宇宙を見つめる私に、カリウスが声をかけてくる。
「んん、ちょっと思い出にひたっていただけ・・・皆は、この宇宙に散ってしまったのね」
「ふられてもふられても、少佐についてくる部下も、私だけになってしまいました」
「カリウス、私、これでよかったのかな」
「よいのです。少佐にふられて宇宙に散った男たちも、少佐を暖かく迎えているはずです」
「そうね・・・ロック、スミノフ、ケイタロウ、ジョセフ、アドルフ、キム、サンダー、ジョニー・・・それから、えーと」
「ブラギノフと、リョウイチです」
「そうね、そうそう、その二人。とにかく、皆、私は地球圏に戻ってきたわ」
(名前も忘れられてんじゃ、ブラギノフもリョウイチも、うかばれないな byカリウス)
「この観艦式は地球歴1341年、英仏戦争のおり、イギリスのエドワード3世が出撃の艦隊を自ら親閲したことにはじまる。
 共有すべき大宇宙の恩恵を、一部の矮小なるものの蹂躙にまかせるということは・・・」
 私は連邦の演説が聞こえる通信を切った。
 だぁって〜、難しい言葉ばっかりで、何言ってるんだかわからないんだもん。
「こんな禍々しい物言いを連邦に許すとは・・・これは死者への冒涜です!」
 え?そうなの、カリウス?なぁんだ、私達、悪口言われてたのか。だったら、もっと簡単に言ってくれればいいのに。「ジオンのバ〜カ」とか言われたら、私にも分かるんだけどさ。
「いいじゃないの、カリウス。私たちは、ここにいるんだから。ロックとスミノフとケイタロウとジョセフとアドルフとキムとサンダーとジョニーとブラギノフも、私達がここにいることを喜んでいるわ」
「リョウイチも、ですね」
「あ、そうそう。もちろん、リョウイチもね」
 ブラギノフは思い出したけど、リョウイチって、ま〜だ、どんな男だったか思い出せないのよね。きっと、よっぽどツマンナイ男だったのかしら・・・ま、いいか。
「じゃ、レッツ・ラ・ゴー!」
「この宙域には、ソロモン戦の名残が、こんなに」
「いいじゃんいいじゃん、チョーラッキー!これなら連邦に見つからないわ」
「ガトー少佐!自動砲台です!」
「え〜?うっそ〜?見つかっちゃったの〜?」
「少佐、ここはおまかせを!コンペイトウへ!いえ、ソロモンへ!」
「あ、そう?ラッキー!じゃ、よろしくね、カリウス。生きて戻ってきたらキスして、あ・げ・る(はぁと)」
「は、身に余る光栄です(これに、何回だまされたことか・・・)」

 ターゲット・ロック・オン(はぁと)
 私の一発で観艦式が全滅しちゃうなんて、ドキドキしちゃう。
 こういう時って、何か決めゼリフを言うものなのよね。なんかチョーいけてる言葉、ないかしら。
 あ、思い出した。リョウイチって、日本人で、やたらと俳句とか短歌とか好きだった男。
 忘れててゴメンね、うふ。おわびに、俳句を決めゼリフにするから、許してね
「わたくしは・もどってきたわ・ソロモンに」
 ・・・・やらなきゃよかった。
 えーい、もう撃っちゃえ!それじゃ、連邦のおじさまたち、バイバ〜イ(はぁと)
「これが、MAノイエ・ジールだ」
 うわ!でか!
 大きければいいってもんじゃないのよね。やっぱり硬くて長持ち・・・じゃなかった。装甲と耐久力がないと。
 でも、とりあえず褒めておかないと、使わせてもらえないわ。
「チョーかわいい!まるでジオンの精神が形になったようですわ(はぁと)」

 でも、操縦はしやすいわね、この機体。
 ん?あれは・・・うわ!でか!あれがガンダム!?アニー、ビックリ!
 だから大きければいいってもんじゃないんだってば。やっぱり男は硬くて長持ち・・・じゃなくて、MSは装甲と耐久力よ!
 
「戦闘中止?うっそ〜!まじまじ?なんでぇ〜?」
 愛しの閣下が、クイーンエメラ○ダスもどきの女狐に、つかまっちゃったの?
 うっきー!だから言ったじゃないのよ!あんな悪い女にだまされるなんて、閣下のばかぁ!そういうバカなところも、かわいいんだけどさ。
「動くなよ、ガトー。敗軍の将はいさぎよくなあ」
 何言ってんのよ!いい年こいて、時代遅れのジュリアナ扇子ふりまわしてる女が!
「ガトー!行け!ワシの屍を乗り越えて!」
 え〜?閣下を見捨ててなんていけないよぉ。アニー、困っちゃう。
「ワシを宇宙のさらし者にする気か!行け、アニー!ワシの屍を超えて行け!ジーク・ジ…うぉ!」
 なんてことすんのよ、小じわババァ!せっかく閣下が、初めてアニーって呼んでくれたのに、その閣下を殺しちゃうなんて!
 死んじゃえ、ジュリアナばばぁ!!ロケットパーンチ!あははは、ばばぁ。ざまあみろ!
 閣下、私はこれからソーラシステムのコントロール艦を壊しにいきます。天国から愛しのアニーを守ってくださいね。うるうる。
落下するコロニーのコントロール室って、暗いのよね。幽霊とかでてきそう。あ、でも閣下の幽霊ならチョーラッキー(はぁと)
 最後の軌道修正なんて大役を、最後の最後に、私に残してくれるなんて…さすが閣下、チョーラブリー。でも、何で死んじゃったの?アニー、哀しい。
「おねがい、アニー!こんなことはやめて!」
 チョービックリ!こんなところで、いきなり人の声がするなんて!
 ふりむいて、2度ビックリ!
「なっつかしい!ニナじゃない!こんなところで再会できるなんて、うれしい!」
「アニー!私達、親友だったじゃない!それなのに、コロニー落しなんて」
「だってぇ、閣下のこと、好きになっちゃんだもん」
 そのとき、どきゅ〜んって音がした。
 いった〜い?なんなの?
 銃で撃たれるなんて、アニー、初めて。初体験って、なんでも、痛いものなのね。
「コウ!」
 ニナが、私を撃った男の名前を呼ぶ。
 え?あれ?彼、ウラキ少尉とかいう、チョーでっかいガンダムのパイロットじゃない?
「アニー!コウ、やめて!」
「なぜ、そんな女をかばうんだ、ニナ!」
「アニーは私の親友だったのよ」
「俺を愛しているなら、そこをどいてくれ、ニナ!」
 えええええええ?どういうこと?
 ニナ、この若い坊やと、できてるの?ひっどーい!
 私たち、結婚もしないで、仕事でがんばるキャリアウーマンになろう!一人の男になんかしばられないで生きようって誓いあったじゃない。
 だから私、いろんな男にいいよられても、皆ふってきたのに!閣下にも、愛を伝えなかったのに。
 この裏切り者!私にも、考えがあるわよ。
「ニナ!愛してるって言ってくれたのは、ウソだったの?」
 沈黙。うっふっふ。坊や、どういうことか、考えてる考えてる。
「・・・ニナ、君は両刀づかいだったのか?」
「ちっちっち、ちがうわよ!ちがうのよ!そんなわけないじゃない!アニー!何て事言い出すの!」
「ひどいわ、ニナ・・・アニー、かなしい」
「何言ってるのよ、アニーってば!」
 うっふっふ。ニナってば、あせってるあせってる。おもしろーい。
「ニナ、俺への気持ちはウソだったのか?」
「そんなわけないじゃない!」
「だって!」
「なによ!」
 二人がヒートアップしている間に、脱出しちゃお。コソコソコソコソ。
 さってとぉ、ニナと坊やも、無事に脱出したかしら。
 いたたたた。人の心配している場合じゃないのよね。血がいっぱい出ちゃったし、アニー、ちょっと、もうダメみたい。
 でもコロニーは落ちるから、ま、いいか。天国に行ったら閣下のステキなピカピカ頭に、たくさんたくさんキスしてあげようっと。
「皆、いい?一人でも多く、アクシズ艦隊にたどりついてね。無事にたどりついたなら、私がいっぱいいっぱい愛して、あ・げ・る(はぁと)」
 ごめんね、皆。ウソよ。私、たぶん、生き残れない。でも皆は、生き残ってね。
 いたた。痛いってば、もう。こっちはケガ人なんだから、もっと優しく攻撃してよね。連邦って、ホント、女の扱いをしらない、イケてない男ばっかり。
 いったーい!あらぁ、今の、致命傷っぽいなあ。サラミス一隻、つっこんで沈めれば、ラッキーよね。
 閣下・・・それから、ロック、スミノフ、ケイタロウ、ジョセフ、アドルフ、キム、サンダー、ジョニー、ブラギノフ、リョウイチ・・・誰も忘れてないわよね・・・遅くなっちゃったけど、今、皆のところに行くからね。
 アニー、いっきまーす!・・・死ぬ前に、一度は言ってみたかったのよね(はぁと)

fin

作:プロト ◆xjbrDCzRNwさん


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