5.状態の準備 測定のフォンノイマンの解釈は、次のことを含意している。 測定は状態の準備でもある。 オブザーバブルAを測定するとき、その系XはAの固有状態にある。 この主張は解釈である。 それまで測定について見いだしてきたいかなることによっても、 それは含意されていない。 3節から次のことを思い出しましょう。 Aの固有状態の混合状態をXに付与することは、 Xがその純粋状態のうちのどれかにあるけれど、 そのどれにあるかは知らないということとは違う。 これがどういうことであったとしても、 ここで、他の基本的問題に直面する。 いかなる種類の相互作用が状態の準備でありえるか? 状態の準備というものは存在するのだろうか? 状態|a>に系のアンサンブルを準備するようなプロセスは存在するのだろうか? これは単なる解釈の問題ではない。 我々が問うていることは、状態を準備するメカニズムの可能性だ。 その機構を基底状態uをもつMとよぼう。 次のように提案したい。 状態xにある系Xにそれをつなぐと、 我々は次のような展開を持つ。 u*x→u1*x(もしx∈Sなら) →u1*〇(もしx∈S⊥なら) それゆえ、zεSでz⊥がSのなかにあり、y=z+z⊥なら、 u*y→u1*z このプロセスは、系Xを攪拌し部分空間Sの中の状態にするか、 ヌルベクトルにするかである。 ヌルベクトルはいかなる物理的状態も表現しない。 (破壊) 直感的例は、二つの存在を持つ シュテルン−ゲルラッハの装置である。 そして、その存在のうち一方を壁などに吸収させる。 しかし、このプロセスが実際に量子力学的プロセスなら、 それはユニタリー展開演算子によって支配されなければならない。 単純にするために次のことを仮定する。 Xが二次元ヒルベルト空間を持つものと仮定する。 それはS=[x+]、S⊥=[x-]をもつ それゆえそのプロセスはUに支配される。 U(u*x+)=u1*x+ U(u*x-)=u2*○ ユニタリーであるために、 Uに(Uy・Uz)=y・zであることを要求する。 すなわち内積の保存である。 それはすぐに計算できる。 (u*x+)・(u*x-)=(u・u)(x+・x-)=0 (u1*x+)・(u2*○)=(u1・u2)(x+・○)=0 このようにそうなっていることが分かる。 しかし、Uを次の内積の重ねあわせに作用させましょう。 (u*(ax++bx-))・(u*(cx++dx-)) =(u・u)(a*c+b*d) Uがそれらの二つのベクトルを何の内積に変えるかを計算すると、 次のようになる。 [(u1*ax+)+(u2*b○)]・[(u1*cx+)+(u2*d○)] =[(u1*ax+)+(u2*b○)]・(u1*cx+) +[(u1*ax+)+(u2*b○)]・(u2*d○) =(u1・u1)a*c+(u2・u1)0+(u1・u2)0+(u2・u2)0 =(u1・u1)a*c bとdが第一の式では出てきて第二の式では出てこないから、 一般には、二つの結果は一致しない。 それゆえUはユニタリーではない。 これらから、初等量子力学は、それ自身によって、 提案された意味での状態を準備するプロセスの可能性を否定している。 ちょっとしたミラクルが必要なように思える。 重ねあわせの選ばれた要素を実際に破壊する射影公準のようななにかを。 そのような原理を加えることは、 シュレディンガー方程式の普遍的正当性を否定することである。 いくつかの見解が存在する。ちょっとしたミラクルを加えることができ、 それを説明しないでほうっておく。 より洗練された、超選択則を持つ量子力学において、 コヘレントな部分空間の外側にある重ねあわせの要素を、 実際に破壊する。 それは我々に状態を準備するプロセスを与える。 しかし、それは、適切な超選択則があった時だけ働く。 それは完全に真ではない。そして、少なくとも、多くの種類の状態が、 この種の準備を許してはいない。 第三に、次のように言う事が出来る。 必要とされる意味で、シュレディンガー方程式が 普遍的正当性をもったとしても、状態の準備は可能である。 もちろん、その意味は上記で考えられた厳密な意味ではない。 また、再び、いくつかの選択肢が存在する。 ある人は、準備測定を定義するために、 繰り返し測定を定義するものに制限を加える。 第二の選択肢は、無限次元を探求することである。 今、次のことを示しましょう。 ここで受け入れられた経験主義的観点に基づいて、 無限を調べることは有用でもあるし正しいことでもある。 なぜなら、次のように仮定するからである。 上記の基底状態uをもつが、 {ui}はヒルベルト空間HMの基底ではない。 今ふたつの場合を考えよう。一つはヒルベルト空間が無限次元の場合。 もう一つは有限次元の場合。 まず第一に、上記の厳密な状態準備の不可能性の証明は、 無限次元への一般化をしない。 その結果をどのように有限次元に適応させるかを見る。 はじめに、対象系XがHMと同じ次元を持つヒルベルト空間Hを持ち、 これが無限であるとしよう。 Hが基底{xj}をもつ。 Xを攪拌して部分空間[xj:j≧k]=Sk+にする。 演算子Uを次のようにしましょう。 U(u*xj)=uj*xj+k これはユニタリー演算子である。 はじめに測定を議論したとき、k=0についてはこれを示した。 この場合も本質的に違いはない。 次のことがわかる。 U(u*Σcjxj)=Σcjuj*xj+k そして、この還元された状態は、Xを完全に部分空間Sk+におく。 Xが有限次元のヒルベルト空間を持つとどうなるだろう? 4章と5章で受け入れられた経験主義的アプローチは、 この前提に客観的身分を与えない。 Xを含む現象は、それの表記よりは少なくない次元を持つであろう。 与えられたヒルベルト空間でできることが何であれ、 H'がより小さな空間と同型である部分空間を持つとすると、 Hはより大きな次元のH'で表現される。 モデルの経験的適切さは、全ての関係する現象が それにおいて表現されうるということしか要求していないから、 正しいヒルベルト空間の次元に対する上限は存在しない。 これを適応するために、H=[x+,x-]の二次元の場合に戻ろう。 基底{xj}をもつ無限次元ヒルベルト空間H'をえらぶ。 そうすると次のようになる。 x-=Σ{cjxj:j<k} x+=Σ{cjxj:j≧k} それらは直交していることが要求されている。 Uとuを二つ前の段落とおなじ意味で使って、 つぎのようになる。 U(u*Σcjxj)=Σcjuj*xj+k これは、u'*x-の形の全ての状態と直交している。 だから、x-は、このプロセスの終わりで還元によって見いだされた Xの新しい状態とは、相対的に可能というわけではない。 それは完全に消える。 もちろん、結論が、系Xがそのようなプロセスに支配されるということなら、 次のようには主張できない。 Xに関する全ての現象は、有限次元ヒルベルト空間で表現できる。