4.3.フォンノイマン測定のクラス ここまでの我々の議論は一般的なものであった。 その議論のフォンノイマンの定式化にはじまった、 測定についての文献の大半は比較的単純なパラダイムに集中している。 フォンノイマンはもっとも普通に述べられるところのクラスを記述した。 前の議論に続けて、値を示すオブザーバブルの選択を表す関数cmpを 明示しないでおく。形式的に少し進む。 次のような条件を満たす測定セットアップS(Y,A)がフォンノイマンの測定である。 器具Yの基底状態が純粋状態y0とする。展開演算子をユニタリーであるとする。 対象系の初期状態がAの純粋固有状態なら、その終状態は同じ固有状態のままである。 ここには三つの特殊な条件がある。 純粋な基底状態、ユニタリーな展開、測定されるオブザーバブルの固有状態は撹拌されない。 このクラスが、特殊な場合として理想測定のクラスを含むことを見るのはたやすい。 次の条件を満たすなら、フォンノイマンの測定は理想的である。 値を示すオブザーバブルBは、Aと同じ値のスペクトルをもって縮退していない。 そして、(X+Y)の初期状態はT*Ty(0)である。 たいてい、議論は点スペクトルを持つオブザーバブルに限定される。 そうして、次のように仮定する。 Aは固有ベクトルの基底{|ai>:i=1,2,....}と結びついている。 Bは対応する基底{yi=|bi>:i=1,2,....}をもつ。 ai=ajならbi=bjだけではなく、|bi>=|bj>でもあるなら、 対応は多対一である。 それらの要求はそれゆえ次のことを含意する。 (1)U(|ai>*y0)=|ai>*yi (2)U(Σci|ai>*y0)=Σci|ai>*yi (3)[ΣpiI|a(i)>]*Iy(0) −U→ ΣpiI|a(i)>*Iy(i)                      =ΣpiI|a(i)>*y(i) (4)[Σpi(IΣc(ij)|a(i)>)]*Iy(0) −U→ ΣpiIΣ|a(i)>*y(i) ここで(2)は(1)からUの線形性によりすぐにでてくる。 (3)(4)は次の結果のためにでてくる。 両方の混合の還元された状態が純粋であるなら、 複合系の状態はテンソル積として一意に決定される。 フォンノイマンは次のことを指摘した。 そのような場合において、同じ測定の即時繰り返しの実行は、 同じ結果を生みだすだろう。 実際に次の理由で、彼は対象系をAの固有状態への射影を持つものとして記述する。 (2*)初期状態がφ=Σci|ai>*y0なら、終状態はφ'=Σci|ai>*yiである。 対象と器具のそれぞれの還元された終状態は、 #φ'=Σci2I|a(i)> φ'#=Σci2Iy(i) もし、オブザーバブルA*Iが上の終状態にある系にたいして測定されたなら、 結果は、再び確率ci2をもって、値aiを示すだろう。 しかしさらに、次のような二段階の器具を準備する。 第一段階でAを測定し、そのすぐあとに基底状態z0をもつ他のもので、 A*Iを測定する。そうすると、次のような展開を示す。 t=0:[Σci|ai>*y0]*z0 t=1:[Σci|ai>*yi]*z0 t=2:Σci[|ai>*yi*zi] これにおいて、完全な相関がセットアップされている。 次のような器具もデザインできる。 第三の段階で第一の段階と第二の段階が一致しているかどうかを確かめる。 これは次のことを要求する。 基底状態v0をもつ第三の段階が、次のような展開の性質を持つ。 [x*yi*zj]*v0 → [x*yi*zj]*v(ij) ここでv(ij)はi=jならv+、i≠jならv- もしt=0、1、2が上のようになっていて、第三段階が加えられたなら、 結果は次のようになる。 t=3:Σci[|ai>*yi*zi*v+] そうすると第三の器具の還元された終状態は純粋状態v+になる。 これははじめの二つの結果が一致することを示している。 この測定の繰り返し可能性は、フォンノイマンが非常に重要であると見做した性質である。 次の章で、彼の解釈においてそれがいかなる役割を演じるかを見る。 しかし、節4.6で、それが測定のクラスの証明できる性質として議論する。 フォンノイマンの測定がなんであるかということの結論の言明として、(2*)を取ると、 それが、文脈においてのみ、この種の理想測定を特徴づけることもわかる。 我々がもし文脈のことを忘れたなら、偶然的縮退の問題が舞い戻ってくる。 この場合、測定が、測定と値を示すオブザーバブルの相関に影響を与えるところで、 困難さが顕著な形で現れる。 これは、EPRのパラドックスによってもたらされた。 これでは、ある初期状態x*yがあるプロセスによって、次のような終状態に変わる。 (5)φ=Σci(xi*yi)=Σdi(x'i*y'i) ここで{xi}{x'i}は両立不可能な(比可換な)オブザーバブルBとB'の基底で、 {xi}{x'i}は両立不可能な(比可換な)オブザーバブルAとA'の基底である。 困難さは次のようなものだ。 もし(2*)が測定プロセスの定義されている性質で、 そのようなプロセスが終状態(6)をもつなら、 次のようにいうべきであろう。 Aが測定された。(値を示すオブザーバブルとしてBをもつ) A'が同時に測定された。(値を示すオブザーバブルとしてB'をもつ) しかし、非可換エルミート演算子は同時joint測定できないオブザーバブルを表現している。 この困難は次のようなとき完全に消える。 それが終状態ではなく、プロセス全体の性質であると主張する。 次のようなユニタリー演算子Uよって支配されるプロセスを考えましょう。 (6)U(x0*yi)=xi*yi (7)U(xj*y0)=xj*yj Uはユニタリーで、内積を与えるので、次が導かれる。 (8)(x0*y1・x1*y0)=(x1*y1・x1*y1)=1 (9)(x0・x1)(y1・y0)=1 (x0・x2)(y2・y0)=1も同様である。しかし、これは不可能だ。 xjもyiも互いに直交しているからだ。i,j≠0 joint測定の前の定理は理想フォンノイマン測定にも適応できる。 しかしこの場合次のように単純である。 特殊な初期状態を考察することによってより直接的証明を与える事が出来る。 joint測定の定理: もし二つのオブザーバブルがjointフォンノイマン測定なら、 それらは両立可能である。 これを証明するために、次のように考えましょう。 系Yが全く同時に、同じ基底状態y0をもつ AとA'の測定の器具であるとしましょう。 そうすると両方ともの測定が同じに行われる。 次のことを考えよう。 別々の数ci2を持つ状態x=Σcixi 次に、特に仮定を持たないdiを持つx=Σdix'iも考える。 プロセスの終状態は U(x*y0)=Σci(xi*yi)=Σci(x'i*yi) 特殊な還元によって、系Xは終状態T'=ci2Ix=di2I'x 数ci2はすべてバラバラだから、T'は一意の直交分解を持つ。 それゆえ、演算子IxとI'xの二つの集合は、同一である。 それゆえ、AとA'は両方単一のオブザーバブルの関数である。 それゆえ両立可能である。 4.4.フォンノイマン−リューダース測定 フォンノイマン自身は、彼の説明が最大ではないオブザーバブルに 適応できるかどうかの問題を提出した。 同様に、純粋な初期状態のような制限や、終状態における 測定されるオブザーバブルと、値を示すオブザーバブルとの間の強い相関が、 一般性を失わせてしまうかどうかをも問うであろう。 リューダースはより一般的な説明を与えた。 次のような理想化を保とう。 器具は、測定されるオブザーバブルAの各々の固有状態に対し、 値を示すオブザーバブルのひとつの純粋固有状態を持つ。 Axai=axaiである状態x=Σxaiにある系Xからはじめる。 Aと{xai}のそれぞれの固有値に対する領域は、 Aの単位固有ベクトルからなる空間の直交基底である。 あるaに対する{xa1,xa2,.....}によって張られる部分空間は、Aのa固有空間である。 IAaが部分空間上の射影とすると、x=ΣIAaxである。 もっとも一般的に、対象の初期状態は、そのような純粋状態の混合Tである。 そうすると測定の一般的な記述は次のようになる。 測定セットアップの展開Uはユニタリー、基底状態y0は純粋状態、 対象系の終状態は、測定されるオブザーバブルの固有空間の分割に対する 初期状態の条件づけ。 測定の一般的な概念の中には、そのプロセスの間に 対象系にたいして起こっていることに目を向けなければならないようなきまりはない。 測定されるオブザーバブルの固有状態に対象系があるとき、 対象系の状態が撹拌されないというのは、フォンノイマン測定の特殊な性質である。 部分空間上に対しての条件付けは単に部分空間への射影であるから、 その性質は、リューダース測定の性質でもある。 上の記述は次のことを帰結する。 対象系の初期状態がxaiなら、終状態も同じである。 全初期状態がxai*y0で、値を示すオブザーバブルが縮退していないなら、 全終状態はxai*yaである。 だから、フォンノイマン測定は特殊な事例である。 さらに、初期状態が、T=ΣpaIx(a)をもつT*Iy(0)なら、 そのconvex構造は保護され、展開がユニタリーであるという事実は、 終状態がΣpaIx(a)*Iy(a)であることを示している。 条件付けとの厳密な結びつきは次のようになっている。 明らかに、ベクトルIAaxは、 xと表記されている状態のAのa固有空間に対する条件付けである。 そのベクトルの長さの二乗は、測定における結果aのボルン確率に対応している。 条件づけの式を思い出し、IAaxをxaと書くと、 (10)xと表記されている状態のAのa固有空間に対する条件付けは、 次の統計演算子によって表現される。 Wa=Ix(a)/|xa|2=Ix(a)/|x(a)| 全初期状態がxai*y0で、値を示すオブザー バブルが縮退していない場合、 還元によって対象系の終状態を見いだすことが出来る。 (11)X+Yの終状態は次のようになる。 ΣIAax*ya=Σxa*ya=Σ|xa|(xa/|xa|*ya) (12)Xの終状態はΣ|xa|2Ix(a)/|x(a)| しかし、これはAの固有空間からなる分割に対する初期状態Ixの条件付けである。 まったく同じことが対象の混合初期状態でもおこる。 すなわち、対象の還元された終状態は対象の初期状態の条件付けと同一である。 完全なリューダースの規則は次のようなものだ。 (13)Aを測定するとき、対象がはじめに混合状態Wにあるなら、 全終状態の還元は次の対象の還元された状態を与える。 W'=ΣaTr(WIAa)WAa ここでWAaはAのa部分空間に対するWの条件付けである。 Tr(WIAa)は、もちろん、結果aに対するボルン確率である。 WAaがなんであるかを思い起すなら、還元された終状態は次のようなものである。 (14)W'=ΣaTr(WIAa)(IAaWIAa)/Tr(WIAa)       =ΣaIAaWIAa これはより単純な表現である。通常は次のようになる。 この議論をより正確にすると次のような表現になる。 次のような場合、 測定セットアップS(Y,A)はフォンノイマン−リューダース測定である。 器具Yの基底状態が純粋状態y0で、 展開演算子がユニタリーで、対象系Xの還元された終状態が 還元された初期状態TのAの固有空間に対する条件付けであるようなものである。 値を示すオブザーバブルが縮退してないで、Aと同じ値のスペクトルをもち、 X+Yの全初期状態がT*Iy(0)である。 フォンノイマン測定の推論の多くは、このより一般的なクラスにも使われる。 jointlyに測定可能なオブザーバブルは理想的な場合、両立可能であるということは、 値を示すオブザーバブルの非縮退によってたやすく示される。