ソケットの考察
06.05.01
目次
■ 初めに
■ ソケットの形状の種類
■ ソケットの構成の種類
■ 私のお勧めソケット
■ 初めに
体と繋がる部分、ソケットは義足を構成する中で最も重要なパーツです。
ソケットさえ適合していれば、キレイに歩くこともでき
長く歩いても疲れにくく、キズもできにくいため、装着のストレスが大きく緩和されます。
もう一つの側面は
最も扱いの難しいパーツだということです。
「いいものが欲しい」とユーザー側が願っても、義肢装具士の手作りなので
作る側の義肢装具士の知識経験や、技量。
完成後、問題のある箇所を修正する際のユーザーと義肢装具士との連携。
ひいては「良いものを作りたい」と願うユーザー・義肢装具士それぞれの
熱意がとても大切だということです。
新たに義足を作りかえるということは
ユーザー・義肢装具士それぞれに、けっこう面倒な作業です。
なので、結局「今のソケットから変わりたくない」という心理がユーザー側に働いて
結局、以前のソケットのコピーを繰り返すという例も少なくありません。
ここで
私がソケットを作り始めてたどり着いた過程を紹介します。
私自身、ソケットが合わなくなるのを恐れてコピーをお願いしたことも
過去ありましたが
断端にピッタリ適合したソケットの気持ちよさを味わってしまうと
「新しいソケットが欲しい」という気持ちが強く芽生え
以来、作るたびに新調し、新しい技術があれば出来るだけ取り入れるように
してきました。
ここで、そうした過去作ってきたソケットの経験を元に
レポートを作成しました。
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■ ソケットの形状の種類
ソケットの形状を写真と合わせて説明します。
MASソケット
06年3月 作成IRCソケット
(坐骨収納型)
02年9月 作成四辺形ソケット
01年11月 作成◆ 前
MASソケットの特徴の一つが、前面のえぐり。四辺形・IRCの端部が直線的な形状なのに対して、MASはV字を描くようなエグリがある。この形状のため、足を前に大きく振り上げることができる。
◆ 内股
四辺形・IRCが恥骨を逃げる程度の軽いエグリになっているのに対し、MASは坐骨の乗る部分から一気に端部を下げている。◆ 後
この形状でも特徴的なのがMAS。深くU字にえぐられており、これがMASソケットならではの座った時の抜群の快適さを実現している。◆ 上
それぞれ、坐骨支持という点では共通だが、四辺形では前後寸法がつめられ、IRCは左右寸法、MASは坐骨面の対角線上の寸法をつめている。傷の出来にくさ ◎ ○ △ 腿の可動域の広さ ◎ △ △ 断端の形状変化に対する融通性 △ △ ○ 座った時の快適性 ◎ △ △ スポーツへの対応性 ○ ◎ ○ 自転車の乗りやすさ ◎ ○ ○ 総合評価 ◎ ○ △
総合評価ではMASソケットが最も優れているように思います。
最大のメリットとして、もともと傷の出来にくい形状だからです。
坐骨支持以外の端部を下げることで、皮膚に負担をかけないため
擦過傷等の傷が大幅に軽減できると思われます。
また、座った時の快適さは比較するまでも無く
四辺形やIRCでは、お尻にソケットをはさむカタチで押上げられる違和感が
MASにはまったくありません。
MASで強いてデメリットを挙げるとすると
端部が全体的に下がっているため、坐骨に荷重が集中して
調整が非常にデリケートなこと。
また、従来四辺形やIRCなどを使っていた人がMASに変えると
最初、不安定な印象をもつかもしれません。
IRCソケットは、坐骨をロックしているのが特徴で
四辺形の左右への安定性の無さを補い、内股の傷を出来難いように
工夫されているのが特徴です。
MASに比べ、ソケット端部が高いので安定感もあり
力の伝達は優れているように思います。
四辺形ソケットは、この3種類の中で最も歴史があり
長い間、坐骨支持ソケットのオーソドックスな形として採用されてきました。
今でも、切断初期の断端の形状の変化の激しい患者に処方されることが多く
調整の融通性は高いと考えられます。
ただ、坐骨を乗せるだけなので歩く動作の際、ソケットが外に逃げる傾向があり
そのため、内股に擦過傷のような傷が出来易いという
デメリットがあります。
融通性の高さで未だに四辺形ソケットを処方する義肢製作所は多々あります。
融通性が高いということは、義肢装具士の視点で見ると
手間のかからないソケットということになります。
ただ、確かに切断初期の断端の変化の大きい時にMASを処方したら
調整がシビアすぎて大変なのは分かりますが
出来る事なら、最初からMASやIRCを処方してくれた方が
患者重視という点ではあるべき姿のようにも思うのですが。
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■ ソケットの構成の種類
ソケットの構成を写真と合わせて説明します。
シリコンライナー式
ソケット
(シリコンライナー+
ハード)ISNYソケット
(2層式吸着)ハードソケット 傷の出来にくさ ◎ ○ △ 履く時の容易性 ◎ △ △ 軽さ △ △ ◎ 衛生管理のしやすさ ◎ △ △
ここで「形状」と「構成」との違いに触れておくと
たとえば「形状」を「IRC」として、ここの3種類の「構成」のどれでも
作成可能です。
例として、形状がIRCのハードソケットもあれば、四辺形での
シリコンライナー式ソケットも作成可能です。
原則としては「形状」と「構成」との組み合わせは自由だということです。
ただ、MASに限っては推奨ではシリコンライナー式で、更にISNYソケットと
組み合わせることとなってますが
私は、重くなることと完成後の外寸が大きくなりソケットがごつくなるのを
嫌ってシリコンライナー+ハードソケットの組み合わせにしました。
シリコンライナー式ソケットとISNYソケット・ハードソケットとでは
履き方が大きく異なります。
シリコンライナー(主としてアイスロス)式はインナーである
シリコンライナーを靴下のように履いてから、それをソケットに差し込みます。
対して、ISNYソケット・ハードソケットは
布を断端に巻いて、その布をバルブを外した穴から出して引き抜きます。
ですから、高齢な方や両足切断のケースでは
この布を引くという力のいる動作が難しいなどの理由から
シリコンライナー式を勧めるケースがあり
力をさして必要としないという意味で「履く時の容易性」を
シリコンライナー式が「◎」になる理由としてます。
傷の出来にくさについては圧倒的にシリコンライナー式が有利です。
理由として、ISNYやハードタイプのソケットは布で引っ張り
皮膚全体でソケットに吸着するため、義足が捻られたりすると
皮膚にダイレクトに負担がいき、結果、傷になりやすいのですが
シリコンライナー式は、ソケットにくる外力をインナーでワンクッションおくので
よほど問題がない限り、痛みは出ても傷になることはまずありません。
「衛生管理のしやすさ」は圧倒的にシリコンライナー式が有利です。
理由としてインナーであるシリコンライナーは水につけても平気なので
お風呂に入る時などに一緒に入れて石鹸で洗ってあげれば
常に清潔な状態を維持できます。
こうしてみていくとシリコンライナーが圧倒的に優位なように思われがちですが
一つ重要なのが履き心地です。
シリコンライナーは靴下のキツイものを履いた場合のように
全面から一定の圧迫感を常にかけられ続けています。
対してISNYやハードソケットなどの吸着式の場合
皮膚全体で貼り付いているような感覚であり
それぞれの感覚には大きな違いがあります。
私自身はシリコンライナーの感覚の方が好ましく思いますが
人によっては、吸着式の感覚の方が好みだという場合もあり
一概にシリコンライナーがお勧めとは言い切れない理由がここにあります。
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■ 私のお勧めソケット
私のお勧めソケットは
MAS+シリコンライナー+ハードソケットの組合せです。
MAS+シリコンライナー+ISNYソケットでも良いと思います。
この組み合わせが
私が今まで試した中で最も傷ができにくく
ストレス無く使える構成です。
今まで使い慣れた方式や相性、担当の義肢装具士さんの得手不得手等も
関係しますので万人にこの組み合わせがお勧めとはいえませんが
少なくとも理論上は最も傷に悩まされにくい構成であり
履いたり脱いだりの煩わしさも布を引っ張る動作が必要ないという点で
優れているように思います。
私にとっては今の段階ではベストの構成です。
おまけ
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