ラックスA3032
       コントロールアンプ
 製作:1979年


 A3032は、ラックスキット社の管球式コントロールアンプ・キットです。これはラックス・ブランドの
コンパクト型コントロールセンターCL32をそっくりそのままキット化した製品で、コントロールアンプ
としての性能追求を徹底的に行っています。回路構成上では、とくに歪率特性、耐入力特性、位相
特性などの改善を図っているわけですが、このほか合理的なシャーシ構造により、信号経路の配線
に使われるシールド線をほとんど取り去り、入力回路も最短コースで配線し、回路はプリント基板化
するなどして長期にわたる安定性と、管球式アンプとしてはぬきんでた素晴らしい周波数特性、高
SN比を得ています。勿論、機能的には必要と思われるものはほとんど揃えていますが、音質調整
機能はプログラムソースの補正を積極的に行えるよう独自のリニア・イコライザだけに絞り、どちら
かといえば汎用型のトーン・コントロールは省略することにしました。
優れた歪率特性、耐入力特性などを実現するためにSRPP出力段を採用した3段K-K・NF型の
イコライザ回路、裸特性を重視した2段P-K・NF型のフラットアンプ回路、特に実用レペルでのSN
比改善を図ると共に、正確な減衰量が得られる4連型の音量ボリューム、アクティブな素子を使わず
それでいて可聴周波数帯域への影響を最小限に押さえ、不要な超低域だけをシャープにカットする
新型フィルター回路、入力インピーダンスが高く出力インピーダンスの低い出力回路として最適な
カソードフォロア回路など、すべてにわたって検討に検討をかさねた上で採用した回路構成です。






[回路構成]

イコライザ回路

 コントロールアンプのイコライザ回路は、レコードを再生する場合、音質に最も大きく影響を与える
部分です。つまり、イコライザ回路の設計の良否がコントロールアンプの性能を左右すると言っても
決して言い過ぎではないということです。どのような回路構成を採用したとしても優れたイコライザ回
路に仕上げるためには、微小な信号を取り扱うために出来る限りSN比を良くすること、RIAA補正
カーブが正確であること、この段の後に接続される厳しい条件にも左右されない高い安定性を確保
すること、全可聴周波数帯域にわたって低歪率であること、どんなカートリッジが接続されても、どん
なにダイナミックレンジの広いレコードでも十分に満足できる耐入力特性を確保することなどが要求
されます。本機のイコライザ回路とNF型イコライザ回路の両方から追いかけました。それぞれ、
SN比、位相特性、歪率特性、耐入力特性などいろいろな面から全て検討を加えたわけですが、その
結果音質に関係すると思われるところを完全に同じ条件にしてやれば、いずれも優劣つけがたい
ようです。しかし、管球式アンプの場合CR型イコライザでは満足のゆくような諸特性を確保しながら
SN比をよくすることが難しく、トータル的にみてNF型イコライザの法が優れているという結論に到達
し、これをもとに発展させてゆくことにした。
本機のイコライザ回路は、基本的には3段K-K・NF回路(出力段のカソードから初段のカソードへ
負帰還をかける)方式です。この構成では、普通は出力段にカソードフォロアが使われますが、ここ
ではこの代わりにSRPP回路(シャント・レギュレーテッド・プッシュプル回路)を採用しています。
これが従来の回路との違いです。
出力段には並列制御型SRPP回路を採用しているわけですが、これはカソードフォロアと同じ働きを
すると考えてもよく、ゲイン(利得)がありません。この回路の特徴は、出力電圧が大きくカソード
フォロアと較べて歪率特性が一段とすぐれていることで、入力インピーダンスが高く、出力インピー
ダンスが低いことはいうまでもありません。
SRPP回路では、カソードフォロアのRkのかわりにV2が挿入され、V2のコントロール・グリッドには
V1の出力電圧と逆位相の入力で制御される点から、一種のカソードフォロアと考えることが出来る
わけです。このときのV2は、単なるカソード抵抗の代わりをするということだけでなくV1の非直線性
動作を補正するように働き、出力段としてのリニアリテイが改善されることになります。又、入力
インピーダンスが高いので2段目の負荷条件としては理想で耐入力特性の改善にも役立ちます。
さらに出力インピーダンスが低いと言うことは、後に接続される厳しい負荷条件にも左右されない
高い安定性を確保することになります。
初段と2段目には、とくに厳選した低雑音タイプの12AX7を採用し、SN比の改善を図っています。
また、これらの段の動作点の設定には十分な検討を加え、互いに波形歪を打ち消させるようにして
歪率の改善を図っています。加えて、2段目のプレートと出力段から初段のプレートに局部帰還を
かけ、メジャーNFがかけられる前の裸特性を良くする工夫をも施し、このイコライザ回路全体の
優れた歪率特性の実現を図っています。

フラットアンプとリニア・イコライザ

本機のフラットアンプ部は、3極管による2段構成で、22dB(約13倍)のゲインを得ていますが
バランスボリュームにB型カーブのもの(中央位置で6dB減衰する)を組み合わせてアンプのゲイン
をむやみに押さえず、適切なトータル・ゲインを得ています。これは、3極管の2段構成で、それほど
ゲインを必要としない場合には、どうしても負帰還の量が大きくなり、帰還用の抵抗が小さくなって
しまいます。この抵抗は、2段目の球のプレート負荷抵抗と並列に接続されることになり、高出力
時の歪率特性を悪化させることになるわけです。したがってこの2段アンプゲインを極度に下げず
に、挿入損失の大きいバランス・ボリュームを組合わせて、適切な総合ゲインをえているわけです。
また、ここでも2段構成のP-P間(プレート・プレート間)に局部的な帰還をかけて、メジャーNFを
かける前の裸特性を改善し、すぐれた歪率特性を実現しています。
このフラットアンプは、本来、平坦な周波数特性をもったアンプとして動作するものですが、本機では
プレート回路の帰還素子を切り替えることによって直線的な傾斜をもった周波数特性を得ることが
出来るようにしています。これをリニア・イコライザと称しています。

音量調整用4連ボリューム
コントロールアンプの音量ボリュームには、一般的に2連ボリュームが使われています。このボリュ
ームを挿入する位置は、フラットアンプ部の前か後かというのが普通です。フラットアンプ部の後に
置けば残留ノイズの点では有利になりますが、耐入力特性の点では不利になるという二律背反の
状況が生じます。SN比も、耐入力特性も、ユーザーにとって十分に満足できるレベルを実現する
ことが必要で、実際にはフラツトアンプ部のSN比を出来るだけ改善しておいて、フラットアンプ部の
前に音量ボリュームを設けるという手法を探っているわけです。
2連ボリュームでは、このような手法を使ってこれらの問題を解決しているわけですが、4連ボリュ
ームに適切なものがあれば、アンプの入口に近いところとアンプの出口に近いところの2箇所に
入れることが出来、2連ボリューム採用の時よりも耐入力特性を満足させながら、更に高いレベル
の実用上のSN比が得られることになります。
本機の音量ボリュームには、このような条件を全て満たすことが出来るように、4連のデテント型
ボリュームを採用しています。このボリュームは、0〜−10dB、−10dB〜−30dB、−30dB〜∞
と3分割にし、0〜−10dBまではフラットアンプの後のボリュームが動作し、−10dB〜−30dB
まではフラットアンプの前のボリュームが動作し、−30dB〜∞までは再びフラットアンプの後の
ボリュームが動作するように設計されたもので、実際使用時のSN比の改善と耐入力特性の
悪化を防いでいます。もちろん、音量ボリュームを絞りきれば残留ノイズは皆無となります。更に、
このボリュームには高精度の連続可変型で音質の問題も十分に検討したものを採用しています。

超低域用フィルター回路
レコードのソリによるノイズ、トーンアームの共振によるノイズ、テープのワウなど、実際には耳に
聞こえない10Hz以下の超低域の雑音も、レベルが大きくなればスピーカーのコーン紙を動かし
混変調歪みの発生原因となります。そこで本機では、可聴周波数帯域への影響を最小限に押え
ながら、音質に好ましくない超低域の雑音を取り除くことにポイントを絞り、フィルター回路を構成
させることにしたわけです。フィルター・スイッチの標示はLOWCUT,DEFEAT,SUBSONICと
なっており、効果的に減衰する周波数はLOWCUTで20Hz以下、SUBSONICで10Hz以下です。
さて、この超低域の雑音を取り除くためには、どのようなフィルター回路を採用すればよいかという
問題があります。可聴周波数帯域に影響を与えずに、超低域の雑音を取り除こうすれば、出来る
だけシャープな遮断特性が必要となります。この目的に合うフィルター回路には、アクティブ素子を
利用したNF型回路がすぐに浮かんできますが、本機の場合、出来るだけシンプルな回路構成とい
うことで、アクティブな素子を使いたくなかったものですから、コンデンサと抵抗だけで構成出来る
ツインT型回路を採用することにしたわけです。
このツインT方フィルター回路の特徴は、アクテイブ素子を使わずに、コンデンサと抵抗だけで構成
でき、そして、ある特定の周波数帯域をシャープに減衰させることが出来るところにあります。
本機では、さらにフィルター効果を高めるため、ツインT型フィルターにCR1段フィルターを組合わ
せ、総合特性として超低域を取り除く効果的なフィルターに仕上げています。



[正面]


[上面]


[裏面]



規 格 と 特 性

出力電圧    定格2V
全調波歪率  0.03%以下
         (出力2V,20Hz〜15KHz)
周波数特性  10Hz〜40kHz (−1dB以内)
入力感度    160mV(AUX)



周波数特性
周波数特性およびフィルター特性(PRE,OUT出力)


ブロック図




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