正面に島崎藤村像が置かれている

◇MEMO帳◇

 

 

 

 

藤村記念堂2006.09.26

 

 


簡素な細長い建物である

 

「木曽路はすべて山の中である」木曽を訪れると、この文章が頭に浮かぶ。

藤村の小説のごとく、木曽は山に囲まれている。

藤村記念館は馬籠宿の真ん中にある。黒い冠木門(かぶきもん)をくぐると、正面の白壁に藤村の言葉を記した朱塗りの扁額がかかっている。冠木門の黒と白壁の白と

扁額の朱のコントラストに心打たれる。白壁の奥に何があるのか・・・・

血につながるふるさと

心につながるふるさと

言葉につながるふるさと

白壁の左には木を植え、人は自然に右手の記念堂に進むように設計されている。

入場券に『簡素』と、書が記されている。書のことを訊ねると、「藤村が好んだ言葉です」と、教えられた。

生家は江戸時代 本陣・問屋・庄屋の旧家で、明治28年の大火で焼失した。その後、地元住民の勤労奉仕により、その地に、谷口吉郎氏設計の藤村記念堂が建つ。

 

   

谷口氏は本陣跡に建物を計画せず、本陣の礎石、土蔵跡を中庭とし、往事のおもかげを偲ぶ空間とした。地面に礎石だけ残るその空間は、観る人の想像をかきたてる。

造り付けられた長椅子に腰かけ、中庭をひととき眺め、感慨にふけった。

藤村記念堂は、『簡素』を好んだ藤村の気持ちをくんだ、すばらしい建物である。

無性に藤村の詩を読みたくなった。

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